第400話 天才ノラの推理
玄関前ではクローディアが少し心配した顔で俺を見ていた。
俺の現在の恰好は冒険者スタイル。
凄い高い自己修復付きの装備は買いなおしてないので洗濯して綺麗だけど色あせた安いローブで体を包む。
孤児院の子供達には先ほど別れを告げ、常駐してる聖騎士団にも挨拶は終わった。
「では、お気をつけてください。また戻ってくるの時を楽しみにしてます」
「ああ…………ええっと。そうだね」
ファーストの町までゆっくりと歩く。
時間は惜しいけど、あせっても仕方がない。
まずは情報だ。
2人が食われた後。すぐにでも外に飛び出そうとしたが……装備0で出て行っても後が困るし、行く場所もない。
孤児院で確認した事。
クローディアや子供達、それに常駐する騎士団でさえメルナとアリシアの事を覚えてなかった。
この孤児院はアリシアが建てた物なのに、誰が作ったのか皆記憶があいまいになっている。中には俺が建てたんでしょ? みたいな人もいた。
以前俺は自称神竜の《《セリーヌが人を食ったのを見た事がある。》》
その人間は《《世界から最初からいなかった事》》になっていた。
おそらくはソレ。
食われたらもうおしまい。
そう思うが何故かセリーヌは俺やメルナ。アリシアといい関係で付き合ってくれていたし、それに2人を消した時も申しわなさそうな顔だった。
って事はだ。
「……あの時のセリーヌはわざと俺の攻撃を受けていた……さらに攻撃だな」
単に俺の不幸な顔を見るのに2人の存在を消すのなら。
いっその事遠距離攻撃し殺す。って手もあったはずだし、それをしなかった。
それ以外にも個別に倒す方法だってあったはず。
「あーーーもう!! 考える事多すぎる。ってか俺を狙ってこいよ!! 誰だか知らないけどさああああ!!!」
………………まぁ普通に考えて1人しか心当たりないんだけど。
思わずファーストの町にいく道の途中でしゃがみ込む。
「クウガだよな。やっぱり……セリーヌと知り合い。俺を恨んでる。俺の嫌がる事を頼んだ。ナイやどこぞの馬鹿皇子も俺を恨んでると思うがそこまで陰湿じゃないし、サンも一応俺達の事を友人。として言ってくれてる。スミレか? と思ったけど……母親候補2人を消す事はないでしょ、そこまで恨まれる事した? ってかセリーヌと勝負って何したんだあいつは」
ゆっくりと立ち上がってノロノロと歩く。
もう何からしていいのか。
流石に半年以上もここにいると顔なじみになるって事で軽く挨拶をする。
「よう大将。どこいくんで?」
「…………彼女探しの旅」
間違えてはいない。
「あー? ああ、そっか大将は彼女いなかったか……いなかったか? まぁ大将ならすぐに彼女出来るさ」
軽い挨拶でわかれる。
なるほど……やっぱりここも記憶が無いのか。
俺が街の中を歩くと前から走ってくる女性がいる。
俺を見ては一気に距離を縮めて来た。
「クロー兄さん!!」
「っと、ノラか」
「クロー兄さん。黙って聞いて……何かされてるはずなんだけど何かわからないんだ」
あせった様子と言う事は何か違和感を感じて俺に知らせてくれたのだ。
「流石はノラだな」
「そういうのはいいから……クロー兄さんは知ってるんだね? 今度は何なの?」
ノラと歩きながら小さい声で話す。
俺に彼女が2人いた事、その彼女がセリーヌによって存在を消された事。
存在が消えた事によって皆の記憶から消えた事など。
「わかった。じゃぁボクはクウガさんを探して殺せばいいんだね」
ノラが頷いた所で、俺はその腕を掴む。
「待て待て待て待ってぇ!」
「違うの?」
「違うよ!?」
「でも、ボクも知ってる2人が消えたんでしょ? いくらクウガさんとはいえやってる事が陰湿だよ。ボクだったら真正面から勝てなくても寝込みを襲えば……」
どうやって寝込みを襲う気だ。
……いや、ノラだったらマジで体を使って寝込みを襲うかもしれない。
陰湿なのは間違いないんだけど、その方法はセリーヌがやった事だし……もしかしたらクウガだって望んでない結果な気もするしさ。
だって、アイツは俺を殺してアリシアを奪う気だろ? そのアリシアを消してどーするねん。って話で。
「辞めて」
本心の一言だ。
「でも!」
「最悪な時は俺が手を下すから」
「でもクロー兄さんは絶対クウガさんを殺さないよね?」
「いやぁ、俺も本気出せば」
「嘘つき」
断言されてしまう。
そんな信用ないかなぁ。俺も平和主義ってわけでもないしそこそこ手を下してるときあるんだけど。
「まぁクロー兄さんの考えがそうなら黙ってみてるけど……でも、未来からクロー兄さんの子供が来て母親は誰だって……騒ぎ合ったよね?」
そういう騒ぎになってるのか。
「実際はちょっと違うけどな」
「それでいくと、何もしなくても全部うまく解決する場合ある?」
「駄目だろうな……未来の俺は過去に子供が来た事を知らなかったみたいだし……多分解決しないと。メルナとアリシアは消えたままだろう」
「ふーん……そういう名前なんだね」
「名前も覚えてない?」
ノラは頷き俺を見る。
「うん。大事な何かか消えた感じだよ。じゃぁクロー兄さんボクは何をすればいい? とりあえずあっちこっちに飛んで各種ギルドに通達後、クウガさんを捕まえて魔力封じの独房に入れる?」
正直何もしないでくれ。
と、しかいいようがない。
実際にあっちこっちのギルドに言っても捕まえる事は不可能だろう。
誰も信じようがない事例だし。
『俺の彼女2人を消した黒幕がクウガですから捕えてください』って言っても『彼女は妄想ですよね?』 と言われてしまう。
でも、言ったら怒るだろうなぁ……俺もかなりキレてるけど、俺よりもキレてる。
「クロー兄さんその顔は……はぁ逆にキレてないクロ―兄さんがおかしいからね! 恋人だよ!? それが2人も。変な同情してるけど……それでいったらクロー兄さんが一番悪いからね」
「心読まないで」
「読むほどでもないからね……」
俺のSAN値が削られる。
SAN値ってのは精神ゲージみたいので0になると発狂したりするやつだ。
めっちゃ怒られてる。
「一応補足すると……例えクウガを殺しても2人は帰って来ない可能性が高い? 存在を消したのはセリーヌなんだし。そのセリーヌが故意に存在を消したんだ。解決策はあるはず」
「騙されてない? 案外クウガさんを殺したら約束も反故になってもどるんじゃないの?」
そこまで言われると、そんな気もしなくてもない。
「とにかく、ノラはここで孤児院を守っていてくれ」
「………………一緒に行くつもりだったんだけど?」
だろうな。
だってノラが俺をノラの家に誘導してるんだもん。
途中から反対側の入り口じゃなくて町の外れに誘導されていたから。
「頼む」
「…………わかったよ。消えた恋人さんの代わりに孤児院を手伝う。記憶ではクローディアさん1人と聖騎士団。後は客人であるクロー兄さんで守っていたんだけどね」
「だろ? 俺が居なくなるとちょっと戦力がなぁ」
ノラが「すぐにそう言って誤魔化すんだから」って小さい声で文句を言いだす。
うん。聞こえないふりしよ。
「そもそも半年も放置するほうが一番悪いと思うんだけど」
うん。これも聞こえないふりしよ。




