第375話 俺の恥部を助けてくれたのはクマさんでした。
「冗談じゃねえええええ!!」
とりあえず叫ぶ。
隠しダンジョン、パトラの迷宮。
最初から強敵ばかりいて難をしめたがこっちには地図がある。
そう思っていたが、途中からパトラが『覚えてない』との事で空白の地図。
敵が出るわ出るわ。
迷宮型の敵って毎回言うけどゲーム式が多い。特に雑魚敵。
振り返ったら雑魚がいる。
そんな感じだ。
だが、俺と戦ってるソレは違った。
人を丸のみ出来そうな大きさのワニ……じゃなくてバジリスク。
トカゲ系の魔物で特徴的なのはその魔眼。
獲物を石にして保存し、ぱりぱりと食べる特徴の魔物である。
普通のサイズは大きくて腕ぐらい、食べる餌も同じぐらいの奴なんだけど。
「でかすぎだろ!!」
ボスもしくは中ボス。
俺を見つけてはいきなりの魔眼攻撃。
判断が遅く俺の左腕はすでに石化している。
水影分身を呼ぶもすぐに石にされた。
「何がちょっと強い魔物だ。普通の人間じゃむりじゃねえかよ!」
ハッスルを恨む。
いや、これを取りに行かせたメルナを恨む。
「大体。メルナがもっと感じてく──あっ」
バジリスクの魔眼が俺を完全に捕らえた。
させるか。
体の半身が石になっても突っ込んだ。もうこれしか思いつかない。
バジリスクの眼玉に石化した左腕を突っ込んで強引に引き抜くとバジリスクは奇声を上げて逃げて行った。
「はぁはぁ……あぶね」
石化した腕はバジリスクの血で元の腕に戻っている。
石のまま食うわけじゃないのか。
地図を見比べて『たぶんここ』と印が着いた部屋に行く。
……思わず膝から崩れ落ちた。
「枯れてるじゃねえか!!」
そう元植物園。
そう思わせる部屋にあるのは枯れた草花である。
辛うじて残ってるマテリアの実を2個ほど手に取ると、俺の体は足元から石になっていく。
「は!?」
横を見ると、片目を潰されたバジリスクが勝ち誇った顔をしていた。
あっだめだ。
「セリーヌが助けてあげようか? お兄ちゃん」
「はい?」
ここには居ないはずのセリーヌが石になりかけの俺をしゃがんでみている。
「じゅー。きゅー。はーち。ぜーろ!」
「馬鹿飛ぶな! 助けて助けて!!」
「はーい」
セリーヌはバジリスクに近づく。
バジリスクのほうはセリーヌに魔眼をかけていると思うんだけど、セリーヌが素手で手をふるう度にセリーヌの周りが石になるだけだ。
バジリスクが危険を察して逃げようとすると、バジリスクの体が半分消えた。
残った半分も文字通り消えていく。
「はい、助けたよセリーヌ偉い?」
「あの、俺の下半身石のまんまなんだけど……? あれ、バジリスクの体液は? 血とかよだれ」
「ないよ?」
「ふざけっ! あっごめん! 戻って来てセリーヌ。セリーヌ様!」
俺が怒ろうとすると小さく笑いなが走って視界から消えそうになるので急いで呼び止める。
戻って来たセリーヌはまたしゃがんで俺を見て来た。
「何してるのー? 石像ごっご?」
「解って言ってるだろ……あの。マジで助けて……金の針とかない? ゴーレムを作る時に使うアイテムで石化に効くとかなんとか」
「セリーヌが持ってると思う?」
「思う」
「お兄ちゃんはセリーヌの事わかってないわ、ないわよ」
無かったらとって来てくれ。
「ねぇお兄ちゃん。メルママは怒ってなかった?」
「何の話だ?」
「セリーヌ怒られると思って家出しちゃったの」
「だから何の話?」
相変わらずセリーヌの会話は一方通行が多い。
「んーじゃぁ。お兄ちゃん絶対に怒らないでね。クウガお兄ちゃんが嫌がるセリーヌをメルママの家に押し込んだの。でもね、セリーヌ必死に逃げたらお家壊れちゃった」
ふむ。
絶対に嘘ついてるだろ。
クウガはあれで女好きで下は幼女から上は何万歳まで女性好きなんだけど、無理やりはない。
無いのは解っているが俺はそれに乗っかる。
だって、それを指摘したらセリーヌが助けてくれなさそうだから。
「よーし。そんなクウガは許せんな、俺がメルナに説明してセリーヌの安全を保障する。だから」
「ありがとうお兄ちゃん。じゃぁ壊すね」
セリーヌの一撃で俺は吹っ飛んだ。
壁にあたったらしく下半身が砕けて行った。
うおおおおおおおおお!?
一生車椅子。
いやそれよりも、俺の大事な息子がこなごな……。
生身の部分から腰が生えお尻、ふともも、足先まで再生した。
もちろん俺の大事な所もも生えた。
なんだったら前よりもちょっと大きくなった気がする、ラッキー。
「おうお?」
「お兄ちゃん再生(強)もちなんだから石になった部分をさっさと壊せばいいのよ」
「確かに」
いやそれ考えれるの人間じゃない人の発想だからね。
石になった下半身からマジックボックスを探す、よかったこれは石になってない。
下半身全裸のまま腰に付けた。
「セリーヌ……さん」
「なーに?」
「下にはくものない?」
セリーヌはニヤッと笑う。
「これはいて」
白いハンカチ……いやクマさんパンツ1枚だけを貰う。
イジメには負けない。
俺はそれを履くとクマさんのイラストが思いっきり伸びたような感じだ。
「クロウお兄ちゃんのそういう所、セリーヌ好きよ」
「どうも」
セリーヌが枯れた植物園に手をかざす。
少しだけ悲しい顔をし始めた。
「この植物園は大事にしていたのに」
じゃぁ手入れしろよ。と、言う言葉は言ってはいけない。
「思い出があるのか?」
「美味しい魔力の実が沢山生ってたの」
「マテリアの実?」
「そうお兄ちゃんが手に持ってるソレね」
「…………1個いる?」
「ううん。バジリスク食べたからもう要らないわ」
そう。
セリーヌとともに地上に出て……というかセリーヌがいるから全然敵が出ない。
流石歩く災害。
レイアランド諸島に自称封印されていただけある。
「ああ、それよりも。未来に送りたい人間いるんだけど何かアイテム持ってない? そもそもセリーヌに会いに来たんだし」
「まぁそうなのお兄ちゃん──」
セリーヌが足を止めたので俺も足を止める。
突然女性の叫び声が聞こえた。
敵か!?
セリーヌが近くにいるのに敵ってセリーヌよりも強いのか!?
アンジュの剣を構え悲鳴のほうへ走ると、俺は突然、男たちに捕えられた。
驚く俺の声よりも複数人に体を押さえつけられる。
はねのける前に俺の耳に「このド変態野郎」と聞こえて反応が遅れる。
「女性の下着を履いて幼女を連れているとはド変態野郎!! ギルドの調査依頼は変更だ。そっちにいた幼女の保護を頼む」
「私セリーヌっていうの、凄い怖かったわ」
馬鹿お前。
事態をこれ以上……まぁこの恰好で言っても説得力ないか。




