第40話 クロウベルは考えるのを辞めた
食べた気がしないのじゃ。と言う師匠は置いておいて朝食は終わった。
ちなみに、焼き魚。野菜スープ。卵。なぜかパン。
いや良いんだけどさ……せめて麦飯が欲しい。
料理や生活に関しては魔法を使える冒険者が魔法を使いそれなりに回っている。ここでは氷魔法が得意な人が大活躍で逆に火属性の人はあまり見ない。
そんな余談は置いておいて俺が部屋に入ると、一緒に食堂で食べていたアリシア達も合流してきた。
部屋が狭い。
「ええっと……もう少し詰めて」
だって、俺と師匠。ノラ、アリシア、ミーティア、クィル、クウガがいるんだもん。元々3人部屋で7人もいたら狭いのなんの。
テーブル前に俺。となりは空席で窓側に師匠とノラ。
反対側にクウガとアリシア、ミーティアとクィルは立っている、こうみるとなんだろう結婚を申し込んだ2人に俺はその父親みたいな構図だ。
「クロウベルさん、解決策って見つかったんですか」
そういうのは、主人公補正キラキラのクウガだ。
「昨日の今日だよ? 流石クロウ君!」
「え。まぁ……そのためにはクウガ君の協力が必要なんだ……」
「君だなんて、僕に遠慮はいらないです」
いや、ヘソを曲げられても困るし。
「その、呪いってとく必要なくない?」
俺が言うとクウガが黙りだす。
表情が消えたかと思うと不機嫌な顔になっていく。
「やっぱりクロウベルさんは、僕をからかって遊んでいるんですね! 僕が今までこの呪いのせいで受けた生活を」
「例えば?」
「い、言えるわけないじゃないすか!」
ちらっとアリシアを見てはクウガは黙りだす。
「クロウ君それはかわいそうだよ。クウガ君はこの呪いのせいで女性の裸を見るのが多いの。それは誤解されるぐらいに」
ミーティアが「クウ兄ちゃんはただのエッチと思うんだけど」と、突っ込んでくる。
「ううん。ミーティアちゃん毎週着替えをみちゃったり、シスターのお風呂や、なんだったら時間を変えて生活習慣もかえたのに、お風呂でばったりとかあると思う?」
「それはその……」
「こないだ……胸をもまレタ」
「クィル! ち、違うから! あれはたまたま」
クウガが少し焦って答えると、呪いは本当の様だ。
「いや。俺が言いたいのは……それを含めて別に良くない?」
「クロウ君?」
「いや。だって男の夢だよ、ハーレムの呪い。そりゃ少しハプニングはあるけど」
「クロウ君」
アリシアが笑顔になった。
「何?」
「クウガ君が呪いとうまく付き合っていくなら何も言わないけど、クウガ君は苦しんでるの、私は幼馴染としてそれを助けたい。それに」
「それに?」
「先生だって裸見られてるけど、クロウ君的にいいの?」
ん? はっ!? そ、そういえば昨日の温泉。
その時に師匠の声が聞こえたはずだ。
俺はばっと振り返り師匠を見る。
「ん? なぜドアホウの許可がいるのかしらんのじゃが、まぁ見られたと思えば見られたのじゃ」
「ボクなんて全部見られた……」
俺はクウガに向き直る。
俺でさえ昨日やっと師匠の胸を見たのに、大事な部分は見えなかったけど。
それなのにだ! ラッキースケベで簡単に見るコイツが憎い、憎すぎる。
「よし、死んでくれ。そうしたらハーレムの呪い関係ないしアリシアが無茶する必要もない。解決だ」
「クロウ君!?」
「クロベルさん!?」
パッコーン。っと音ともに俺の視界が吹っ飛んだ。
テーブルに鼻をぶつけ、鼻が折れたんじゃないかっていうぐらいに痛い。
「いっ……師匠!?」
「その時は、ドアホウはワラワが殺すのじゃ。なにアリシアを泣かせるような事を提案するのじゃ、このドアホウは」
「ふふ、クロウ君はいつもまっすぐで」
俺は小さく『癒しの水』の回復魔法を唱える、鼻の痛みはやわらいで来た。
「じゃぁ殺すのはいったんなしで……そもそも呪いを解くカギってのも無いんでしょ?」
スータンでフレンダと出会ってないんだ。
出会っていれば、呪いを解くにははるか先にある『原初のダンジョン』というヒントも出てないはずだ。
「それは、聖都タルタンにいけば」
「治ると思ってるの?」
「治るに決まってますよ」
あれ。クウガの顔が少し怒っているな。
そんなに悪い物じゃないんだけどなぁハーレムの呪い。
しかもこの世界、結婚はあるけど愛人も普通にある、俺の父でサンドベルなんて2人と結婚した後に、アンジュと愛人だよ。
俺の記憶では別に聖都タルタンに行っても呪いは解けないんだけどなぁ。
「クウガよ。呪いとは祝福と同じじゃ。そうそう簡単につけたり外したりはできんのじゃ。こやつ、ドアホウではないが呪いを祝福と感じる事はないのじゃ?」
「この呪いのせいで僕の生活はまともじゃない……冒険者ギルドでも、クウガと組んだら妊娠するって噂だってあるんですよ! まともに生活する事だって……」
クウガが怒りの幸せ報告だ。
「クウ兄ちゃん。周りの職人さん達の奥さんの着替えも見たり、シスターと
湖で密着したり、ルットンの街では男性達に嫌われていたもんね」
「あれは事故だ」
「でね。みんな満更でもない顔でクウ兄ちゃんの顔をみるの……」
「神に違って手は出してない!」
クウガが弁明するが、少し羨ましいな。
確かにクウガがいくらエッチなイベント起こしても、女性達は笑って許す。所がしょうがないわねぇ。でイベントは進むのだ。
「クウガ、もう男だけの街にいくか?」
「……わかりました」
冗談で言った言葉にクウガが頷いた。
ミーティアが「クウ兄ちゃん!?」と悲鳴をあげる。
クィルが「クィルとけっこンは?」と不思議そうな声を出している。
「僕が逃げ出さないようにクロウベルさん。一緒に行ってくれるなら」
「やだよ!?」
「じゃぁなんですか!? クロウベルさんは自分が良ければ他人が不幸になってもいいんですか!? 僕だって必死に頑張っているんです、アリシアを守りたいのは僕もわかっていますが、僕だって必死で」
「クウガ君落ち着いて」
アリシアが静かに言うとクウガが不満そうな顔で言葉を止める。
「僕は落ち着いている!」
「クウガ君……私がお願いしてるの」
「いや、落ち着くよ」
はいアリシアさんが怖いです。
解決策といってもなぁ……。
「ようは……アリシアが無茶しなければ問題ない。何でアリシアが無茶するか、といえばクウガが君が無茶するからだ。最初の街で嫌われたからって別にアリシア達とは嫌われてないんでしょ。嫌われるのは主に男……だったら旅を辞めて落ち着いてもいいわけだ」
「そ、それは……」
勝った!
これでクウガは自粛して旅を辞めるはず。そしてノラをクウガに渡して俺は師匠と山に隠居するのだ。
「だろ? クウガ」
「じゃぁクロウ君代わりにがんばってね」
アリシアが満面の笑みだ。
「アリシア?」
「別にクウガ君の目的は呪いを解くだけじゃないよ? そんな自分勝手な目的なら私は一緒について行ってないかなぁ……でしょ?」
「え。まぁ……少しでも世の中を変えたいんです……呪いを解いたら孤児院を作りたいんです。親のいない子供が大きくなると犯罪か冒険者などしか――」
クウガは語りだす。
このゲームの【欠点】を……。
いやそうなんだ。『マナ・ワールド』に限らずゲームというのは世界が破綻している。
大抵の世界は孤児院があり冒険者がいる。
貴族や階級制度もある。
あるが、そこで終わりなのだ……何十年、何百年と続いたかは知らないが、そこから民衆が立ち上がる! とうような革命が起きた形跡がない。
そもそも冒険者ギルドがそんなに権力あるなら、貴族社会だって崩壊したりもする。
そのくせに文明が突然発達していたり、冒険者がいきなり領主や王とあったりもする。普通ないよ?
主人公であるクウガは、その夢を語る事。
「――――だから僕は英雄を目指していると思われていますが、周りの人を助けられるような小さな英雄になりたいんです」
クウガの語りは終わったようだ。
「ええっと……がんばってね……」
「クロウベルさん! 僕の話聞いてました!?」
「き、聞いていたけど」
アリシアに無茶をさせない。
クウガに旅をさせない。
クウガは英雄になりたい。
クウガは呪いを解きたい。
アリシアは俺にクウガの代わりをしろって言ってくる。
俺は師匠と引きこもりたい。
「うがあああああああああああ!」
「ドアホウ!?」
「クウ兄さん!?」
頭をかき回す。
完璧な作戦が破れたのだ。
「ノラ……何か案は?」
「ボク?」
「あの時も……俺達が無一文になった時にノラの助言で何とかなったから」
「ボクは計算は得意でも一般人だよ? …………でもあえて言うなら聖都タルタンで呪いを解けるか見る、その間にアリシアさんは魔法を一切禁止。その補助にクウ兄さんが手助けをする。かな。メル姉さんとボクも手伝うし、ミーティアさんとクィルさんも当然手伝うと思う……どうかな」




