第373話 邪魔したハッスル
「それじゃ行ってきます」
「何かあればワラワも応援だけはするのじゃ」
孤児院からの出発の日。
俺は見送ってくれるメルナの手をしっかりと握る。
これからこの温もりだけを夜寝る前に思い出して旅をするしかないし。
いや、だったら胸揉んだほうが良かったか?
駄目か。
サクラやアリシア、ノラも見送りに来ている。
来てないのは寝坊してるミーティアとわざと来ないスミレだけ。
「応援だけ!?」
「そうじゃろう。本人はここに居るのにどうやっていけと?」
「メルナの事だから分身とか出来ないんですか? あっ俺も水分身出来るんでそういうやつでいいです」
「…………魔力の消費と距離とみあってないのじゃ。ロウだって帝国に水分身置いても離れれば崩れるじゃろ?」
確かに。
試したことはないが、せいぜい20メートルぐらいの範囲しか想像が出来ない。
「というかなのじゃ。何時まで握ってるんじゃ!」
「ああっ!?」
手を解かれてしまった。
「クー兄さんらしいよ。はい」
ノラが手を差し出してくる。
別に何も持ってはいない。
「何かくれるの?」
「…………握手だよ! メル姉さんみたいに握手しようとしたんだけど。大丈夫そうだからもういい!」
「じょ、冗談だって」
やっべ。そうだったのか。
誤魔化すんだ。
メルナの温もりが消えるけどここはしょうがない、俺だって別にマゾでも無いし怒られたくはない。
にもかかわらず、怒られる事が多い。
悲しい人生だよ。
「本当かな?」
「本当だって。ノラを試したのさ」
「試されたくはないんだけど」
ノラと握手をした後にアリシアに向き直る。
「え、私とも握手してくれるの? 大丈夫2人の温もりが消えちゃうけど、特に先生のが」
「…………別にそんな邪な考えはないから」
アリシアと握手してサクラとも握手をする。
「パパ、ごめんなさい……気をつけて」
「帰って来なかったら察してくれ」
「パパ!」
サクラが俺に抱き着いて来た。
最近サクラのスキンシップが多い気が、廊下ですれ違ったノラに相談したらそういうもんじゃないの? とつれない返事をもらったので、そういうもんなのだろう。
「じゃっ」
聖騎士隊が用意してくれた馬に乗ってファーストの町へと行く。
予定としては、セリーヌに会いに行くんだけど……レイアランド諸島は普通にいくと何ヶ月もかかる。
じゃぁどうするか? っていうと。毎度おなじみの『転移の門』である。
こうしてメルナから貰ったパターンの紙をしっかりとマジックボックスに入れては進むのだ。
3泊4日かけて『転移の門』に付くとさっさと指定された通りにワープする。
そこからさらにワープをしてくぐると……。
裸の女性が2人と裸の男性1人がちょうと何かをはじめ……いや始まってる所に出くわした。
俺と眼が合うのは少し耳が長い褐色の女性。
叫び声を出すのは同じく耳が少し褐色の少女。
最後にぶらんぶらんさせて立ち上がるのは筋肉質の男だ。
「ハッスル!!!」
「やべぇ!!
俺の叫び声と少女の叫び声で俺の耳には全部は聞こえない。
慌てて転移の門に戻ろうとしたら、足首を掴まれた。
俺の上半身はすでに転移の門の内側。外側から引っ張られている。
逃げなくては。
覗きの現行犯でしかるべき場所に連れていかれる。
両足を掴まれた。
「うおおおおおおおおおお!!!」
俺は必死に『転移の門』に力を入れると『転移の門』にひびが入って行く。
っ!?
やばい!!
以前メルナが教えてくれたけど、転移中に転移の門が壊れると、発動中の魔力が爆発する。
メルナと再会した時に1度経験してるし、最悪の場合、肉体は切断だ。
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ俺が切断されたら2人の俺が再生されるんじゃ? って思ったけど別に2人になりたくない。
ってか、マジで壊れる。
「あああーー!! もう。捕まったら逃げるかな!!!」
転移の門を押さえてる手から力を抜くと一気にひっぱられた。
引っ張って来た男と一緒に壁まで回転しながら転がり、俺は受け身をとって腰を低くする。
すぐに逃げなくては。ってか足首がまだつかまれているんだけど!?
「友よ! 逃げるとは不甲斐ない」
「友……?」
逃げるのを辞めて男を見ると、どこかで見た顔だ。
「このハッスル。受けた恨みは忘れるが恩は忘れない!」
「ああああ!! ストームの街であった、筋肉馬鹿おっさん!!」
って事はだ。
耳が少し長い女性は……あれ。いない。
「お久しぶりです。ええっと……クロウベルさん」
「お客さん久しぶりーってか普通額縁から出てくる? 幽霊じゃないよね?」
「シアー……あれ。違うか……スターシャとスターニャ?」
おっとり清楚系がスータシャで、活発看板娘のほうがスターニャだったはず。
いや記憶の片隅にシアーシャ……あれ。
「改名した?」
「ちょっとお客さん何言ってるんですか!? 昔からスターシャ。スターニャ姉妹ですよ」
そうか。そうかもしれない。
2人は衣服を着ていて、着てないのはいまブーメランパンツをはいてる途中のハッスルのおっさんだけだ。
見たくない物がぶらぶらしている。
「む、興味あるのかね?」
「ない。無いから早くはいてくれ」
あったらどうするきなんだ。
考えたくもない。
「ここどこ?」
「ストームの街だよ? お客さんは突然額縁から出てきたの」
振り返ると破れた絵とひびの入った大きな額縁がある。
「ハッスル様。私達姉妹は別の部屋で寝ますので、どうぞごゆっくり」
姉のスターシャのほうが少し怒っているような声だ。
いや、声は優しいんだけど気配が。
「うむ。よく寝るハッスル!」
「じゃぁお客さんまたねー」
2人が出ていくので俺も流れに乗って出て行こうとすると、肩を掴まれた。
「どこに行くのかね?」
「そ、外に」
「はっはっはっは。今こそ受けた恩を返す時。さぁ話すのハッスル!!」
「やめ。やめろ! マジで!!」
俺の体を引っ張る力が凄い。
そりゃその邪魔したのは悪かったけど、俺じゃ代わりにならないからね!? なりたくもない”!




