第369話 竜の背中で飛んだらそりゃ各国はそうなる
「ゴゥアアアアアアアアア」
俺の耳に大きな叫び声が聞こえる。
獣の声であり何言ってるかさっぱりわからん。
と、いうか飛ばされないように必死につかむ。
「絶対に離すな!! 離したら最後飛ばされるからな!!」
俺は『竜の背中』に乗ってる他の皆に忠告する。
「そう思ってるのはクー兄さんだけだよ。魔力の結界によってナイさんの背中、微風しか来ないから。サクラも無理に付き合って隣で鱗にしがみ付かなくても大丈夫と思うよ、あのナイさんが背中に乗ってるボク達を吹き飛ばすとは思えないから」
「いーや、あのナイだからわからん」
何故俺達が『竜の背中』に乗っているか? と、言うと。
この竜は実はナイである。
まぁ普通に考えてそうなるか。
たっぷりと食事を終えた俺達は、ナイに向かって『じゃぁ見せてもらうか』と言った所、『しぶしぶ』竜に変化した。
俺は前に見た事あるし原作でも知ってる、メルナもそんなに驚かない。
なんやかんやあって特別に背中に乗せてやる。と言う話になった。
ちなみに、ナイが『竜の尻尾亭』近くの広場で『竜』になったので帝都は大混乱になった。
冒険者ギルドや帝国兵士なども色々出動し、これ以上騒ぎが大きくなる前に逃げた。
正直、もう帝都には帰りたくない。
だって、絶対にサンとか怒ってるでしょ……いい加減処刑されそうで怖い。
──
────
昼から夜、夜から朝になっても竜となったナイは飛び続ける。
見慣れた景色に切り替わり、暇だから。と理由で一緒の似って来たミーティアが突然騒ぎ出した。
「変態ちゃん変態ちゃん。あの岬ってファーストの岬だよ! 懐かしいなぁ……あっ孤児院がある……」
流石に早い。
何度も休息を入れているが10日ってっ所か。
ナイは別に何日でも飛べるらしいけど、俺たち人間は1日も背中に乗ってられない。
別に食事はいい。
問題は排泄だ。
俺はナイの背中におしっこしてやろうかと思ったけど、女性は困る。
ファーストの町から少し離れた所で着陸すると、あっという間にナイは竜から人の姿に切り替わる。
「ふう。どうだい? これで僕の事を少しは見直したかな?」
「ミーティアちゃん感激!」
「竜の背中に乗ったとか……ふふ、他の人に行っても信じてもらえないかも」
「ありがとうございます。ナイさん!!」
喜ぶ3人を見て機嫌は良さそうだ。
「ほら、そこの冴えない顔の男。君の意見を聞きたいな」
「え? 俺?」
「君以外いないだろ」
「じゃぁ。《《遅かったな》》」
あれだけ喜んでいたナイの顔が笑顔で固まった。
「クー兄さん!?」
「ロウよ、そういうのは真実としても黙っておいたほうがいいのじゃ」
「メル姉さんも!?」
「いや、でもコメットⅡ改のほうが早かったし……なんだったら別に距離はあるけど『転移の門』で来ても同じぐらいなきも」
「途中で聖王を掴まれればもう少し早かったかもなのじゃ」
あれ、言い過ぎたか。
ナイが固まって動かない。
「2人ともえぐ……」
「ごめんなさい! ナイさんあの! 空の旅凄かったです!」
フォローに必死な2人がいる。
「優しいね。君は本当にこの畜生の娘なのかな? 困った事があったら僕に相談するといい」
「相談した結果で、未来の俺の息子が来たんだけどな」
「それは知らない。未来の僕に言ってくれ」
ナイは文句だけ言うと指をパチっと鳴らした。
辺りが霧に覆われていく。
「帰るのか?」
「当たり前だろ。これでも外で魔力を使うと負担が凄いんだ」
そんな事も言っていたな。
「ナイ」
おれは霧が濃くなる前にナイの事を呼び止める。
「何だい。いい加減文句も聞き飽きたんだけど」
「いや。ありがとうな」
「そうじゃな。ナイよ、ワラワも感謝をのべるのじゃ。思えば背中に乗ったのは初じゃったな感謝するのじゃ」
「…………2人とも……そ、その何か困ったら僕を呼ぶといい! あとそれから──」
ナイが喋っている途中で霧と一緒に消えていった。
ちょろい。
色々移動候補はあったが助かったのは事実なのでまぁいいだろう。
「さて。アレもいなくなったし行こうか。この近くに村があるからそこで馬車でも借りるという事で」
「それがいいじゃろな」
「まぁ変態ちゃんがそういうなら」
「さて、サクラ。ボク達もいくよ」
「え。は、はい!」
近くの村では上空にドラゴンを見た。と言うので大騒ぎになっていて馬車を借りるのに凄い時間がかかった。
村長クラスが集まって祭りにするのか、世界の破滅だ。と言う人が出たりとどさくさに紛れて勝手に借りてファーストの町まで進む。
ファーストの町前ではなぜか聖騎士団部隊長のフォック君が俺を待ち構えていた。
「せんせ……ごほん。スタンさん!! やっぱりそうだ」
「な、なにが」
走って来ては小声になる。
「例のドラゴンですよ。スタンさんがかかわっているんですよね?」
「ち、違うよ」
「またまたー。過去にナイ様にあった事のあるアンジェリカ様に確認の連絡をいれたりと、万が一この付近に降りたら民を守るために戦わないといけないですからね」
あ、うん。
凄い大ごとだ。
今後もナイを煽てて、あっちこっち飛んでもらおうと思ったけどそうもいかないかも知れない。
「それより、アリシアは?」
「アリシア様でしたら孤児院に、もしかして浮気ですか? 安心してください。このフォック絶対に彼女さんには秘密にしますので」
「その彼女さんはお前の後ろにいるんだけどな、ついでにノラやミーティアとサクラも連れてるっていうの」
フォック君が振り向くとメルナと目があった。
フォック君は突然敬礼して「メルギナス様ごきげんようです」とよくわからない挨拶をしている。
「なっつかしいー! ミーティアちゃん村長ちゃんの所いってくるね! ノラちゃんこっちこっち」
「なっボクはいかっ……クー兄さんまた後で!」
ミーティアが走って行ってノラが引っ張られて消えた。
「じゃぁ案内頼むわ」
「それはいいんですけど、この女性は?」
「俺の娘」
「隠し子!? え、年齢が……」
フォック君は大混乱してるので、そのまま放置して丘を登る。
数ヶ月ぶりだ。
俺が出る前は基礎しかなかった孤児院も立派に立っていて先ほど上空から見た時よりも大きく感じる。
庭に当たる部分でシーツを干し終えたアリシアが俺達に大きく手を振った。
すぐに走ってきそうな雰囲気で、あっ走って来た。
アリシアの姿が大きくなるとやっと声が届く。
「クロウ君! 先生!! それに……可愛い! 先生とクロウ君の子かな? アリシアっていうのよろしくね」
「さ、サクラって言います!」
「いやちょっと待て。アリシアがなんでサクラの事知ってるんだ?」
「知らないほうがおかしいと思うよ? 私聖女だよクロウ君?」
うん。答えになってない。
何、聖女って世界のすべての事知ってるわけ?
「ええっと……ついさっき空を飛んでいたのがナイ君として……ちらっと見えた人影から考えてミーティアちゃんとナイさんも一緒なのかな? クロウ君合ってる?」
「合ってる……当てすぎて怖い。ちなみにナイは帰った」
「あっそうなんだ。大したもてなしは出来ないけど、完成した孤児院にようこそ。そこで説明するね」
アリシアがパタパタと走って丘の上へと戻っていく。
サクラが小さい声で「アリシアおばさんも変わらない」と小さく言ったのは俺だけが聞こえた。




