第52話 偽物にご用心
「はーい。朝ごはんですよー」
「みなさん朝食です」
大きなフライパンにオタマをカンカンさせているのはアリシア。
その横で復唱するのはノラである。
忘れられた森の小屋。というか、忘れてた師匠の小屋二日目の朝である。
結局昨夜にクウガの相談を受けた後、後ろに隠れていた師匠にネチネチと小言攻撃を食らった。
最後には師匠のツンデレ具合が発動して許してくれたけど、変な時間に起こされて眠いです。はい。
それぞれがテーブル前につくと朝食の始まりだ。
相変わらずのパン。新鮮な野菜を野菜と肉を使ったスープ。冷たい果実ジュース。茹で卵などなど。
それらを食べきると本日の予定がクウガから発表される。
「ええっと、反対側の扉に魔力が通るのは明日らしいです。本日は休み、外に出てもいいけど遠くにはいかない事。ええっと……メルさんこの辺で危ない場所はありますか?」
「ん。ドアホウ」
師匠はクウガの質問に素っ気ない態度で俺に振って来た。
「なぜ俺に」
「知ってそうじゃし」
「ええっと。この辺はサーペントウルフ。一つ目マインド。コカトリー。はぐれ木人。スーパーゴールデンスライム。これぐらいかなぁ……森の奥には湖があるぐらい」
「注意する魔物はどれでしょうか?」
「全部」
どこの世界に注意しないでいい魔物がいるんだ。
なぜかクウガが黙ってしまった。
「クロー兄さん。特にこれは危険ってのは? 特殊能力系のいるよね」
ノラだ。
クウガも最初からこう聞いてもらえれば俺だって答えやすいのに。
「一つ目マインド。かなぁ……森の監視者。森に入った生物の姿をコピーしてエサを招き込む。くれぐれも引っかからないように」
「そ、そうだね」
「クロウ君今日は家の中にいたほうがいいと思うよ」
「フ……」
何だこの暖かい目は。
「そ、それじゃ解散」
クウガが宣言するとそれぞれが動き出す。
アリシア、ノラ、ミーティアは食器の片付け。
クィルは馬の世話。
クウガは外に出て鍛錬。
「じゃっ俺はタンスの世話するか」
ベッド付近にあるタンスの引き出しを開けた。
瞬間頭を蹴られてタンスの引き出しはそのまま閉まった。
「んな世話あるかドアホウなのじゃ!!」
「し、師匠いたんですか」
「さっきからいるのじゃ! 何がタンスの世話じゃ。とっに……これだけ周りに女がいるのにワラワじゃなく誰か攻略しようとは思わんのかまったく」
「っていっても、全部クウガが持って行きますし。嫌がる女性を無理やりな趣味はないし、その点師匠ならクウガの事が別に好きじゃないですよね」
「…………好きって言ったらどうするのじゃ?」
「え? あっえ?」
マジで? 師匠はずっと一人と思っていたけど、クウガの奴師匠までも持ってくの? え。なにそれ。
魔女って倒すべき奴なんですよね? って物理的にじゃなくて彼女にしましたから倒しましたって奴する気なの? やっぱクウガを殺す? 師匠の好きな人を殺してハッピーってならないよね? 俺の気持ちが一時的にスカっとするだけで、応援したほうがいいのこれって――。
「…………グバーストっ!」
「っ! 水盾! アバババババババババしびれれれっれれ」
水盾を通じて電気が俺の体の中を通り体中がしびれる。
しびれが取れ座り込むと師匠が俺を見ていた。
「お。お世話になりました」
「話を聞くのじゃっ! じょ、冗談」
「魔法が?」
「ワラワが小僧を好きだって話じゃ。大きな声をだすでない……外に行ったアリシア達が戻ってくるじゃろ!」
「え……あっはぁ……」
頭の中を整理する。
すなわち師匠は俺をからかった?
「師匠……」
「そんな顔をするな。その本当にすまんのじゃ」
「いや、俺もクウガ以外だったらまだ何とか耐えれるんですけど……クウガ以外だったら、その最悪応援もします。俺の存在意義かなり消えますけど」
「小僧の事を嫌いなのかじゃ?」
好きか嫌いかでいえば、好きよりの嫌い。
主人公だけあって好感度もあるし、たまに俺を殺そうとしようする小生意気な時期に社長になる新入社員みたいな存在だ。
「そういうわけでは……」
ここでクウガに恩を売っておけば将来俺を守ってくれる存在になるだろうけど、魂が拒絶してる気がする。
正直アリシアの事が無かったら関わりたくない。
俺の事を一瞬でも好きって言ってくれたアリシアの恋人だよ? 男としてはあまりみたくも無いよ。
「しょうがない」
師匠は俺の頭を掴むと強引に胸に押し当てる。
柔らかに胸が俺の顔を埋めた。
埋めた。
埋め……。
あっ。
視界が真っ黒から真っ白に切り替わった。
「――ル! ヒール! ハイブーストヒール!」
「っ!?」
どこ? え。
「アリシア……? あれ夢か? 師匠は……?」
「先生はクロー君が突然に倒れたって、食器洗っている私を呼んで大変だったんだよ? 部屋の中に『一つ目マインド』が出たって」
「そうなの!?」
俺が驚くと師匠が小屋に戻って来た。
「ドアホウ。よ、よかったのじゃ。ほれ一つ目マインドの触手じゃ……運が良かったのう。いや悪かったと言うべきかの、部屋の隅にほれ穴が開いてるじゃろ? そこかじゃ」
「穴……あれあったかなぁ」
「あったのじゃ!」
師匠がそう言うのなら在ったのか。
「何かとても悪夢と幸せな夢をみていたような」
「クロウ君それ意味が解らないよ?」
「だよね」
「所でクウガ君が戻ってこないの。たぶん泉と思うんだけど呼んできてくれるかな?」
「俺が?」
「うん。アリシアお母さんは忙しいの」
うわーい。昨日の事まだ根に持ってる。
アリシアよ、そんなに根に持つ女性は嫌われるよ。
「うふふ。冗談だからそんな顔をヒクつかせないで、今日の回復魔法は魔力的に今ので終わりなの。クウガ君の事だから大丈夫と思うんだけど……ほら、さっきいった敵がいたらね」
「……まっ偽物に魅了されるのは嫌だもんね彼女としては」
俺がヤレヤレだぜ。と立ち上がり、腰に剣をつける。
何故か優しい師匠から『もってくのじゃ』とポーションを受け取るとアリシアと目が合った。
アリシアは周りを見渡す俺と師匠だけなのを確認してもう一度俺の顔をみた。
「クロウ君その勘違いしてるかもだけど、私クウガ君の彼女じゃないよ?」
「え?」
「ほう……」
俺も驚くし、師匠も語尾が無いって事は驚いてる。
「たっだいまー! ミーティアちゃん帰宅ーあれ? クウ兄ちゃんは?」
「じゃ、よろしくねクロウ君!」
「え、ああ……」
「むむむむ! ミーティアちゃんに秘密の話? ねーねーねー変態ちゃん教えてよ」
ミーティアが俺の周りをぐるぐる回りだす。
「なぜ俺なんだよ。クウガを迎えにいくぞ」
「ミーティアちゃんもいくー!」
「いーやーだー!」
「またお宝手に入るかもかもだしー!」
「ええい! 離せっ! 案外強いな……お、クィル帰ったか助けてくれ」
玄関にはクィルとノラも帰って来た。2人とも手には果物を抱えている。
「わかっタ……」
クィルは果物を床にばらまくと手を垂直に横に伸ばした。
ノラが「あーもう散らばるよ!」って屈んだ瞬間、クィルの腕から黒い弓が現れると、そのまま7本の矢をミーティアに放つ。
「ぶっ!」
「のわっ!?」
ミーティアの衣服に矢がささり、そのまま床に固定された。
顔面は蒼白だし、またの部分が濡れているのはかわいそうだから何も言うまい。
「ク、クィルちゃん!?」
「くろうベルこまってル。はなれ、これで良い?」
「そ、そうだね……ええっとじゃっミーティア風邪ひくなよ」




