第420.5話 (他人視点)アリシアの気持ち。と、話を聞く元悪役令息
「え! 先生!?」
「…………いい加減に2人の時など先生と呼ぶのも直したほうがいいじゃろ」
先生に注意されてしまった。
頭ではわかってるはずなのに、やっぱり子供達のいない時は先生の事は先生と呼んでしまう。
私と先生の寝室。
子供たちは別の部屋で寝ていて、クロウ君は古城探索と周辺の探索に行った後……お風呂に入ってる。
もうすぐこの部屋に来るはずだ。
呼んだんだもん、それは今は置いて置いて。
「ですけど、18年も『先生』って呼んでます。いまさらそれ以外にどう呼べば」
「普通にメルでいいじゃろ……」
「はい、先生! あっ」
先生は首を振って「はぁ……仕方がない呼びやすいほうでいいのじゃ」と言ってくれた。
だって……だって……。
先生が悪いよ。
明日クロウ君が外の世界に出るのに「アリシアがついて行け」って言うんだもん。驚いた声もでるよ?
「じゃあなくて、クロウ君は先生と一緒のほうが」
「…………今さら何を遠慮しとるのじゃ。6年じゃぞ」
クロウ君は1人でいい。って言うけど……一応は2人で行ったほうが。と言う話。
途中で倒れても困るし、クロウ君ってほっとくと直ぐに何所かいくから。
「サクラやスミレでもいいんじゃが……アレの負担を考えるとワラワかアリシアのほうが良いじゃろ? じゃったらどちらかは留守番をしていたほうがいいじゃろし、ワラワは別にアレと常に一緒にいたいとは」
「クロウ君が聞いたら泣くと思いますけど」
「ワラワは冷たいからのう」
そんな事はない。
クロウ君の肉片を再生させるまで先生がどれだけ動いたのか間近で見てるから言える。
「もう。違いますよね、怒りますよ」
「聖女に怒られるとはワラワも焼きがまわったもんなのじゃ。実際お主ら2人のほうがいいじゃろ」
「そうなのかな?」
「あの小僧にあった場合もアリシアなら止められるじゃろ?」
先生が小僧というのは、間違いなくクウガ君。
6年前に私達をどん底に落とした人で助けてもくれた幼馴染。
クロウ君が孤児院の事を聞いて来て『クウガ君が運営してるよ』と伝えたら私の事を気にかけて『見に行くか』と言ってくれたのだ。
私は断ったんだけどクロウ君が『6年間帰ってないんだろ?』と真実を突き付けられた。だって……その帰れないよ。
クローディアさんから手紙は来たけど、その返事を書くので精一杯だよ。
「しかし……あの時に、あの小僧に体を許すとか提案した時は」
呆れた声みたいな感じで少し笑ってる表情だ。
「……先生!」
「わかっておる。借りを作らないためじゃろ?」
「あの時は私は何も持っていなかったし……でも、先生だって……あの」
「ワラワのは取引じゃ。アリシアのは錯乱じゃな。安心するのじゃ……アレに話すとややっこしくなるから」
私は先生の手を取って頭を下げる。
普通に考えたら、あんな事いってクロウ君が悲しむよね。
クウガ君も私の事を思って拒否してくれたし、感謝しないと。
「本当にすみませんでした」
「なに……まぁ実際行為の一つや二つでアレが助かるなら。と言う気持ちはわかるのじゃ。その辺は人間と長寿族の考えの違いかもなのじゃ」
「そうなのかな?」
でも! と……言おうとしたら寝室の部屋が小さくノックされた。
私と先生は顔を見合わせて扉を開けるとクロウ君が挙動不審に立っている。
2人の内緒話はもうおしまい。
「や、やぁ」
「何が『やぁ』なのじゃ。さっさと入ってくればいいじゃろ」
「そうだよ?」
クロウ君からはお風呂上がりのいい匂いが漂ってきてる。
抱きつきたい。
「うお!?」
「クロウ君。急に抱きついたらびっくりするよ?」
「俺のほうが抱きつかれたんだけど? ってかアリシアさ、力強いって」
私はクロウ君をベッドのほうまで引っ張るとそのまま先生に手渡す。
先生はベッドに倒れたクロウ君の首に腕を回した。
──
────
「じゃっメルナ。ちょっくら金策に」
「先生行ってきます! 2人ともちゃんとメルお母さんの言う事を聞いてね」
サクラちゃんもスミレくんも先生の手を握っては頷いてくれる。
「まっ金額が金額じゃ。どうせ返せそうにもにないしの……適当に羽を伸ばして来いなのじゃ」
「先生……」
「アリシアは返す気満々ですけど?」
「真面目じゃのう……」
先生はそう言うけど、返済はちゃんとしないと。
結局私が建てた孤児院も、クウガ君が運営してくれた。
思い返せば、旅に出たのもクウガ君のおかげ。
聖女になったのもクウガ君のおかげ。
聖女になって聖都にいないと駄目なのにそれを振り切ったのもクウガ君の助けがあったから。
私って本当に何もかも中途半端なんだよね。
顔に出してないはずなのに落ち込んだ私の頭をクロウ君はさりげなくなでてくれる。
「さくらもー!!」
「はいはい」
クロウ君はサクラの頭をなで出す。
先生の手を握ってるスミレくんの顔が寂しそう。
クロウ君が残った手でスミレの頭をなでようとしたら、手にかみついた。
「いっ!」
「こら!!」
「んーんーーーんーーんんんん-!」
私は必死にはがそうとするもはがれない。
スミレは文句を言ってるけど、クロウ君の手を噛んで離さない。
「スミレよ。それ以上やると折檻じゃ」
「ん!?」
先生が短く言うと、スミレは直ぐにかみつきを辞めた。
泣きそうな顔で私と先生を見ては……あっ逃げた。
「ばーか。ばーか!!」
「…………まったく誰に似たんじゃが」
「どう見ても」
「なんじゃ? ロウよ」
クロウ君は《《また余計な事》》を言いそうになって首を振る。
「元気があっていいですね!」
「…………そうじゃの」
「あっ起動修正した」
私が言うとクロウ君は苦笑しだす。
「じゃっ今度こそ」
クロウ君がそういうので私はそっとクロウの君の手を握った。
握り返してくれた手が温かくて嬉しい気分。
──
────
ナイ君のお城から小舟で移動中、私は思ってる事をクロウ君に伝えた。
先生に黙っていて。と言ってしまったけど、昨夜話に出たので……やっぱり話すべきかな。って。
クロウ君は話を聞いてくれた後に指を数えだす。
「1。アリシアは俺のいない6年間に大変で……クウガが借金を肩代わりした負い目がある。これは俺が起きた時に聞いた話」
うん。
「2。クウガに対して体を差し出そうとした。これはヤンデレした結果であり未遂で終わってる」
うん。
「3。俺に嫌われてもいいし、痛い女過ぎて湖に沈められても文句は言わない」
「うん? そこまでは言ってないよ!? 嫌われる覚悟はあっても嫌われたくはないし沈められたくも無いよ!?」
ボートの上で思わず異を唱える。
「でしょうね……別にその性格を含めてアリシアの思いを受けたんだけど? 若干……いや凄い面倒くさいヒロインだな。と何度思った事か」
「そうなの!?」
初耳だ。
私ってクロウ君にそんなふうに思われていたなんて。
「……いや、普通そうでしょ……十数年に及ぶクウガの好意も完全にかわしてクウガに女性を紹介し、モブである俺の事を好きなのを忘れなく、何かあると病むし、その癖に俺とメルナの事を応援しだす。さらにそのクウガに殺されるはずだった肉片を集めて再生させようと6年間をついやした。変人通り越して狂気だよ……普通の人間ならドン引きするからね!?」
「そ、そうなのかな……」
「そうだよ? むしろ今まで普通と思っていた事が俺はびっくりだ。もっと言いたいぐらいだし」
なんだか、そんな気がして来たよ。
凄い恥ずかしい気分。
私自身が聖女とか呼ばれて勘違いしていたのかもしれない。
足元を見て落ち込む私にクロウ君が声をかけてくれる。
「でも、俺も人の事は言えた事じゃないし。気にしないよ? 別にその──……わけでもないし」
「神秘……ん? 帽子?? よく聞こえなかったかも。オールの音が大きくて」
なんだろう? 大事な部分っぽかったのにクロウ君がわざとオールの音を立てた気がした。
「ああ、気にしないでくれ。とにかく俺はそのままのアリシアが好きだよ?」
「クロウ君!!」
「ばっ! 抱きつかない小舟が揺れ……ん!?」
私はクロウ君を思いっきり抱きしめ顔を近づけた。




