第42話 待ち人来ず
「ええっと…………」
俺は本当に困った声が出ていた。
イフの街、下水道清掃クエスト。
内容はフユーンの街のと同じ、地下に行って雑魚&ボスを倒すだけ。
ボスっても表面だけのボスで、地下に広がる古代都市のほうではない。まだ入れないし。
前日にクウガから「クロウベルさん。裏ダンジョン行きましょう、僕とクロウベルさんならいけると思うです! アリシアは絶対に許してくれないし、お願いですから。僕だって強くなったんですよ。クロウベルさん聞いていますか?」とネチネチネチお願いされた。
そのお願いしてきたクウガが集合場所にいないのだ。
今いるのは、俺。
欠伸をしているミーティア。
口の中に卵を詰めてはもごもごしている獣人クィル。
薬箱、とかかれた箱を持っているノラ。
この4人しかいない。
アリシアは当然参加禁止。
アリシアの魔力を流れと少しでも治るようにと師匠も未参加。
「ノラ……これはいったい?」
「うん。説明してって事だよねボクが説明するよ。クウガさんを迎えに行ったら熱があってね。アリシアさんは回復魔法禁止、メル姉さんがアリシアさんが魔法を唱えようとするのを押さえつける。クウガさんは無理に行こうとする。それはそうだよね、クエストの締め切り期日が今日なんだもん。そこにいた朝風呂帰りのミーティアさんが『ミーティアちゃんがいれば簡単に終わるし! クウ兄ちゃん任せてよ!』と言って、アリシアさんがせめて『クィルさんを連れて行って』って事でボクが連れてきたの」
何て的確な説明なんだ。
「わ、わかった……いや。うん4人でいこうか……」
「っとまだあってね」
「まだあるの!?」
ノラは「そうなんだよ」と、肩の力を落とす。
「『色々省くけど病気ってのは回復魔法が効かないのじゃ』とメル姉さんが教えてくれて、ボクはこの薬をクウガさんに届けるお使いを頼まれてるんだ。メル姉さんは『ドアホウに任せておけばいいじゃろ』って言ってね、だから……」
「…………わかった3人で行けって事か」
「あ。ド変態話終わった? ミーティアちゃんの視界に入らないでね。なんでこんな男にアリ姉ちゃんもクウ兄ちゃんも信頼置くのかな。そりゃちょっと強いかもしれないけどインチキよインチキ。クィルいこ!」
「…………1人、危険……」
ミーティアが地下下水道の門を開けるとさっさと中に入って消えていった。
「追いかけル」
クィルも地下下水道の中に消えていった。
俺達がいた場所に風がひゅーっとなびいた気がした。
「えっと、じゃぁクロー兄さん。がんばって……」
ノラが走りだそうとした時に俺は「ノラ!」と呼び止めてしまった。
「何かな?」
「本人のいない所でいうのも、いや、本人がいないから言うんだけど」
「クロー兄さんなら大丈夫と思うけど2人を放置しても話す事?」
「そりゃ……クウガの事どう思ってる?」
「どうって……仲間思いだけどちょっと変な人だなって」
あれ。
俺が知っているゲームでのノラではクウガにゾッコンなんだけど反応が鈍い。
もしかして照れてるのか?
「じゃぁ俺に遠慮しなくていいよ」
「何?」
「何ってそりゃ……」
「クロー兄さん話が全く見えないよ、ミーティアさんとクィルさんが地下下水道のように」
思い切って言った方がいいか。
ノラと別れるのはつらいけど、ヒロインを無理やり奪うような事はしたくないし。
「いや。クウガの事が好きなんだよね?」
「うん。メル姉さんに言うね」
「なんで!?」
「だって! メル姉さんと一緒にいたいからってボクを捨てるんだよね? 捨てられるのは仕方がないと思うよ? ボクの特技なんて鍵開けだけだもん。最後に挨拶はしたいし。うん、大丈夫だよクロー兄さんがこのクエスト終わる時にはボクは違う馬車に乗ってると思うから、いままでありが――」
「違う違う違う違う!」
ノラの話が途中で止まった。
「違うの?」
「俺だってそんなに薄情じゃない。俺が師匠を襲いやすいようにこっそりトイレに行ったきり戻ってこないノラとか、好きな物食べろ。と言われて一番安い食べ物探すノラが嫌いとかじゃなくて。ほ、ほらクウガってイケメンだろ? 俺みたいな悪人面と一緒よりはクウガのほうがノラをうまく育てれるかなぁって」
「クロー兄さん、そういう事は恥ずかしいので言わないで欲しいかなぁ、でも捨てられないと分かっただけで、あり――」
ノラの言葉が途中で止まった。
「クロー兄さん! 後ろっ!!」
「ん?」
ノラに言われるままに後ろを向く、背後にあるのは開け放たれた地下下水道入口で、紫の煙がちょろちょと出ていた。
「………………やばいよね」
「救援要請の煙だよ! ボク急いでっ」
「いや、俺が行く。ノラは戻って大丈夫だ……師匠が俺に任せたんだし、騒ぎを大きくしたくはない」
「ほ、本当に大丈夫?」
「うんまぁこの辺なら、じゃっ」
俺は振り返らずに一気に魔物が出る下水道へと走った。
「たっく。どこの馬鹿だ! 出来るっていってそう直ぐ救援要請するような馬鹿な子は! ミーティアとクィルに何かあったらクウガが切れるしアリシアだって切れる。結果的に師匠にも俺が見限られるでしょうに! 水槍! っと! 水槍!!」
ウォーターシャベリンの詠唱の省略版。
精度は少しさがるが連射が出来る、このような狭い場所では案外役に立つ。
俺を襲ってきた魔物を壁に張り付ける。
一瞬5年前を思い出した。
あの時はサンドベルが下水食虫花に飲まれてスゴウベルが死にそうになっていた。
ああ、もう煙はどこからだ!
煙で目の前が痛くなってくる。
「言っておくが俺は悪役なんだからねえええええええ!! これ以上くると斬る……」
俺は向かって来る殺気に腰を落とした。
腰に付けた剣を手にと……無い。
うん。宿に置いてきた。
ごめん、アンジュ。絶対に肌身離さずって言われていたっけ。
「水槍。連」
周りにウォーターボールを十数浮かせる。その1個1個をウォーターシャベリンとして花を咲かせるイメージだ。
無数の水槍が俺に向かってくる殺気に向かって飛んで行った。
「悪いね」
いくつかの路地を曲がり奥へと進む、時間枯らしてそんなに先に進んでいないとは思うが。
脳内に攻略ページを思い出す、うーんあんまり覚えてない。
ボスは確かこの先にいたはずなので……覚えてる限りのショートカットを抜けて先に進む。襲ってきた狼型の頭を無理やり押さえつけ前を出る、狼型の体には折れた矢が刺さっていた。
「クィルか!」
矢の刺さった狼型の魔物が出てきた方へと走る。煙の濃度が濃くなってきた。
煙を抜けると服が破れ傷が多いミーティアと、ナイフを片手に唸り声をあげているクィルが突然に現れた。
「い、いやあああああ! 今度は何!?」
「クィル、まもル!」
ナイフを持ったクィルが俺に飛び掛かって来た、俺は向かってくるクィルの腕を掴む。そのまま壁に押し付け体を密着させる。
「落ち着け! 俺だ。ええっとクロウベルだ!!」
「はなっ! まもっクィ……まも…………? くろうベル?」
「だから落ちつけ!」
クィルから暴れる力ぬけた、俺は少し離れるとミーティアの方を見下ろす形になる。
「ひ、お。おかさ――」
「するか! 傷は!? ああ、もう衣服も破れてるな……とりあえず『癒しの水』。暴れないように大きな怪我は……うわ。足折れてるのか」
ミーティアの足首がぐにっとまがったままだ。
緊急用の発煙筒から煙が出なくなったようだ。
「足触るぞ」
「いっ!」
「俺の魔法は他人にかける時は外傷メインだからなぁ……効くとは思うけど『癒しの水』」
水の固まりが出てミーティアの足首を包み込む。すっと水が消えていくと紫色の部分が肌色に戻っていく。
「で……なんで君達、こんな怪我してるの?」
「お、怒ってる!?」
「くろうベル……怖い……」
「別に怒ってません! でも、君達だって冒険者でしょ? そこまで怪我するかな。ざっと敵を倒したけどどれもこれも俺に襲ってくるというか、目の前の奴を殺そうとするような殺気が多かった……」
ミーティアは黙って指をさした。
「何かある?」
壊れた壁、その壁の下に古代都市に続く階段が見えた。
「………………さっ帰ろうか」
「えええええええ! いこうよ! ねぇねぇねぇ。あれってクウ兄ちゃんが言っていた古代都市だよね!? ミーティアちゃんはボスを目指していたんだけどさ。ミーティアちゃんだって冒険者だよ? ボスを見つけて追い詰めたら逃げちゃってさ。あの地下に、そしたら中から一気に魔物が出てね、ちょーっと油断しちゃったけどさ。ド変態兄ちゃんさ、強いんだよね? お土産もっていこうよ。プラチナ装備1個でもあればいいお金になると思うんだ」
「いやしかしさ……ああいうのは封印してあるって事は封印してある理由があってね」
俺だって興味はあるが命を粗末にはしたくない。
「よくない気がスル……」
獣人クィルは鼻を引くつかせて危険信号を伝えてくる。
俺もそう思う。
「だよなぁ……」
「でも、何かお宝持ってきたらあのデカパイ女だって喜ぶんじゃない?」
「……師匠の事か?」
「そうだけど?」
腕を組んで考える。
俺も師匠も別に冒険者ではない、師匠は借金あるとか言っていたけどそんなに貧乏な様子もないしな。
この地下ダンジョンのボスは英雄霊裏アーカスだったきがする。
裏と言う事は表がいるんだけど、昔の英雄様、その残留思念みたいなのがボスだ。
うん。無理。
「やっぱりかえ……あれ?」
目の前にミーティアがいない、クィルもいなかった。
「たすケ……テ」
クィルが必死にミーティアの服を引っ張っている。
そのミーティアが隠し階段に進もうと力を入れているのだ。
「あっクィルそのまま引っ張るとっ!」
ビリっという音と共に、ミーティアの服がやぶけ上半身裸のミーティアが地下への階段へと転がっていった。




