第55話 ぜえったい金の斧
「ぎょええええええ! ミーティアちゃんの、そこそこ大事だった旅たちの時になぜか一緒に住んでいた隣部屋のシンが突然渡してきた銀のネックレスが盗られたあああああああああ!」
なんというか、自業自得とも思うがミーティアのアイテムは盗られた。
そりゃ銀のネックレスと、あんなに属性ましましのネックレスどっちが欲しい? って言われたら高価なほうだろう。
しかも嘘をつけれないってなんだ。
「んまっ選択肢を間違えたほうが悪いのよ? 不満なら沈めるしー」
「大事な事だまってやがった……」
「失礼な事いわないでよー……答えも全部教えてるのよ? 女神イズーミは人間の願いを叶えてあげたいの。優しいわぁ」
俺のズボンを引っ張る力が加わった。
下を見るとミーティアだ。目には薄っすらと涙を浮かばせている。
「ミーティアちゃんアレ嫌い! 前みたいにズバってやっつけて!! あの顔腹立つ!!」
「…………無茶言うな」
泉の落とし物イベントであって、討伐イベじゃない。
そんな簡単に倒せるわけないだろ、あの余裕っぷりは腹が立つが、まだ話の通じる相手だ。
「クィル行ク」
クィルが一歩前に歩くと手には大きな木箱を湖に沈めた。
無数の手がその木箱を水中に沈めると、先ほどと同じく左右対称にアイテムを浮かばせてくる。
「はい。ええっと……果物……食べかけのリンゴが入った箱……わかったわ。貴方が落としたのは食べきるのがもったいなくて大事にとっておいたリンゴ。それとも、食べても食べても無くならない黄金色のはちみつリンゴかしら?」
「おうゴンのはちみつりんゴ!!」
あ、うん。
即答か、そうだよね。
「この女神イズーミが言うのもなんだけど、何でそんな自信満々なの?」
邪神イズーミがそういうのもわかる、クィルはむふーと勝ち誇ってるからである。
「くろうベル!」
「なに?」
「とりかえしテ」
…………無茶いうな。
「仕方がない……イズーミ! その食べかけのリンゴが入ってる箱はゴミじゃないのか? そのゴミだったら湖がゴミだらけになるのもあれだろ? 引き取る」
「少し大事な物にゴミなんて無いわよ。はい没収、ねー早く願いを叶えさせて。後2人なの後2人で10000人なの!」
俺の提案も無視されクィルのちょっと思い入れのある物は無くなってしまった。
クィルすまんな。ってか食べかけの生ごみはちゃんと捨てたほうがいいぞ……。
俺がそう思っているとクィルは案の定アリシアに『食べかけは捨てるようにしてね』と怒られている。
盗られたショックより落ち込んでいるのが見えた。
「仕方が無いわね……じゃぁこの男性はコレクションとして貰って行くわよ……10000人まで、あと何十年待たないとダメなのかしら……」
水の中に捕らわれたクウガと半裸の邪神イズーミが湖に沈んでいく、上半身が見なくなると既に頭だけだ。
急いで呼び止める。
別にクウガが大切では無くてクウガを見殺し? にした事実だけが残って後味がめちゃくちゃ悪いからだ。
俺自身は知り合いが無くなった……と一時的には悲しむぐらいなんだろうけど、アリシア達がどうなるか。
「判断が早い! 早すぎる。もう少し考えたほうがいいぞ」
「そう? そうかしら。うん、そうよね! だって久々に話しがわかる人間なんだもん聞くべきよね」
あぶねえ。
クウガに関しては俺を殺そうと、実際には殺したけど。アリシアは何の落ち度もないからな……。
やっぱヒロインは悲劇より幸せのほうがいいに決まってる。
クウガと共に邪神イズーミは再び湖の上にせり出て来た。
「じゃぁ次はボクかな?」
ノラが手をあげると一歩前に出る。
「あら、可愛いぼうやは何をくれるのかしら?」
「何もあげないよ」
ノラは小瓶をもっており、それを湖からでている手に手渡した。
その手はゆっくりと湖に消えていく。
「変わった人間から聞かなかった? ゴミは受け付けないわよ?」
「とんでもない。ボクにとっては少し大事な物だよ」
「じゃぁ判別するわね」
沈んいた手が戻ってくる。
右の方には小瓶。
左の方にも小瓶だ。
全く同じ小瓶がふたつ出て来た。
「へぇ……」
自称女神の邪神イズーミが不敵に笑う。
ノラのほうは笑顔でそれに対抗した。
度胸が凄い、将来きっといい女になるだろう。
「貴女が落としたのはこの、少し大事な記憶の入った小瓶かしら? それとも……」
「記憶!?」
思わず叫ぶとノラが少しはにかんだ。
「ちょっと、まだ質問の途中なんだけど、普通なら即湖に沈めるわよ?」
「うん、クウ兄ちゃん色々考えた結果記憶ならどうかなって、記憶より上な物は無いよ。だからボクが思うに全く同じ物が出てくるはずなんだ」
さすがノラ。いやノラ様だ。
俺含む、ミーティアやクィル、アリシアもすごい! とノラを見ては尊敬の目を向けていた。
「いや、照れるよ」
1人だけ唇を真横にした師匠が近くにいた。
「あれ? 師匠何か考え事ですか? これで終わりますけど……まぁあのクソ邪神に一泡吹かせられなかったのは我慢するしか」
「ノラよ。気をつけるのじゃ」
俺の話を一切ガン無視した師匠がノラに忠告をした。
「師匠! 新手のイジメ!? 無視するだなんて」
「ええい! 触るな! 無視していたわけじゃないわ、先にノラの忠告が先じゃ」
ノラは大丈夫だよ。というと自称女神の邪神イズーミに話しを振った。
「終わった? じゃぁ行くわね。小瓶の形は同じ、貴女が落としたのはこの少し大事な【とある2人に助け出されて一緒に食事をした、なんてことはない小さい幸せ】の思いの入った小瓶」
ノラの小さい幸せって……しかもとある2人って俺と師匠の事だよな。
ノラを見ると俺と一瞬目が合った後そむけた、少し顔が赤い。
「それとも【貴女が幸せと思う最高の記憶】の入った小瓶。どちらを落としたの?」
「……ボクはそんな存在しない記憶なんて――……え?」
ノラの動きが止まった。
邪神イズーミを見ると指をクルクル回している、見えない光線を撃っている感じでノラはそれに直撃だ。
「はい。おためし体験はここまで」
ニヤニヤとすると、ノラは膝から崩れ落ちた。
「ノラ!」
「クウ兄さん……ボクもうだめかも。ボクが望んでいた記憶が入りこんだんだ……もちろん嘘の記憶ってわかってる。で、でも……」
「どんな記憶を」
「い、言えるわけないじゃない!」
ノラが俺に怒鳴って来た。
「お、おおう……ええっと何かごめん」
「ご、ごめん。怒鳴るつもりは……いいよ。どうせ正直になるしかないんだ。負けを認めるよボクのささやかな楽しい記憶より、そっちの記憶がいい……」
ノラが負けを認めると小瓶ふたつは湖に消える。
「ノラ……」
「口では説明できないけど、ちょっと大事な記憶がなくなった感じがする」
「その俺達と一緒に食事をした記憶だって」
「うん。言葉ではわかっているんだ、その記憶が最初からない……多分……4日目の朝と思うんだ。その時間だけの記憶が全く無いんだ……ごめんクロー兄さん」
ノラは落ち込み後ろに下がる。
全体的に悲壮感が漂ってきた。
「次は、うん私の番だね!」
アリシアが前にでる。
手にはオタマをもっているが……嫌な予感しかない。
間髪入れずにオタマを湖から出てる手に渡すと、すぐにオタマがふたつ水面から出てくる。
「貴女が落としたのは、普通のオタマ。それとも食べた人を幸せに出来るオタマですか?」
「…………後者です……」
「はい、没収」
俺含め全員が無言になった。
「その女神であるワ・タ・シ、イズーミが言うのもなんだけど、この流れで良く出て来たわね。見るからに素直そうな顔してるわし」
「だって…………うう、クウガ君助けたいし……」
ええっと残ったのは俺と師匠だ。
「別に一人何回までってルールはないわよ。叶えた瞬間に権利は無くなる仕組みなんだけど」
「その度にいちゃもんつけて大事な物を没収するんだろ?」
「ルールだもの」
じゃぁ俺の番か。




