第394話 ちゃんと言えた俺って偉い!
ラスダンも2周目となると早い物で、あっという間にボスの場所に付いた。
クウガはともかく、道を知ってる俺を見てはクウガは何度か不思議がっていたが、メルナと前に来た事がある。と、言うと納得してくれた。
祭壇のような場所。
その奥に人が入れるほどの魔石が見える。
その魔石は半分地下に埋まっているようで、その魔石からは黒い魔力が集まるのが見えた。
「クウガ薬の残りは?」
「はい、エリクサーが残り2本。あとはハイポーションが数個ですかね」
「ん。俺も手伝う」
「はい!」
ここまで使った薬品はエリクサーが5本。ハイポーションが14本。
大変そうに思えるがほとんどがクウガに使った。
俺はほら……再生(強)ついてるから。
発狂しそうなほど痛みがくるだけで再生される。
いっそ発狂したいとも思うが、そのたびにメルナの乳を思い浮かべて何とかしのいだ。
「ってかボス出るまで長くない?」
「前回倒しましたからね……でも黒い魔力が見えます。あれが人の姿になると戦闘開始です。以前よりは弱いと思いますが……ほら声が聞こえますよね」
……全く聞こえん。
「聞こえない」
「本当ですか? 願いを叶えたくば力を。って」
「まじで聞こえるの?」
「はい。あの襲ってきます!!」
ちっ。
俺が舌打ちすると同時に黒い魔力が人型になる。
2刀流で攻撃してくる姿はまるで『裏アーカス』を思い出される……ってか、それもそうか、あれも裏ボスだし。
しばらく戦うと人型が四つ這いになる。そのまま獣の姿になり攻撃を仕掛けて来た。
はいはい。
疑似タイプのボスだもんね、過去に戦ったボスなどの影になったりするんだよね。この次は鳥タイプだっけかな。
「あの!! クロウベルさん。途中から後方で腕組んでないで手伝ってもらえますか!!」
「おっとっ! はいはい……まったくクウガは弱いからな」
「……やっぱ手伝わなくていいです」
あれ。
怒らせるつもりはなかったんだけどクウガが怒ってしまった。
別にさぼっていたわけじゃなくて、ボスを観察していただけなんだけど。
1時間ぐらいかかったのかな。
黙ってみてろ。と言うので黙ってみていたらクウガが大声を上げた。
全身を斬られたクウガが血だらけのまま影に剣を突きさしたのだ。
もう出血多量で死ぬんじゃないかって思うと、懐からエリクサーを出して飲んでいる。体中から湯気が出ると傷口がふさがっていくのが見えた。
何という戦い方をしてるんだ。
あれじゃいつか死ぬぞ。
「はぁはぁはぁ……ど、どうだ!! 僕一人でも倒せるんだ!!!」
叫んでいるクウガの横を通ってボスがいた場所の大きな魔石に手をかざす。
「うわぁ……」
「クロウベルさん? どうしました?」
「いや、何でもない」
何でも無い訳じゃないけど、これ多分俺にしか見えてないよな。
魔石の中にウインドウが見える。
古代都市のデバックルームで見た奴と同じで指でタッチすると様々な項目が出てくる。
項目が複雑すぎて……うわっ『error』の文字が出て消えやがった!!
俺は大きな魔石を叩く。
「クロウベルさん!! 何してるんですか!」
「え、ほら電化製品は叩けば治るから」
「でんか……? 意味の分からない事を言わないで今はしないでください! 退いてください」
怒られてしまった。
俺の代わりにクウガが触ると黒い魔力がクウガの腕を伝って周りにまとわりついて行く。
ほう……。
俺の時は何もなかったのに。
「アリシアの呪いを解きたい!」
クウガが叫ぶと、黒い魔力はクウガの全身を包む。
ゲームだったらムービーシーンかな? って思っていると黒い魔力は小さくなり魔石へと戻っていく。
「これで大丈夫……と思います」
「クウガ。ちょっと裏アーカスの剣貸して」
「え? はぁ……どうぞ」
久々に裏アーカスの剣を手に取る。
俺の視界に線が増えた。
この線って世界のつなぎ目みたいな者でそこを斬ると綺麗に斬れる。
魔石を見ても線が一つもない。
が。
俺はその魔石に裏アーカスの剣を思いっきり突き刺した。
「なっ!! クロウベルさん!? 何てことを!!」
「え。ダメだった?」
「駄目だったって……」
「そもそも能力を書き換えれるアイテムを誰でも使えるのが怖いんだって……今回みたいな場合はともかく、これがあったら戦争し放題だよ?」
「え? でも強さをの報酬で……」
あーだめだ。
クウガはわかってない。
今回はアリシアの呪いだからまだ良いけど……これが世界の王になりたい。とかだったらやばいよ?
「壊れなくても一時的に使え無くなればいいし」
剣を抜くと魔石に大きなヒビが入り動いてる様子はない。
前に来た時に壊せばよかったんだけど……ほらここまで来てないし、来たついでって奴。
「でも試練を超えし者にとっては褒美ですよ! クロウベルさんだって試練を超えればメルさん以外にもハーレムが作れるんですよ!」
「作りたくないし!!」
「そ、そうなんですか? 男の夢じゃ」
どんな夢だよ。
あっでも……そう、俺はまだクウガにアリシアとお試しで付き合う事を伝えてない。
「とにかく。この装置は暫く壊れていたほうがいい。本当は完全に壊したかったけど……」
魔石に大きな傷は出来たけど、黒い魔力が壊れた部分に入り込み修復しようとしてるのが見えた。
「まぁ……クロウベルさんがそういうなら」
「クウガだって自分以外が服従する世界は怖いだろ?」
「そう……ですね」
「世の中にはそれがいいって奴もいるからね」
と、言う訳でクウガと雑談しながら迷宮を後にする。
外に出ると『コメットⅡ改』が停泊しているのが見え、俺もそれに乗り込んだ。
壁際に背中を預けると、クウガがあちこち点検してエンジンをかける。
目の前のメーターは赤色が多い。
本当に大丈夫かこれ。
さて……本題を言うか。
「クウガさー」
「黙っていてください! 飛ぶかどうか……エンジンの調子が悪いみたいで」
「うい」
外の吹雪が酷くなってきた。
「……無事に帰れるように魔石に願えばよかったですね」
ボソっとクウガが嫌味を言う。
「そう言う事いう!?」
「別に、本当の事ですけど!」
「そもそもそういう性格だからアリシアから嫌われるんだよ」
「嫌われてませんし!! 文句言うなら、そっちの補助エンジンのレバー押してくれません?」
俺はクウガに言われるままレバーを上げる。
滅茶苦茶固く、押し切ると別の振動が足元から聞こえて来た。
「僕は戻ったらアリシアに告白するんです! 5回目の!!」
「お。おう」
あまりの多さに引いてしまった。
「ええっと……何で過去に振られたんだ?」
「僕が聞きたいです! いえ……アリシアの中にはクロウベルさんがいるんです」
エンジンが始動し『コメットⅡ改』が浮き上がる。
「何でなんだろうな」
これは俺の本心だ。
「もういいです。後……僕から手紙が届くと思うんで捨ててください」
「手紙?」
「はい。僕が帰らなかったらって奴です。クロウベルさんに出したんですけど……」
「ああ。わかった」
『コメットⅡ改』が何とか雪原地域を超えた。
不安定ながらもなんとか飛んでいる感じだ。
俺もクウガも謎の緊張から少しだけ溶けた。
「あの所でクロウベルさん。僕への用事って何だったんです?」
「え。ああ……そのアリシアと仮に付き合う事になった」
しばらくエンジン音だけが響く。
大きな堅い物が折れるような音が聞こえた。
振り向くとクウガと眼があってクウガの手には折れたエンジンのレバーが握られていた。
「何やってるの!!」
「クロウベルさんが変な事を言うから!! 補助エンジンお願いします」
俺は急いで補助エンジンをかけ……こっちのレバーも折れた。
「クロウベルさん!! 何やって」
「あーお前が急かすから! 折れたでしょ!」
「つ、墜落します!!」
墜落する。
クウガそう言った瞬間、空の端っこで大きな竜が見えた気がした。




