第403話 男の友情っていい物ですよね
金玉をコロコロ手のひらで遊ばせながら小舟に乗ってる。
船頭を取ってくれるのはアンジェリカで、俺を蜃気楼の城に置いたら帰るらしい。
ナイに会うのは俺1人って事、まぁ子供もいるししゃーないか。
「ねぇ。ころころと遊んでるけど無くさないでよ?」
「大丈夫だって」
「あと解放の呪文も唱えないでね」
「わかってるってルミナ──」
「待って!! もったままでしょ!?」
これを貰う時に教えてもらった魔法のキーワード。
呪文は短く4文字『ルミナス』
意味は『光り輝く』とか『解放』とかそんな感じだ。
ほら、どこぞの飛行石も滅びの呪文で天空城すら壊すほどだし、あれも輝いていたからな。
「大丈夫だって魔力を込めなければ」
俺は魔力を込めると金玉が虹色に変わっていく。
「辞めなさいって」
アンジェリカがオールを湖から引き抜くと俺に攻撃を仕掛ける。
俺はあと一歩で脳天に打ち込まれる所を白羽取りで防いだ。
「まったく……聖王様も何でこんな人に金の宝珠を……」
「この金た──」
「宝珠!」
無言で見つめ合う。
仕方がない。
「金の宝珠ってそんなに凄いものなんだろ。いいのかな俺が貰って」
「聖王様がいいって言うのなら良いのよ。それよりも岸がみえてきたわよ」
「うい」
俺が船の上で体制を変えると、手のひらには何もなかった。
あれ?
今の今までもってたよな俺。
足元を見ても転がってはいない、前方を見るとアンジェリカは再びオールを漕いで岸に付けようと頑張ってる所だ。
そのアンジェリカが振り返ると俺を見る。
「私はここまで。記憶がおぼろげなんだけど消えた2人……絶対に助けなさいよ」
「え。あーウン……ソウダネ」
「変な感じね話聞いてる?」
慌てて首を振る。
「全然普通! いたって普通だし……ちょっと聞いておきたいんだけど、金の宝珠って歴代聖王が魔力を込めたって……何年ぐらい?」
「年ってさぁ1000年は越えてると思うわよ。クラック王国が出来る前から聖王様はいるって言うし、どうして?」
ど、どうする?
言うか黙っているか。
もしかしたら、さっきオールを白羽どりする時に湖に投げたかもしれん。
「1つ聞きたい」
「突然なにかしら?」
「きんた……金の宝珠ってそんなに大事な物か?」
「当り前じゃない。聖王様は必要と思うから貴方に託したのよ。何百年も魔力をこめたのだもの……もしかして魔法学の基礎知らないの? 魔法には属性はあり有利不利はあるけど、魔力性質を壊すのに大事なのは純粋な魔力よ」
メルナから習った気がするか詳しくは覚えてない。
意味は何となくわかるけど……要は属性も大事なんだけど、それを上回るのが純粋な魔力。って話。
セリーヌが使った技が魔法であれば。
それも複合魔法であったとしても、それを上回る魔力をぶつければっ。と、言う話だ。
聖王はそれを知ってか知らないか、きんたまを預けれくれた。
「あっ!!」
「な、なに?」
「きんた──」
「金の宝珠!! いい加減湖に突き飛ばすわよ!!」
「いや。もしかしてもう1個ない?」
アンジェリカが怪訝な顔になった。
小舟は岸につき後は俺が降りるだけになる。
「無いわよ?」
「そっか……ほら球って普通2個あるからもう1個ないかなって」
「…………なくしたの?」
「…………うん」
沈黙してる間に遠くで魔物の声が響く。
「何で無くすのよ!! いつ!? さっきまで持っていたわよね!?」
うーん。
ここ最近毎回怒られてる気がする。俺が悪いのかなぁ……。
「聞いてるの!?」
「はい、聞いてます……ほらオールでチョップするからその時に」
「私のせいだって言いたいの!?」
「うん」
アンジェリカが沈黙すると、島に要る魔物の声が再度かぽーっと聞こえてくる。
しばらくお互いが見つめ合うとアンジェリカは突然に軽鎧を脱ぎだす。
「うえっ!? 何こんな所で発情!? もしかして俺とクウガを仲良くさせるのに人柱的な?」
アンジェリカと俺が強制的に繋がると、クウガと親戚みたくなって仲良くみたいな。
「貴方が私のせいだっていうし、責任もって金の宝珠を探すの! 湖に落ちたならまだ間に合うでしょ!!」
「ああ、そっち」
「それ以外ないから」
既にアンジェリカは下着と衣服がセットになったキャミソールになっている。
──
────
「ヘックッション!」
たき火の前で体を乾かす。
手には金の宝珠をころころとしながらだ。
さすがにアンジェリカに湖に潜って探させるのは酷だし、その水にぬれたアンジェリカの眼のやり場にも困るし『俺が悪かったです』と小舟の上で土下座して、アンジェリカよりも早く湖に飛び込んだ。
2人のほうが早いわ! という飛び込もうとするアンジェリカにたき火をお願いし、何とか探し出す。
魔力の宝珠。と言う事で魚に大人気でもう少し遅かったら大型の魚に金の宝珠が食われる寸前だった……あぶね。
「風邪ひかないでよ? あと絶対に無くさないでよ……」
「今度は大丈夫だ」
「じゃぁ……」
俺は「ああ……」と短く返事してアンジェリカと握手する。
悲しいけど今回の事は聖騎士隊が解決する事ではない。
聖王もアンジェリカもあくまで協力者、ここまでしてくれるだけでも大変なはずだ。
「よっこらせ…………くすっと」
冷めた体と衣服を暖め重い腰を上げる。
途中で出てくる雑魚となった魔物を数体たおし崩れかけた門を抜ける。
そのまま中庭を見つつ玉座の前に。
玉座にはナイが不機嫌そうに座っていて、俺を見ては玉座に座り竜の手でコンコンと爪を鳴らしてる。
さらには、その玉座からはナイの身長よりも長い尻尾が出ているのが見えた。
半竜状態か? 珍しいな初めてみたかもしれん。
とりあえず挨拶だ。
軽く「よっ!」と挨拶したら俺に向かって火柱が迫って来た。
「水盾!」
水盾で相殺すると不機嫌そうなナイがやっと口を開く。
「君ねぇ!! なんでセリーヌの攻撃を止めないんだ!! 2人が消えただろ2人が!! どうしてくれるんだ!」
「あれ。記憶あるの?」
聖王も記憶あったしあるとは思っていたけど、こっちのほうが鮮明にあるらしいな。
「あるよ! この城はいえば魔力の塊みたいな古代城だよ!? 外の世界でセリーヌが魔法を使った時にこの城にも余波が来たのが解ったし、だから城から出れなくなったし!! あのメルギナスが!」
旧友だもんな、心配するのは当たり前か。
「だったら話は早い。手伝え」
「…………何で上から目線なのかな」
ほう。
この馬鹿に言って聞かせないと……だからお前は馬鹿なんだ。
「そもそも、お前が背中からクウガを振り落とさなければこうはならなかっただろ」
「はぁ!? 放置していたら君は良いけど、他の人間はひとたまりもない。だったら君もあの時に飛び降りて、あの男に止めを刺すのが当たり前だろ!」
「いーや! 殺したらアリシアが悲し──」
「でもメルギナスとそのアリシアは消されたん──」
お互いに指をさしあい言い争いをする。
言い争いだけならともかく魔法攻撃も飛んでくるので俺もそれに対応する。
2人でどれだけ言い争いをしていたのか、喉が渇いて来た。
玉座の間はあちこち壊れ柱も倒れている。
「はぁはぁ……とにかく……俺も悪かったけどお前も悪い」
「君ねぇ、そりゃ自分も悪かったけど……君が悪いよ」
平行線過ぎてちょっと笑いが出た。
「く……」
「はは……」
「真面目な話してるのに笑わないでくれるかな?」
「お前こそ……笑ってるだろ」




