第371話 戦闘シーン。そんなのはない
ファーストの町近くにある古代都市遺跡。
俺がスミレと戦うために毎日通っていた場所である。
目の前にはボロのローブをまとったスミレが壁に張りついて唸っている。
張り付いているというのはそのままの意味で壁には白いトリモチがびっしりとついていた。
「さすがクロウ君! 誘導が上手だよ」
息を切らせたアリシアが杖をマジックボックスにしまう所だ。
「まぁ俺を狙っているのは知っていたから、古代遺跡まで誘導したんだけど。こうもあっさり引っかかるとは」
「どうしよう。先生達も呼んで来る?」
「いや、このままのほうがいい。最悪は俺の手で」
床に落ちたアンジュの剣を拾ってスミレへと投てきする。
アンジュの剣は壁に刺さると、スミレの体がびくっとなった。
「クロウ君!!」
「ちゃんと外したけど!?」
「そういう問題じゃないの! 自分の子でしょ!!」
「一歩間違えていたらクウガの子だけどな」
「クロウ君、二度目は無いよ?」
「うい」
アリシアが本気で怒って来たので軽口はここまでにする。
「しかし戦うのも3回目となると眼が慣れるというか。俺も一応修行したしな」
相変わらずの無言である。
壁に刺さった剣を抜こうとしてるが、腕が壁にくっついて動けないでいる。
「ってかだ。遅いだろ!」
「遅かったね」
もう《《半年近くだ。》》
サクラが言うには、スミレは魔力探知が下手らしく、あっちこっちにある大きな魔力を探し魔石の力で飛んでいる可能性が高い。との事。
でも、帝国領から俺がファーストの町まで来たもんだからスミレは中々来なく今に至るのだ。
やっと俺を見つけた時にはすでに罠は完成してる。
古代都市に仕掛けたトリモチスペシャルで捕獲したわけだ。
どんな罠かというと、餅を巨大にしたような奴。
スライムベースの素材に魔石。砂丘の星砂。ガルーダの羽。それをメルナが魔力を込めて練って練っての完成だ。
効果のほうは凄く、メルナに大事な用があるからと呼び出し使ってみた。
そのまま動けなくなったメルナにイタズラしたら半殺しにされたのは数ヶ月前の事。
とまぁ。
あのメルナでさえ取れないんだ。
いくら俺の息子といえど、そう簡単に取れることはない。
「少しぐらい喋ってくれればいいのに。パパだよー」
「ぐうああああ! 貴様ああああ」
「おっと。まぁ憎悪が凄い事。ってか俺の息子だったら恋人ぐらいでき…………あっ無理か。すまん」
俺は優しく語り掛ける。
そう、俺は学生時代も社会人時代ももてなかった。
そんな陰キャの俺の子に彼女なんてかわいそうだ。
「あっでも。スタン家の血筋であれば彼女ぐらいできそうなんだけど……」
「す……ころ……」
「それしか言えないのか」
予定としては腕と腕輪を斬り落とす。
「じゃっアリシア」
「本当は怪我させるのを黙ってみたくないけどしょうがないよね。うん、いつでも」
ふう……。
アンジュ式居合斬り。
腰を落として間合いギリギリまで動き、そこからの連撃。
1撃目は腕を下から斬り落とし、2撃目で腕輪を斬る。
カランと音をたてて壊れた腕輪からはドス黒い魔力があふれ出て来た。
俺達の足元に大きな魔法陣が現れた。
アリシアの髪が下から上になびくと青白い光が天井まで届く。
「再生と浄化! ハイ・リザレクション。ラストヒール! 治癒の精霊──」
アリシアが次々に魔法を唱えていくと、足元の魔法陣が色が変わっていく。
斬り落とされた腕から出た黒い魔力が散っていくと同時に腕がかき消えた。
え。つなげるはずの腕が消えたんだけど。
ここで疑問の声を出してはいけない。
何て言ったって聖女アリシアだ。
斬り落とされた肩に手を当てると傷口から腕が生えて来た。
しかしまぁ自分の息子でありながら情けない。
過去まで飛んできてトリモチという罠に引っかかり何も達成しないまま終わるのだ。
「ふう……終わったかな」
「あ、本当?」
「………………クロウ君っていつも軽いよね……」
「シリアスは疲れるからね」
「いいのかなぁ。腕は再生させたよ、スミレ君の魔力が思ったよりも無いから私の魔力を繋ぎに入れたかな。しばらくは腕は使えないと思うけど……」
「え。再生したのに!?」
俺だったら再生したら、その場で使えるのに。
「…………再生してすぐに使えるほうがおかしいからね? 再生されただけでも凄いんだよ」
「そうなの!?」
「そうだよ! クロウ君が規格外なの。じゃぁ家まで運ぶの手伝ってくれるかな?」
「まぁいいけど。俺は触られないから水竜呼ぶよ」
「はーい!」
アリシアがやけに嬉しそうだ。
まぁそれもそうか。
俺達居候組みがやっと帰るから。
食費を入れていたとはいえ俺やメルナ。サクラにノラとミーティアが孤児院に居候していたんだ。




