第44話 VS裏ボスアーカス
人間用の扉が開いた。
誰もない城下町なのに先ほどまで人が手入れしていたかのように門の向こう側は明るい。
光を灯す松明が均等に設置されているからだ。
それだけならまだいい。
問題はまだあった。
甲冑を来た人間サイズの『何か』が下水モンスターの食虫花を地面に突き刺しているのが見えたからだ。
たぶん、地下に逃げたという下水道の手負いの雑魚ボスだろう。
「…………行かないのか?」
「そ、そうだね。ミーティアちゃんちょっと調子悪いかも……また今度にしようかなぁ……」
俺もミーティアも口数が少ない。
落ち着け……開錠の呪文は『マナ・ザ・ワールド』閉める呪文は『マナ・ワールド』だ。
「と、閉じるぞ。『マナ・ワ――!?』 水盾! 水盾! 水盾!!」
俺の体が吹っ飛ばされた。
水盾を連続で唱えて障壁を作る、その障壁をいとも簡単に壊してくる甲冑姿の魔物。
プラチナの中でも魔力を通した魔装と呼ばれる鎧、二本の無名の剣を巧みに操り敵を撃つ過去の英雄の一人。
裏ボスアーカス。
なんで裏なのか、何でボスなのかは全く知らない、だってゲームで配置されているんだし。
「ド変――」
「来るな!! 水龍をぶちかませ!」
ミーティアが喋る前にだまらす、正直ミーティアには無理だ。下手に目立って襲われたら助けに行けない。
コイツが、俺に注目している間に押し込むしかない。
俺の命令を聞いた水龍が裏アーカスへと突っ込み、その体を長い首で締め上げる。
裏アーカスは体をぎちぎちと鳴らすと手から剣を落とす。
俺はその剣を拾い上げた、同時にアーカスが俺の水龍の首を強引に引きぢぎった。
魔力のつながりを強引に切られた衝動で転びそうになる、その頭上からわずかな殺気が襲ってきた。
上を見ないで剣を背中に回す、強い衝撃が手に来ると後ろ脚で裏アーカスを蹴り上げた。
足に衝撃が加わると裏アーカスが少し離れたのがわかった、俺はすぐに姿勢を戻して剣を構えた。
「ふーふーふーふーふー…………きっつい」
「………………」
死ぬ、本気で死ぬ! そもそもレベル70や80とかそのへんのパーティーで挑むボスだぞ。俺が1人で持ちこたえた方がおかしいだろ。
「水槍・連!」
無数のウォーターボールを出して時間差で水槍を出し続ける。
「水竜!」
同時並行で水龍を出す、裏アーカスは水竜に向かって突進してきた。
「力を貸せ! 水竜!!」
俺の脳内でBGMが鳴り響く。何の? とは言わないが俺が転生前に見たアニメのBGMである。
水盾で勢いを殺された裏アーカスは、そのまま水竜に飲み込まれる。中は高密度の魔力の水だ。
いくら魔物でも苦しいだろう、半透明の水竜から裏アーカスの手が飛び出て来た。
水竜の内側を無理やりぶちやぶるのだろう。
「まぁそうだよね」
俺は走る、一気に距離を詰め、拾った無名の剣を握りしめた。
魔法で捕らわれている今ならだ、裏アーカスの鎧の隙間を力いっぱい突き刺した。
水竜の腹の中で紫の体液が噴き出ているのが見えた。
全然死ぬ様子はなく元気に動く、やばい!
「くろうベル! 離れテ!」
声の通りにはなれると、黒い矢が裏アーカスに突き刺さった。
普通の鉄の矢ではなく裏アーカスに刺さったまま輝きが消えない。
「黒狼の弓かっ!」
振り返るとクィルが身の丈ほどある真っ黒な大弓を引いている、矢は無いのに弦から手を離すと黒い弓が裏アーカスへと刺さっていく。
「うわークィルちゃんいいな! いいな! いいな! ミーティアは何もないのに! わっアイツまだ死んでない! クィルちゃん!?」
クィルが2本の矢を撃った所で倒れた、魔力と精神力がもたなかったか……黒い矢が消滅すると、裏アーカスが俺の手を掴む。
「うっ!」
手が焼けるように熱い。ってか焼けてる!
「『癒しの水』」
手の周りに水球がでて手を包むが回復が追い付かない。
「裏アーカスさんさぁ……あんまりしつこいと、ステリアさんに嫌われるよ」
俺の言葉で裏アーカスの動きが一瞬止まった。
裏アーカスに突き刺している剣を無理やり抜くと下から上へと思いっきり切り上げた。
普通の剣ではもちろん魔装鎧なんて切れないが、これは本人が使ってる名も無き魔剣だ。
兜を切り裂きその顔面があらわになった。
兜の中に抑え込まれていた長く綺麗な金髪があらわになると、精気のない表情であった裏アーカスの顔が現れた。
「ド、ドドドドドド変態! え。うあ、女の人。クィルちゃんあれ女の人だよね!? 起きて起きて! ってば」
「ミーティア! 顔は女性でも敵は敵! 下がってろ」
「ミーティアちゃんは命令されたく無いんですけどー!」
ああ、ぶんなぐりたい。
いや、殴るのは色々不味いだろうから、そのほっぺを両側から引っ張って脳天にゲンコツをくらわせたい。
「門を開けたのはこちらの不注意! 争う気はないし、宝探しでもな……」
俺はクィルとミーティアを見た。
クィルは今のレベルではぜえええったああああいいに手に入らない、武器を装備してる。
クィルが装備してる腕輪は『黒狼の弓』通常時は腕輪になっていて魔力を消費して弓と矢を作り出す。
ミーティアが大事そうに抱えてるのは金銀財宝というか普通に売ればお金になるアイテムだろう。
「その、ちょっと物色したっぽいけど。本気で荒らしに来たわけじゃないし……見逃して!」
言葉は通じるとは思えないが、先ほど俺の言葉で一瞬動きが止まったのも事実。
裏アーカスは剣を腰に付けると俺に手を差し出した。
開いた手は腰をトントントンと叩いてる。
「ああ、返す。この剣だよね? 返すから」
俺は勝手に借りた剣を柄の部分を差し出した、これでいきなり斬られたらもうお手上げだ。
俺の手から剣を受け取るとそのまま腰に付けた裏アーカスは割れた兜を頭に戻した。
斬った後がわからなく装備しなおすと人間用の扉から古代都市へと戻っていった。最後にはその扉がゆっくりと閉まる。
「…………終わったか……か、かえるぞ!」
「えーー! もっとお宝探しに行こうよ! ミーティアちゃんいい場所見つけたんだよね」
「ん。おま! 俺が必死に戦ってる時にもしかして宝探し行ってた? ねぇそうだよね? クィルが持ってる『黒狼の弓』だって唯一無二の武器だよ? ミーティア、お前がもってる指輪だって売ればすんごいお金になるんだけど、もしかして取りに行ってたわけ!?」
俺が怒るとミーティアのほっぺが膨らんで来た。
「そんな怒らなくてもいいじゃん、助かったんだし……それにあれって何なの? ド変態が何か言ったら帰ったけど知り合いだったりする?」
「するかぼけええ!」
「うわっ! いっ痛い! ちょド変態頭が割れる割れるから!」
こめかみを両手でぐりぐりと痛めつける。
「とにかく、水竜! ほらクィルを乗せてミーティアも乗る! とも早く乗る! これ以上ここにいたくはない」
やっぱ武器帰して。とか、やっぱり命刈り取ります。とかいって出てきたら本気でダメだ。
さすがの俺でも疲れが出てる、魔力切れの症状がではじめてるからだ。
なっがああああいいい、螺旋階段を上り顔を出すと師匠の顔が見えた。
「師匠!」
「のじゃっ! ………………よしライトニングバースト!」
「うわっ水盾!?」
師匠の攻撃を寸前で防御する。
俺の水盾が師匠の雷を吸い空中に勢いを飛ばす。
「魔物かと思ったのじゃ」
「今一瞬俺を確認してから撃ちましたよね? よね? よし! っていってませんでした?」
「きのせいじゃろ、他の2人はどこじゃ」
師匠が首を回すと俺が出て来た所から2人が出てくる。
クィルも階段の途中で目が覚めて、ミーティアと一緒にゆっくりと登って来ていた。
「無事な様じゃな……ノラが慌てていたのじゃ。ドアホウなら大丈夫と言ったのじゃがな……一応じゃ一応」
地下に溜まっていた魔物の暴走、古代都市。
そこで出会った《《謎の人型の魔物》》、火事場泥棒した2人の事を説明した所で足元がふらつく。
「あっ師匠……俺もうだめかも」
「ぬ。お、おいドアホウ! ドア――クロウベル!」




