第378話 リメイクではダンジョンでも頭をぶつけません
「と、いうのが2週間ぐらい前の話」
俺は目の前のセリーヌに話し終えた。
一生懸命に説明してるのにセリーヌは足をパタパタさせて暇そうである。
顔はこっちを見てないし、苺が乗ったショートケーキを食べている所、ねぇ……ちゃんと聞いてる?
「話はわかったわ、クロウお兄ちゃん」
あっ聞いてた。
「そんな詰まらない話をするために、ここに来たのね」
場所はレイアランド諸島の封印された地下迷宮の奥部。
近代部品に似た施設や欠けたクリスタルなどを抜け、さらにその奥にある乙女チックな部屋でセリーヌとお茶会中である。
「俺にとっては一応一大事なんだけど」
「その2人の子よね。未来に帰れなくてもいいと思うんだけど? たった数十年から数百年の誤差よ?」
「その誤差で人間は死ぬんだけどな」
「大丈夫よ。クロウお兄ちゃんは死なないから」
俺の話ではないし。
「まぁそんな顔をしなくてもいいわよ。未来のセリーヌがそう言ったのなら現在のセリーヌも良い所を見せるべきね!」
「ありがてぇ……ぶっちゃけ頼れそうな人いなくてな、セリーヌがいて助かったよ」
「まぁクロウお兄ちゃんって口が上手いんだから」
セリーヌが上機嫌になっていく。
普通の事を言っただけなんだけどな、実際に手詰まり感あったし。
「実はちょっと変な魔力は感じていたの。直ぐ近くに大きな魔力が現れるんだもの……新しい竜が誕生したのかと思っていたけど。セリーヌが未来から来てたのね、どうせなら未来の事でもお話してくれるとよかったのに……ええっと、クロノスの砂時計よね?」
「そ。この時間のセリーヌの頼めば、何とかして未来から送ってくれるって」
「もちろん作り方は知ってるわ。でも……」
珍しくセリーヌが言いよどむ。
よし!
「俺に出来る事なら……クウガにやらせるから」
「……保険使ったわねクロウお兄ちゃん」
そりゃそうだ。
目の前のセリーヌが、言いよどむってよっぽどの事だ。
口ではそう言ったけど結局は俺がするけどさ。
ここ数ヶ月クウガとは会ってないし……まぁアレなら元気だろ。
「入れ物のほうは黒魔石で加工できるとして……問題は砂なのよ」
「そこら辺の砂じゃだめ?」
「じゃぁセリーヌ。それで作るね、明日にでも出来ると思うの」
「ごめん! 辞めて」
セリーヌはもう。と頬を膨らませる。
謝らないと本気でその辺の砂で作るだろうな。
「スータンのあるピラミッドとストームにある逆ピラミッド、そこにある、たった数粒の虹の砂。あとはナイお兄ちゃんの所にある『奇跡の砂』それを集めてくれればいいわよ」
うわぁ。
「セリーヌはどっちでもいいんだけど、クロウお兄ちゃん、ものすごい嫌そうな顔いてたわよ。ああ、なんてめんどくさいだろうって」
「ソンナコトない」
めっちゃめんどくさい。
まっ、でもやるしかないな……スミレはともかくサクラはちゃんと返したい。
健気にも俺を頼って来たんだ、来なくてもいい過去に来てるって事だろ。
帰る手段あるなら帰してあげるのがせめて俺の仕事。
偶然。というか……今現在の俺は定職が無いし。
少しでも父親の良い所を見せたい。ってのもある。
「クロウお兄ちゃん無職だもんね。時間いっぱいあるから大丈夫よ」
「うぐ。冒険者と……言って」
「ギルドにも加入してないのに?」
「うぐ……そ、そうなんだけど」
「クウガお兄ちゃんは帝国でお仕事。その仲間たちもお仕事、あっ別にクロウお兄ちゃんが無職でもヒモでもセリーヌは気にしないから安心してね」
可愛らしい笑顔だ。
これがセリーヌ以外から言われればショックで少しでも働こう。って思える。
「他にアイテムは?」
「あら」
セリーヌが突然黙りだした。
な、なに? もっと条件あるわけ?
「クロウお兄ちゃんって。たまに見せる、そういう時の顔かっこいいのよね」
「まじで!? でも俺にはメルナがいるからなぁ」
「はいはい、わかってますよー。メルママの所に戻るのよね? ええっとメルママは今どこに居るの?」
「ファーストの町。ってもわからんか」
「わかるわよ、始まりの丘の所ね。はいこれ」
セリーヌは俺に細長いバトンを渡してくれる。
まるでこれからリレーでもするのかのように。
「これは?」
「転移の魔法を組み込んでいるアイテム。メルママが数百年かけて研究してるやつよ」
「へぇ……え?」
「その完成品」
まさかとは思うがセリーヌを見ると可愛らしい笑顔だ。
こ、こいつ。
メルナが数百年かけて研究してるやつの成功アイテムをすでに持っているって事か。
悪趣味過ぎる。
でも、貰う。転移の門よりも速そうだし。
何十通りもあるパターンなんて覚えてられない、ノラは教えたルートは完璧に覚えたけど、ノラ曰く同じ『転移の門』でも前提のルートが違ったら別の場所にいく。とかなんとか。
「あっ!」
「な、なに!?」
「だったら『リターン』の魔法教えてくれない?」
「…………クロウお兄ちゃんってとても素晴らしい性格してるわよね」
「いやぁ」
俺はセリーヌに照れた様子を見せた。
「セリーヌ褒めてないんだけど」
「知ってる」
真顔で返すと、セリーヌはきょとんとした後に下を向いて小さく笑いだす。
「ほんっと、クロウお兄ちゃん良い性格よね。大好きよ、でも水属性だけじゃ難しいと思うの、唱えても決まった場所に飛ばないと思うわよ……最低でも5属性の素質が無いと無理よ」
「はぁこれだから一般人はつらいな、何でもかんでも結局は血筋か」
「全然つらそうな顔じゃないくせに」
セリーヌから貰ったリターンの魔石に魔力を込めた。
俺は片腕を上げてセリーヌにばいばいするとセリーヌは小さい手を振ってくる。
俺の視界が一気に上にあがると、強烈な痛みで床に落ちた。
「ぷはっは、おかしいわ! やると思ったのよ。ここは迷宮よ!? 外に出ないと頭ぶつけるって」
「いっ……は、早く行ってくれない!?」
俺が知ってるゲームは迷宮の中からでも一気にワープで来たぞ!!
「リターンの魔法に似せて作った道具だもの。外に出ないと。はぁおかしいわ」
頭が割れるほど痛い。
もう一度セリーヌと別れの挨拶してとぼとぼと外に向かった。
迷宮から出ると綺麗な夜空で色々な星が見える。
もう一度魔石に魔力を込めて上空に手を上げる。
体全体が一気に夜空に浮かぶと高速移動で海を越える。
「…………いや。空気抵抗も少ないし魔石を最後まで握ってろ。って説明も完璧なんだけど、これ着地どうするんだ?」
思い出すのは並行世界での事。
あの時は地面が雪原だったのでクッション代わりになった。
ファーストの町が見えてくる。その手前には大きな孤児院。
その上空に止まると俺の体は一直線に落ちて行った。
足元からお湯に突っ込む。
大きな水柱……お湯柱? がたつと近くにいた長寿族の女性に思いっきりお湯をひっかけた。
「…………ロウよ、お主はワラワに恨みでも──」
「あっメルナ! それよりも今のお湯の衝撃でおっぱい取れてません? 俺が確認しましょうか? それにしても浴場にいるのがメルナでよかった……危うく覗きになる所だったし」
「ワラワでも覗きなんじゃがな!! ライトニングフルバースト!!! なのじゃ!!!」




