第371.5話 (他人視点)スミレ君の心情とアリシアおばさん
殺せ!!
頭に響く声。
目の前の男を殺すのだ。
「うるさい!!」
砂漠の中央で目が覚めた。
どこだここは。
魔石の力を使って中継地点に飛ぶ技で飛んだまでは覚えている。
左腕には『凶神の腕輪』が鈍く光っている。
付けたら外れない。
それでもいいのかい? とあの竜は言っていた。
あの時はそれでいいと思った。
過去に飛べばいいのよ。と、あの神竜は教えてくれた。
どこで間違えたのだろう。
悪魔のようなささやきを聞いて神父の前に付いた。
濁った眼をした神父は自分に過去の事を言って来る。
君は元々生まれる予定じゃない子だからね。と。
すべてはあの男を殺せば終わると思った。
全身が火に包まれると懐かしい顔が見えた。
このままでは、あの人を巻き込んでしまう。
親父に振られたあの人を。
いつも優しく、森の中に住んでいる人。
──
────
「巻き込みたくない!!」
自分の声で起き上がる。
あまりの痛さに咳込むと扉がゆっくりと開いた。
薄い青い髪もつ女性と眼が合った。
「アリシアおばさん!?」
「…………やっぱりおばさんなんだね。私ショックだよ」
「え、いやだって。おばさんの家でしょ?」
周りを見ると違う事に気づいた。
クッキーを出してくれた棚や高そうなカップが入った食器棚も見当たらない。
若い時に使っていた。という杖も壁にはなかった。
「あ、ごめんなさい。人違いでした」
「そこまで言って人違いはないよ。スミレ君でしょ? サクラさんから話は聞いてるよ。あのクロウ君の息子だって」
ばれてる。
どうしよう。ギース先生から例え時間転移に巻き込まれたとして絶対に未来の事は話すな。と言われている。
自分の一言で人が生き死にするのだ。
「ち、違います」
「ふふ。そういう所は本当クロウ君そっくり。誰に会いたい? サクラさん。それともクロウ君?」
「誰にも会いたくないです……」
辛うじてそういうのが精いっぱいだ。
何となく親父達と戦ったような記憶がある。
情けない。
いや、情けなくてよかった。
この手で過去の親父を殺す所だった……何を考えていたんだろう。
サクラにも迷惑を……。
「え!? サクラもいるんですか」
「いるよー。スミレ君が死なないように未来から来たんだって」
「……終わった。歴史が……」
「分岐点が増えただけだよ? しばらくは左腕動かないと思うから。後で食事をもってくるね」
アリシアおばさんが部屋から出ていく。
この間に逃げよう。
自分は何て事を……いくらなんでも。
部屋にあるカーテンをめくる。
外は薄暗く逃げるなら今だ。
窓を開けようと鍵を手に取ると……堅い。
子供では開かないぐらいに堅い。
「硬すぎる」
全身の力を使って鍵を掴むもびくともしなかった。
「はぁはぁはぁ……窓はだめなのか。じゃぁ扉だ」
扉のノブを思いっきり引っ張る。
これも開かない。
両足を壁。
右手1本で開けようとするもあかな──。
突然扉が開くので床に落ち頭をぶつけた。
「いっ!?」
「あっそうそうスミレ君。部屋に封印術したから逃げれないからね」
アリシアおば……いやアリシアさんは自分にそう言うと扉を閉めて消えていった。




