第436話 クロウベル実家へ帰る
今俺のいる場所は学園の正門前。
時間は早朝。
いよいよ俺はクウガのために、動くことにしたのだ。
これでも葛藤はあったよ?
別に記憶喪失のままでいいじゃん。とか。
記憶喪失だったら借金もチャラじゃね? など。
でもまぁ、古くからの付き合いだし。俺も何だかんだで助けてもらった事もあるしな…………あったか?
これもアリシアの為! と昨夜宣言した所、アリシアが凄く喜んだし。
ノラから『素直じゃないよね』と言われたりも。
ある意味アリシアは人質みたいな者、クウガの記憶が戻らない限り学園にいそうだし。
そんなこんなで見送り組はアリシア。ノラ。
他の主要メンバーであるクウガはリハビリ、補助でジーク。クローディアは副校長として教師として授業に出てる。
「クロウ君。気をつけてね」
アリシアは俺の手を握って直ぐに離した。
匂の残った手をくんかくんかしたら引かれるだろうか?
「クロウ兄さん……さすがにそれは引くよ」
「はっ!? 無意識にしてた!」
「アリシア姉さんも喜ばないで?」
ノラに注意されて俺もアリシアも気を引き締める。
「でも、本当に気をつけて。クロウ兄さんと居ると感覚がおかしくなるけど旅ってそんなに安全じゃないし」
「……まぁな」
魔物が居る世界で交通機関も発達してない。
国ごとに法律も違う。
貴族や王がのさばってる世界。
不満を持つ人間は盗賊になったり、人体実験するような魔法使いさえもいる。
「良く生きてるな俺」
「本当にそうだからね……クロウ兄さんお願いだから旅先で女性にひっかからないでよ?」
「するか! メルナとアリシアがいる」
力強く宣言する。
「安心してクロウ君。クロウ君が旅先で女の子拾ってきても文句いわないから」
「拾わないからね!?」
「そうだよ。アリシア姉さん……アレじゃないんだし」
アレというのはクウガの事だろう。
シーソーで言えば右にメルナ。左にアリシア。
メルナに関しては俺が推しまくった。
アリシアに関しては推して来た。
その中間にいるのが俺だ、もう乗る所もない。
自分でも不思議である、元々師匠であるメルナがとくっつきたい。メルナが付き合えないなら陰から幸せにする、イコール俺の幸せ。
やっぱり付き合いたい。から始まった物語。
「クロウ君が望むならNTR……? も挑戦するよ!」
「絶対にやめて! ノラ見張ってて……」
「わかってるよ。アリシア姉さんも暴走するからね……じゃっ小切手は大切に保管しておくから」
ノラの手には金貨3億の小切手がある。
何時までもこうしていてもしょうがないので、ゆっくりと丘を降りて行った。
ファーストの街からミゲールの村にいかないといけない。
簡単に行って来るわ! って言ったけど……これ往復で年単位かかるんじゃ?
「わかりやすく言うと、東京からアメリカまで行って帰って来い。だよな……正確な距離は置いて置いての話になるけど」
絶対的な移動手段が足りない。
『転移の門』は俺は複数の場所しかしらないし。パターンを覚えれば遠くに行けるらしいが覚えきれない。
「色々しくった……」
本来であればクウガは小型飛空艇や移動できる竜、かっこナイを手に入れてるはずだ。
俺もそれらを借りればいいだけだったんだけど。
小型飛空艇は帝国に管理されてるし、移動できる竜は現在どこにいるかわからない、呼び出す笛も俺もクウガも持ってない。
ってかだ。
3件隣の家にいくんじゃないんだから、どうやって移動するの? とか心配してくれてもいいじゃん……何でもかんでも。
「俺にだって出来ない事ぐらいはある」
ちょっと決め顔で言う。
でも正直本当にどうするか……とりあえず馬を借りて当てもなく北上してるわけなんだけど。
大体さ。
どこかの猫型ロボットは何所でもトビラを出すから遠くに行くのも簡単だよ?
本当どうせいっていうねん。
帝国領を抜けてさらに西。
「いやまてよ?」
馬をゆっくりにさせ、ぴょんぴょん跳ねてるlv1ぐらいのスライムを眺めながら気持ちを整理する。
「わんちゃん、貴族の家に小瓶とか薬残ってるんじゃ?」
となればだ。
貴族の事なら元貴族の俺に任せてもらいたい。
こう見えても貴族の事は詳しいつもりだ。
スゴウベルがな。
と、言う訳で実家に帰ろう。
「正直ゲーム本編でもやられるだけだし、貴族の地位は抜けたし、知ってるやつに聞けば早い」
──
────
見覚えのある小さい石壁を遠くから眺める。
この辺は魔物も弱いのであれぐらい小さくても大丈夫なのだ。
その奥のほうにはちょっとした小高い丘になっていて貴族達の住むエリアがある。その一番大きいのがスタン家だ。
貧乏貴族であっても街の中では権力はあるからな。
「人、それを見栄と言う」
ってか。
街の前にある馬車屋に馬を預け、辺りを見回す。
両手を天に突き出し大声で「スコール!」と叫んだ。
晴れていた空が曇りだし俺の中心にだけ滝のような魔力の雨が降り注ぐ。
「おぼぼぼっぼぼぼおえぼええ!! げっほげげっほげほ」
口の中に魔力の水が入って来て溺れそうになる。
スコールの魔法が消えると地面に吐く。
近くにいた街の兵が武器を構えたまま駆け寄って来た。
「だ、大丈夫か……お前、今何をした!? 魔法か!! 返答によっては斬る」
「げっぼ、げ……え? はぁはぁ……いや『フユーンよ! 俺は帰って来たぞ!』と叫んだつもりで……イメージとしては戦場に再び帰ってくる執念にかられる兵士のように」
「………………街に入るつもりか?」
「え。ダメ? 金さえ払えば誰でも入れる街と思っていたけど」
ゲーム中では入場料なんてシステムないし、この世界に暮らしていても別に入る事を断れた記憶は無い。
犯罪者でも入り放題なのだ。
あまりにも怪しい奴は断るだろうけど、俺はいたって普通の人間だ。
「…………許可は出来ん。帰れ」
「そうそう。ほらはいれ……え?」
「なんでなんで! 俺は普通の人間よ!? 怪しい所なんて一切ないし、衣服だって綺麗だろ!?」
「ええい! 街の入り口で変に強力な魔法を使うような奴が入れるわけないだろ!!」
「他の街は入れたんだって!」
街兵はそれでも剣を納めない。
次第に他の街兵が数人駆け寄ってくる。
「他の街だろ? まぁアレだ。数日牢にいれて安全と解ったら解いてやるから……」
いやいやいや。
どうする? 暴れる?
当然暴れれば勝てるの間違いない。
その後が問題なんだよな。
こいつらを倒した後に普通に街に入れる気はしない。
──
────
薄暗い地下牢。
汚れた毛布や汚れたベッド。簡易トイレがあり外からも丸見え、人権はどうなってるんだって所に入れられている。
その牢の中で数時間。
遠くから数人の足音が聞こえると俺の牢の前で止まった。
1人は俺を牢に要れた街兵。
もう1人は俺の知ってる顔だ。
「………………確認した。処刑しろ」
俺は慌てて立ち上がる。
トイレの途中だったので、先端からでる水が床にはねた。
「汚ったね。じゃなくて待ってよスゴ兄さん!」
「ええい! 地下牢にとらわれてションベンを飛ばしてる奴なんて身内でも何でもねぇぜ!!」
「なぜ江戸弁!?」
「え……ど? またおかしな事いってるのか? 大体なんだ……この6年も連絡しないと思ったら突然戻って……1人で来たって事は、とうとう愛想つかれメル先生と別れたのか?」
出すもんを出した俺はズボンを上げる。
魔力の水を出して手を洗いハンカチでふきながらスゴウベルに近づいた。
「子守りしてる」
「……は? 子守り?」
「いやぁ……連絡し忘れて。その式や書類の手続きはしてないけど、そのまぁそんな所」
いよいよ式上げたほうがいいのかなぁ。
昔メルナに伝えたら『しなくていいのじゃ』と言われてるし。
「そ、そうか……まぁそれじゃあの小娘との縁も切れたんだな」
「小娘って?」
「アリシアだよ。幼馴染の為と言っていたがお前に気があるのは見ていてわかったからな」
まじで?
全然そんな気なかった気がするんだけど……。
「ファーストの街で教師代理してる、ちなみにアリシアとも子供が出来た」
「……………………ふむ。おい兵よ。やっぱり処刑しとけ」
スゴウベルはくるっと向きを変えるとさっさと地下牢から離れていった。
俺は両手で鉄格子を掴む。
「待てって! よっ世界一かっこいいスゴウベル兄さん!! ちょ! 本気で帰らないでくれる? 兵の人困ってる顔してるから」
俺が叫ぶと、足音が止まった。
「ちっ! どうせお前の事だ。その牢ぐらい抜けれるんだろ! だったら抜け出せ」
「スゴウベル様。この牢は対魔法使い用の結界があり、鉄も魔力を帯びた素材を使っています、冒険者Aランクでさえこの牢をやぶ──…………ああああ! 特注品の牢がああああ」
アンジュの剣を握った俺は鉄格子の鍵の部分だけを斬る。
「え。あっ……なんかごめん。出ていい雰囲気だったから出たけど……牢に戻ったほうがいい?」




