第445話 だって仕方がないじゃないですか!
聞きなれない言葉を聞いて俺はもう一度クローディアのほうを見た。
「なんて?」
彼女の今の立場は普通のクローディアではなくて、副校長として俺に言っている。
場所は校長室で、部屋にいるのは俺、クウガ、ジークと彼女。
権力で言えば一番上。
「ですから。既に護衛のために聖騎士隊が集まっています。鉱山に行くのはクウガさん1人です」
「いや。だったらクウガが行けば」
「で、す、か、ら!! 外見がクウガさんのクロウベルさんが行くのです!!」
「やだよ」
思わず即答してしまった。
クローディアが肩をフルフルと振るわせて、切れそうだ。
と、思ったら突然校長室の床に崩れ落ちて顔を下に向ける。
「え!? クローディア副校長!?」
「副校長よ……自分の魔法のせいで済まない」
芝居かかったジークがクローディアの肩に手を置いて謝罪しだす。
「アリシア様から受けづいた孤児院。一度は潰れそうになりながらもクウガさんクロウベルさんのおかけで小さい学園へとなり、王国や帝国……ゆくゆくは諸国の子供達が学ぶ学園になるというのに『やだよ』という一言で根本から崩れるのですね。このクローディア、アリシア様に顔向けできません」
いやいやいや、大げさな。
「アリシアだって孤児院放置したんだし」
「………………1番の原因を作ったクソ男が文句を」
思いっきり低い声で言われた。
「え!?」
「…………アリシア様に顔向けできません……」
聞き間違いか。
クローディアって無口で真面目だけど理不尽な文句はいわないもんな。
「いや。俺だってこの姿になりたいわけじゃないし。戻るまで移動しないほうがいいだろ? せめてアリシアが来るまで……アリシアじゃ解決出来なさそうな気もするけど」
「普通に進んで片道10日はかかるかと思います」
冷静に分析された。
『転移の門』を使えば時短は出来るけど、そもそも魔力が豊富じゃないと無理だし、そのルート完璧には知らない。
「じゃぁせめてクウガと一緒に」
俺の姿をしたクウガも「一緒に行きますよ」と言ってくれる。
「ついて行ける理由が無いのです」
泣きまねをしていたクローディアが立ち上がった。
クウガを見てから俺を見る。
「護衛としてもクウガさんは強いのでいりません。そもそも聖騎士の小隊が一緒に行くのです。通訳としても数々の女性達が立候補しましましたが、クウガさん本人がそれを拒否……それにこの会談は数ヶ月も前から延期していた話です……ですから、これを。唯一の解決方法です」
淡々というクローディアは俺に1枚のマスクをくれた。
手に取って確かめる。
魔法がかかっているようには見えない、裏表も真っ白なマスクで未使用品。
「これは?」
「マスクです。先方には風邪を引いた。と伝えてください」
「…………解決方法ってそれだけ?」
「問題でも?」
全く問題ない。と、言う顔だ。
助けを求めるように俺の姿のクウガを見る。
目線を外した。
ぶんなぐりたい。俺ってあんな卑怯で根暗な目つきの悪い顔なんだな。
「そちらを見ないでください。鉱山では要望書を受け取るだけですし、王国では軽い晩餐会だけですので。無茶な事は無いと思います、仮にばれても偽物を送ったと我々全員の首が飛ぶくらいですので」
「滅茶苦茶あるじゃねーか!」
「ですが、不死ですよね? クロウベルさんは助かるでしょう」
どこで情報が食い違ったんだ。
俺は不死ではない。
なんだったらメルナだって不死じゃなくて長寿なだけ。
そう、そこにいるジークのようにだ。
「不死じゃなくて再生(強)な! …………」
俺は思わず口を開けた後に固まった。
ジークが俺の顔を見ては顔色を変えた。
「クロウベルよ。まさか……」
「俺も今気づいた」
「…………僕もです」
1人話が分かってないクローディアが不思議そうな顔で俺たちの顔を見る。
「クウガ」
「ええ、僕がやるんですか……?」
「逆だったら困るだろ……」
クウガは俺の姿で腕を出す。
腰にあるマジックボックスから普通の剣を出すと出された指先を斬り落とした。
「いっ!!」
「2人とも何を!?」
斬り落とされた指。その先端を抑える俺……じゃなくてクウガはしばらくした後に指先を見せた。
何とびっくりイリュージョン。
指先が戻っている。
「あ、そうか……金に困ったらこの手で稼げばいいのか。ガマのポーションでも売るかな」
「あのクロウベルさん。突然に良くわからない話をされると困るですけど……この通り入れ替わった体の特異体質が発動しました」
おっと。
「いや、俺って何百億も借金あるだろ? 適当なポーショを大量に仕入れてさ。斬られてもこれを飲めば回復しますって定価の100倍ぐらいで売れば借金なんてすぐかなって」
「自分の体に戻ってから考えてください」
俺の顔で怒られた。
「まぁいいか。と、言う訳クローディア副校長。再生ついてるのはあっちの体で俺の今のこのクウガの体には何もない、貧弱君だ」
「何もないわけじゃないですかね! その魔眼だって発動させれば」
魔眼か。
確かに義眼なんだよな。
普通に見えるから全然意識してなかった、この魔眼のせいで俺は斬られたまである。
「…………発動条件は?」
「さぁ?」
ちっ、とぼけやかった。
「いいけどさ、どうせ使う事無いと思うし」
「実際無意識で視界が確認されてるなら発動してますよ……」
「そうなの?」
「ええ。僕でさえ最初の数ヶ月は何も見えませんでしたし」
へぇ……そんな凄い魔眼なのか。
「では問題ありませんね」
ありまくりな気がする。
「せめて! あのアリシアでもいいから、着いたらよこしてくれる?」
「わかりました。アリシア様《《でも》》が着いたら向かう様に手配します」
「あの。そこは強調しなくていいから」
俺が言うとクウガが手を叩く。
「大丈夫ですよ。クロウベルさん、アリシアが来たら『正確』に伝えますので」
「いやだから……言葉のあやって知ってる? 君達」
「物事は正確に。と教えられてますので」
俺の姿をしたクウガをぶんなぐろうとすると、校長室がノックされた。
クローディアが対応すると、準備が出来た。と聖騎士隊が伝えに。
行きたくないのを我慢しつつ中庭に行くと、大勢の生徒や聖騎士達が並んでいる。
校長を見送るのだ。
聖騎士隊は敬礼し綺麗に整列してるし、生徒からはお土産まってます。など声援が飛び、ここで俺が『やだやだ行きたくないー』と叫ぶにはさすがに抵抗がある。
俺の姿をしたクロウベルに顔を向け、助けてくれ。と最後の合図をすると、親指を立てやがった。
ぶっころしたい。
…………いや、クウガも俺を見てこういう気持ちだったんだな。
仕方がない。
ここは俺も男だ。
腹をくくるか……。
「やだやだ。行きたくないー!!」
背中を地面につけて大声で叫んでみた。
周りが一瞬静かになった後にざわめきだす。
すぐに俺の横にクローディアとジークが駆け寄って来た。
「まぁクウガ校長はこのように緊張を和らげるために冗談を言いました。生徒の皆さん。拍手を」
「はっはっはっは友よ。渾身のギャグが滑ったようだな」
ジークが引きつった顔で拍手をしだした。
拍手は大きくなってって、俺は無理やり立たされる。
背中には剣先らしきものをつきつけられた。
「笑え」
ジークが短く俺に命令してくる。
「刺した後に馬車に放り込んでもいいんだぞ……安心しろお前なら大丈夫だ」
最後通告だ。
何が大丈夫なのか……でも笑うしかない。
「わっはっは……滑ったかな。行って来る」
聖騎士が敬礼しなおして、生徒たちが笑い合う中、俺は馬車に詰めこまれた。




