第370話 記憶喪失のクロウベル
孤児院から歩く事10分ぐらい離れた場所に人工的に作られた風呂場があった。
子供が沢山いても大丈夫なように大きな風呂で俺は目のやり場に困っている。
だって湯舟の中で男性は俺だけ。
メルナはまだわかる。成り行きで関係はあるので一緒に入るぐらいはあるだろう。でもなぜかアリシア達も一緒に入っているからだ。
「クロウ君、目線を合わせないけど変なところ見てる?」
「ロウよ、アリシアの事を変な眼で見るななのじゃ」
「あの。どっちも水着着てますよね。それに何かあればクローディアさんだっけ、飛んできそうですし。他にも……」
メルナはこぼれそうなビキニ。
アリシアやサクラ、ナイはひらひらのついたワンピース型。
ミーティアはなぜか紺のスク水。
俺もトランクス型の奴をはいている。
ぐるっと見回すとお湯の中で泳ぐミーティアに、それを怒るナイ。
お湯が熱いのか足だけいれてるサクラなどが見える。
「クロウ君また考え込んでる、あと妙に敬語にならなくてもいいよ」
「ああ、いや失礼。ってのも変な言い方か……風呂じゃなくて、ここは健康ランドって考えるよ」
「また良くわからない事言うのじゃ」
「ああ、健康ランドってのは水着着用の温泉もしくはプールの施設っすね。それだけじゃつまらないので、サウナや軽食。凄い所だったらダンサーとか呼んでショーかな。夏はビールとかラムネとかあって……」
あれ。俺の話を聞いているメルナとアリシアが沈黙した。
「ただいま。ミーティアさんはもう放置する事にしたよ。横で聞こえていたけどクー兄さん。それどこの話? 少なくとも王国や帝国にそんな施設はないよ。近いといえばイフぐらいだけど」
「む。昔読んだ本」
苦し紛れの言い訳だ。
俺の正体を知ってるメルナは無言で、なんとなく察してくれてるノラは注意してくれる。
「すごいな、クロウ君はそんな事まで考えているんだね。私はまだまだかな……」
天然だー!
お掛けで俺の変な話が流れた。
「ま、まぁ実際に作るとなると無理なんだけどな」
「そうなの!?」
「そうなの。色々面倒なので省くけど」
まずは人の流れ。
自給自足で働いてる所にそんな施設は要らない。
作ったとしても金持ちしか来ないし。きても冒険者。
あれは日本だから流行ったのであって、南米などに作っても意味が無いのと同じだ。
次に近隣の街から人を呼ぶとしても魔物が居るんだ護衛だっているだろうし。とにかく金がかかる。
さらに小規模な施設なら大きい町に行けばあるし。
庶民的な銭湯や高級宿には個室シャワーなど。
「おーい。クロウくーん」
「ああ、ごめん思考が脱線してた。話戻すけど、アリシアはなんでサクラの事を? 聖女ってだけじゃおかしいだろ。もしかしてアリシアも時間旅行か並行世界に行った?」
「クロウ君じゃないんだし、そんな変な事ないよ」
変な事? 軽く傷つく。
俺だって好きで時間旅行や並行世界に行ってない。
「クロウ君が帰ってからフレンダさんから手紙貰ったの。東方にある大きなサクラの木、その足元にはスミレが咲いていて枯れている。そこに私がそっと足元のスミレに回復魔法をかける夢だって。だからピンと来たの! クロウ君こないだヒノクニに行ったって言ってたし」
ほえぇ。
最近の占い師と聖女は凄いな。
俺が知ってる占い師なんてインチキばっかりだったのに、やっぱり本物は違うって所か。
「ごめんなさい。アリシアさん……私やスミレのために」
やっと肩まで入ったサクラがアリシアに謝りだす。
「ううん。クロウ君と先生の娘だもん安心して」
「…………じゃからワラワの子と確定したわけじゃ」
そんなに俺のとの子が嫌なのか、メルナは毎回否定する。
「先生照れてる」
「そうなの!?」
「そうだよ? え。クロウ君、まさか先生が本気でクロウ君との子を嫌がってるって思ってたの!?」
俺は頷く。
なんだったら、マッサージ後のイチャイチャタイムの回数も減らそうかなって考えていたぐらいだし。
突然背後からカポーンと音とともに頭を叩かれた。
急いで振り向くとミーティアだ。
「だから変態ちゃんなんだよねぇ」
「いっ。お前なぁ、突然俺の頭を──」
っ!? 反対側から頭を叩かれる。
「な、なに!?」
振り向くと今度はノラと眼が合った。
ノラの手にはミーティアから渡された風呂桶を持っている。
「ノラ? え、なんで叩くの?」
「流石に僕も叩いていいと思うんだ。はいサクラ」
「え!? ええ!?」
「クー兄さんらしいと言えばらしいんだけど、結果的にサクラが生まれなくなるからね。叩いておいたほうがいいよ」
サクラと目が合う。
物凄い困っている顔だ。
「うーん。ノラが言うならそうなのか、後ろ向くから叩いていいよ」
サクラに背中を見せる。
後頭部に小さい音だけが響いた。これじゃ叩いたうちにならないだろう。
「あの、ごめんなさい! 叩けません」
「まぁまぁ。もっと強く。それに再生(強)やアリシアもいるし」
「えっあの!? ええ!?」
あれ。そういえば俺の横にいるメルナが見当たらない。ってかアリシアの姿も見えない?
俺は2人を探すのに振り返ると、桶をもってフルスイングするアリシアと、胸の下で腕を組んでは少し顔を赤くし横を向くメルナが視界に入った。
──
────
眠い。
そんな感じから目が覚めた。
ってかなんで俺寝てるんだ?
部屋を見渡すと椅子に座ったノラと眼が合った。
「クー兄さん!!」
「はい。クロウベルです。ってかノラどうしたそんな慌てて……さて風呂行くか」
「え?」
「えって……アリシアが『大浴場作ったし皆が帰って来たら入ろうよ』って言っていただろ。ってか最近寝不足だったからか、ごめんな」
丘の上までいって孤児院を見た所までは覚えているんだけど、そこからの記憶が無い。
「あー……そのクー兄さんが寝ている間に皆で入っちゃった。メル姉さんとか呼んで来るね」
ノラは慌てて部屋から出て行った。
寝てる間に体を拭いてくれたのかすっきりした感じだ。
「クロウ君大丈夫!? ごめんね最後は私かと思って全力で」
何の話だ?
そのアリシアが入って来て俺の後頭部を確認し始めた。
なんでも倒れた時に打ったらしくそのこぶの確認だそうな。
「うん。大丈夫! よかったぁ……」
「まぁロウだしな、大丈夫といったんじゃがのう」
「パパあの、ごめんなさい!」
それぞれ謝罪を貰うが意味が分からん。
「それよりも寝不足気味じゃないと思ったが迷惑をかけたかな、ごめん」
「よし、ロウもそう言っているんじゃこの話は終わりじゃ終わり」
メルナが手を叩くと話が終わった。
なんだろう、皆が優しい気がするのは気のせいか。
「所でクロウ君。私は反対なんだけど」
「何が?」
「何がってスミレ君が来たら怪我をさせてそれを治療するって。私は聖女だよ? 怪我を治すのは当たり前だけど怪我をさせるのは賛成できないよ」
いつの間にスミレの事まで。
まぁそこはメルナが話したのだろう。
「俺も好きで怪我をさせるわけじゃなくて……」
「それは解るよ。でも……」
「お主ら2人で争ってもしょうがないのじゃ、サクラを見ろ。困ってるのじゃ」
俺とアリシアがサクラを見ると、慌てて下を向き始めた。
「ご、ごめんなさい。パパもアリシアさんも私のために」




