第386話 ふと思うアリシアの事
「ちょっと思うんですけど」
「なんじゃ?」
戦闘中メルナと背中と背中が合わさった所で声をかけてみる。
襲って来る人より大きなサンドスコーピオンの一撃をかわし、その尻尾を斬り落とした。
「俺ってアリシア達の事を幸せにするべきなんでしょうか」
尻尾を斬り落としただけで爪の勢いは衰えず、そこをメルナが鞭で叩き落とす。
次に襲って来るのは、ライオンみたいな魔物。
4足歩行で尻尾が蛇、背中には大きな翼ある奴……魔法が得意なんだけど魔法が使えないこの場所では力が強いだけの奴。
「ロウよ」
「うい」
「それ、今言う事なのじゃ!?」
「だめっすかね……?」
魔物の爪かわして、その首に剣を刺す。
この世界に魔物保護委員会などいたら一発でレッドカードのような光景だ。
世の中には魔物を飼いならす人などもいるんだけどねぇ、迷宮のは無理でしょ。
「だから今言う事なのじゃ……? そもそも幸せとは何じゃ?」
メルナの攻撃で雑魚の魔物が一層される。
そのまま俺とメルナは走っていき祭壇へと着いた。
祭壇は敵が来ないらしく俺達の疲労と傷が一気に回復した感じになる。癒しの光でよくある回復ポイントだ。
祭壇の中央には黒い爪があり、その左右には宝石などが入った壺。
その壺の1つが『悠久の砂』が入ってる。
「なんでしょうね? やっぱりクウガとアリシアがくっつくべきでしたかね? まぁ俺も最初はそうしようと思ったんですけど、アリシアが『なんで?』って言うので最近では無理につけようとはせず、放置してましたけど」
メルナは爪を手に取って鑑定をし始める。
眼が爪に行っているが、話は俺と続けてくれるらしい。
「前にロウが言っていた『ゲーム本編』との話じゃな。それと並行世界。むこうのワラワから話しは聞いておるし、むこうのアリシアがどういう結果を出したのかは聞いておる。クウガを選らんでいるのじゃろ」
「そのクウガを倒して俺燃やされましたね」
武闘大会で、本家のクウガを倒したら本家のアリシアに体を燃やされた。
本気で死ぬかと思ったシリーズの上位に入る。
「一応聞くのじゃが、それはロウがこれからアリシアと浮気をしたいけど許可を得るために聞いてるんじゃないじゃろうな?」
「ん? ああ!! もしかしてそう聞こえます!?」
「聞こえるのじゃ」
「え。しても?」
メルナの眼が細くなる。
思考してる時の顔で大抵はろくな事を言わない時の眼だ。
「別に……ロウがそうしたいのならなのじゃ」
「あざっす!」
とりあえず返事だけはしておいた。
俺もメルナも無言だ。
悠久の砂を革袋に入れて腰にあるマジックボックスへと入れ終えた。
「ワラワのOKが出たのに良い顔じゃないのう。アリシアの事は好きじゃないのじゃ?」
「好きってか、その2択なら好きですよ。ただそれと恋愛感情は別で……別にアリシアの胸を揉んだり腋を責めたり、足の裏を舐めたりは別に」
「ド変態じゃな」
「どうも」
後は帰るだけ。
帰るまでか遠足だ、遠足じゃないけど。
「アリシアにその気がないなのじゃ。一度聞いた事があるのじゃがアリシアはワラワとロウが好いているのを見るのが良いじゃとか」
「変わってますね。さすが師匠の教え子!」
メルナが黙って俺を見る。
「もしかして俺が変人と思ってます!?」
「それ以外に何を思えとなのじゃ……」
「まぁまぁまぁ……真面目な話をすると俺がアリシアを抱こうとしても拒絶されると思うんですよね。抱く気も無いというか。じゃぁ本来のパートナーであるクウガなら拒絶されないのかと考えても? ってあっちもあっちで友人関係の止まりですし……」
メルナが黒水晶の爪を俺に投げてよこしてくるので、それをキャッチするとそれもマジックボックスにしまい込む。
俺の考え通りなら街の中に入れれば敵は来ないので、メリンダへのお土産だ。要らなかったら冒険者ギルドにいるカイにそのまま上げるつもりである。
売ればそこそこのお金になるし、その半分でもメリンダにでもいけばいいかな。という考え。
祭壇から一歩でると、実体化した迷宮の魔物が俺達に襲い掛かってくる。
「うおっと!?」
「アリシアが生涯1人で孤独に老人になる場合を考えているのじゃな?」
「え? まぁ。あっメルナ。そっちの助け要ります?」
「こっちは大丈夫なのじゃ。それよりも帰りのほうが敵が多いのじゃ気をつけていけ」
「うい」
そこなんだよなぁ。
結局俺が生きてるから、全員の幸せを奪ってる気にもなる。
幸せになったのは俺とメルナだけ。のオチ。
「そんなに心配なら本人に聞けなのじゃ」
「いやなんですけど」
「今さら逃げるのじゃ!?」
俺の足元に鞭が飛んでくる。
メルナは直ぐに「敵が足元にいたのじゃ」って言うけど絶対にわざとだ。
「考えても見てくださいって。うおっとメルナ危ない」
俺はメルナの背中をスーっと縦に触った。
ぶるぶると体を震わせたメルナを見て少し離れる。
「このドアホウ! 危ないじゃろ!!」
「俺は危なくないですし!!」
じゃれ合ってると魔物の攻撃が飛んでくる。
気を抜くと普通にやられる。
「そもそも。一度振った相手と笑顔で交流出来るぐらいになってるだけで奇跡なのに。俺がアリシアに『いやぁメルナと関係もったけど、アリシアも良かったら俺の愛人になる? 俺は恋愛感情ないけどアリシアが体だけの関係でいいなら』って言えると思います!?」
「鬼畜じゃな」
「でしょ!?」
俺がサンドスコーピオンの攻撃をかわして一歩前に出ようとすると足を掴まれた。
鞭に。
「はい!?」
俺は転び、すぐ背中にサンドスコーピオの尻尾が刺さる。
いっ!?
痛い痛い痛い痛い痛い。
カバンからすぐにハイポーションを飲み背中にもかける。
「おっと、手が滑ったのじゃ。その程度の攻撃ならしなんじゃろ」
「あの、八つ当たりは……」
「別に……それと同じ言葉をノラとミーティアにも言ってくるのじゃな」
「あの、なんでそこでノラとミーティアの名前が?」
ノラは俺を父のように見てくるのは知ってるけど別に恋愛感情は無いでしょ。
ミーティアに至っては俺で遊んでるだけだ。
「ついでに言うとなのじゃ。お主の息子……スミレおるじゃろ?」
「まぁいますね」
クソ生意気なの奴か。
あれだけ父親がクウガなんじゃ? って疑心暗鬼になるほど。
「アレと付き合おうとしてるのもその3人じゃ」
はい?
思わず立ち止るとメルナが必死にな顔で鞭をふるう。
俺の周りにいた魔物が粉々になって消えていくようだ。
「ドアホウ。前を見るのじゃさすがのロウでも5体から攻撃されるときついじゃろ」
「っと、すみません師匠!!」
慌ててアンジュの剣で、今度はメルナのカバーへと回る。
昔の呼び方をされて思わず師匠呼びになる。
「スミレってどうみても劣化した俺なのに!?」
「劣化はしらんのじゃ……アリシア本人に聞けなのじゃ」
もしかして若い子が好きとか?
まだ15歳ぐらいだもんな、俺が15歳の頃にはもうブイブイ言わせて……いやアンジュにしごかれていた居た時だ。
「いっその事ワラワと何百年も隠れるって手もあるのじゃ」
それはそれでいい考えだ。
時が解決する。もう何も考えなくてもいいのだ。
結構真面目な話をしていると、出口が近い。
「まっ暇を見つけて聞いてみますよ」
「そうじゃな、それがいいじゃろな」




