第53話 鉄の斧、金の斧
1人整備された道を歩く。
クィルが助けてくれたのは意外だったがまさか矢を射るとは思わなかった。
俺もミーティアと一緒にちびるかと思ったぐらいだ。
さてクウガがいなくなって2時間ほど起つらしいがまだ帰ってこない、別にクウガだって弱くは無いんだしほっといてもいいだろうに。
アリシアは心配性である。
自分で俺に頼んだ割に、《《本当に気をつけてね》》。と俺まで心配された。
「へっくちん」
突然のクシャミが出るので俺はハンカチで鼻をかむ。
誰かか噂してるのかもしれない。
師匠かアリシアか……さて教わった通りの道を行くと湖が見えた。
「まぁ湖の場所は知っていたんだけどさ」
小ぶりな湖で透き通った水が見える、魚は見えないがゲームではなぜか釣れる、という世界ふしぎ体験の一つの場所だ。
リアルではやったことが無いがゲームではある。
日本にいた頃、特に俺の生活環境は霧がかかったように思い出すのは難しいが、それでも断片的に覚えてる。
「さて、アリシアの話では……この辺にいるらしいけどクウガー!」
呼びたくもない名前を叫んで少し待つ。
返事がない。
「まいったな……」
一応水面を覗いてみても透き通った水が見えるだけで、奥の方を見てもクウガは沈んでいたりもない。
「ほなちゃうかー……」
昔テレビで見たフレーズを言いながらもあたりをうろうろする。
湖の周りにある泥や土に足跡があるのでここで間違いないはずだ。
むしろ湖から離れた場所に足跡はない。
「あのー」
湖から半裸の女性が出てくると俺と目が合った。
ああ、湖の女神か。
よくある、落とした物を拾ってくれる女神で、落とした物を聞いてくる。
高級品と落とした物の二択を迫られ、正直物にはちょっといい品物。嘘つきは没収という最悪の女神である。
むしろ邪神じゃん、とゲームをプレイしながら思ってみたもんだ。
「おーい! クウガー!」
「ええっと……聞いてる?」
「いないかー」
近くの小岩に座って湖を眺める。
湖からは相変わらず半裸の女神が俺を見ているぐらいで何も変わった事はない。
「しかし何もないな……」
「目の前にいるし、あるでしょ! ウォーターシャベリン!」
「水盾」
女神が放った水槍を俺は水盾で防ぐ、同じ水属性の魔法で、俺の方が威力が高い。
「なっ……ええ……貴方水魔法が使えるの? それもわたしより強いじゃない」
「帰るか……うん。クウガはいなかったか、別の場所か……」
「まさかの無視。まってよ”よ”よよー!」
涙声の女神は俺の足にまとわりついてくる、必死に力を入れるも中々に強くってかズボンが濡れるし辞めて欲しい。
「わ、わかった! わかった! 離せ!」
「ホ、本当? 無視しない?」
そもそもクウガを探しに来てるのに、変な女神にかまっている暇はない。
俺は近くの岩に座ると半裸の女神の話を聞く事にした。
「私は湖の女神、イズーミ。人間の善悪を見て正直者には祝福を与えるの」
「それで」
「あれ? お、驚かないのね。祝福よ?」
「それで?」
俺が二回目を聞くとイズーミは少したじろく。
そもそも知ってる。
あと本当に祝福だけか? こう言う奴は本当の事を言ってるが、言わなくていい事は聞くまで黙ってる。
「よし、話は聞いた! 終わり」
俺は素早く立ち上がると転んだ。
足元を見ると女神イズーミは俺の足を掴んでいる。
いくら俺が努力して強くなったとしても、水属性の魔物……この場合は自称女神なんだけど。とにかく水に水をぶつけても効果は薄い。
「まってよ”よ”よ” いま9998人なのよ。1万人の願い叶えたら戻れるの、ねっ助けてよー!」
「ん? 9999人じゃなくて?」
「9998人よ。天界に帰りたいのよ。不幸と思わないの? 帰りたくても帰れないのよ」
ああ。そうか……このイベントはもっと後だから人数が足りないのか。それにしても1人しか変わってないとかどんだけ人気無いんだこの場所。
「でも君。邪神って言われた精霊でしょ」
「え”?」
「いや本当の女神なら……いるかは知らないけど無償で助けるでしょ。落としたアイテムを受け答えで交換する、失敗すれば落とした物をかっぱらうとか」
「まって! ちゃんと良い物に交換した!」
「それが間違いなんだよ」
足を離してくれないので座りなおす。
イズーミの手が不自然に伸び、絵的に気持ち悪いが仕方がない。
「例えばこの剣。これは俺の恩師から受け取った剣だけど、仮に落としたら」
「正直者にはフレイムソードを上げるわ! 魔法攻撃が出来る伝説級の武器よ!」
うわぁ凄い嬉しそうな顔。
「いや。そんなのいらないんだけど。俺はこの思いでが詰まった剣がいいだけで。代わりの物はない、仮にまったく同じ物の新品をよこされても俺は納得がいかない」
「そうなの?」
「そうだよ!」
よし話は聞いた。
「次回がんばってね……あの、離して」
「やだ」
「やだっていってもこっちは人を探してるし」
「女神イズーミも人を探しています」
そんなキラキラした目で見られても。
し方がない。
俺はポケットにある鼻をかんだハンカチを湖に投げた。
「うわぁ大事なハンカチを落としてしまった」
「…………ゴミを捨てたわね」
湖全体から手が生えて来た、その数ざっと30本。その手が伸びてくると俺の手足をがっしりと掴みだす。
もうホラー漫画だよ!
「ち、違う!」
「このハンカチには思いがない……昔人をゴミと思っている王がいたの、その王は人間を入れました。どうやって恩返しをしたと思う?」
「お、強力な兵士を上げたとか」
「ううん。王以外全部たべちゃった」
やっぱ邪神じゃねえかああ!
「つ、次は気をつけるよ……で何をして欲しいんだ? 後掴むの離してくれる?」
「すっごい、この状態でも気丈にふるまえる人久々に見た、わかった放してあげる」
そりゃどうも。と礼を言おうか思って辞めた。
うわ、もうあちこちずぶぬれだよ。衣服が濡れて気持ち悪いのなんのって……。
「思いの詰まった物を泉に投げて」
「と、いってもなぁ……ああは言ったけどこの剣もいずれは古道具屋行だし……一度持ち帰ってもいい?」
「本当ならダメって言うけど、久しぶりに面白い人間を見たわ、特例よ。それに、もし願い事を聞いてくれるなら、貴方の《《探してる人》》も返してあげる」
湖のの中央から人影がでると、ぐったりし意識のないクウガが浮いてまた沈んだ。
「やっぱりか……」
湖にクウガの足跡が入った切りだもん。
どう見ても囚われたって所だろう。
「ちなみにクウガは何を入れたの?」
「何もいれなかったの、それどころか突然に口説き始めたの。人間に口説かれたのは何百年ぶり。でも彼、待ってる人がいるっていうから沈めちゃった」
ああ、そう……何かの勘違いだろうな。
あれでもクウガは他の女性に粉をかける事はないみたいだ。勝手に女性の方からアプローチが来るのだ。
それなんてエロゲって突っ込みたい。
「何十年も沈めたら待ってる人だって死んでるわよね。そうしたら時間を解除してあげるの、うふふ」
うーん、やっぱ邪神じゃねーか。




