第360話 え、俺じゃないの!?
問題の迷宮へと足を踏み入れる。
ここに来るのはすでに数回目、俺の半身が吹き飛んで再生(強)を確認した場所でもある。
迷宮ボスは、大蛇の親子。
ビルよりも高く何十メートルも太い胴に滑っとした皮膚。
うん。俺じゃ倒すのは無理。
倒すとなると攻撃系の魔法を滅多打ちにした後細かく切っては下がるなどだろうな。
それぐらいしないと倒せないはずの迷宮ボスは俺の目の前で崩れて消える所だ。
その中央に『当然のように』いるキツネ面の人影。
俺を見ては無言で黒い水槍を飛ばして来た。
「冗談は面だけにしてくれ!」
とっさに同じ水槍で相殺する。
あっ出来ない……続けて水盾まで発動してやっと回避した。
目の前にはすでに狐面がいる、水槍と一緒に間合いを詰めて来ていたのだ。
「ちっ!」
アンジュの剣を振ると、狐面もアンジュの剣を振ってくる。
力の差は3:7で俺のほうが弱い。
「だから嫌なんだよ! この世界ってちょっとでも強いかなって自覚したら、週刊漫画のようにインフレする敵が出てさ!! 助けて水竜たーん!!」
ネッシー型の水竜が出ると、狐面も同じ型の水竜を出してくる。
違いと言えば相手は黒い水。
当然のように俺の水竜たんが力負けする。
ってかだ。
前回俺1人で負けそうになってるのに、たった2ヶ月未満、しかも訓練してない俺がパワーアップなんてしてるわけがない。
ゲームイベントで言えば負けイベント。
相手の水竜に俺は吹き飛ばさ壁まで吹き飛ぶ。
足元には六角形の魔石が投げられる、再生(強)すら間に合わないほどの魔力をぶつけるらしい。
普通に強い。
これが魔物が化けた俺ってわけ?
足元の魔法陣から何とか逃げだす。
狐面は俺と一定の距離を保って手を前に出し、次の魔法の準備だろう。
「待て!」
狐面の手から黒い水槍が出てくる。
まぁ『待て』と言って待つ奴もいないか。
敵の理由は謎だ。
俺と同じ技を使って仮面をかぶる俺よりも強い奴。
魔力の残滓の進化系で、思考までコピーしたのか?
「本物を倒してメルナの所に居たいってか……?」
狐面の動きが一瞬止まった。
耳は聞こえてるようだな……って事は俺の問いかけは全部無視していたって所か。
「メルナ! 今だ!! 背後からフルバーストを」
俺は大声を上げた。
一瞬であるが狐面が背後を気にして首を曲げる、その瞬間に間合いを詰めた。
右手にはアンジュの剣。
狐面は水盾を出して対抗してきた。
俺が逆だったらそうする。
ポケットから狐面が出した魔石を放り投げた。
普通の魔石ならともかく、これはコイツが使って来た魔力ブーストの魔石。その魔石をアンジュの剣で貫くと目の前で魔力の爆発が起こる。
俺も狐面も吹っ飛ぶとお互いに壁までぶつかる。
ざまぁ。
狐面が砕け落ち手で顔を隠し始める、さぁご対面といこうじゃないか。
当然というか俺と同じ顔がそこに無い。
「誰?」
「っ!?」
顔を見られた男は男というよりも美少年に近い。
その美少年は地面に魔石を投げる。
すぐに魔法陣が現れると光の柱ともに姿が消えていった。
静けさが辺りを包む。
ってか全身が痛い。
足音とともに大きな声が聞こえた。
「ロウ!」
あれメルナの声がする。
そんなはずはない。メルナが俺を心配してこんな場所に来るはずがない。
俺の姿が見えたのか走ってくる。
座り込んでいる俺の顔を手でつかむと酷く心配した顔が見えた。
「偽物か?」
「良いからこれを飲むのじゃ」
口に小瓶を突っ込まされる。
甘いエナジードリング風の味でエリクサーなのを感じた。
生命力があふれるというか、傷が治り魔力も戻ってくる。
「ふう……何とか間に合ったようじゃな」
「…………」
「どうしたのじゃ?」
「いえ、本物かなって」
俺はメルナを押し倒して首筋にキスをしながら足と足を絡ませる。
「のわ、馬鹿辞めるのじゃ!」
「いやぁラストエリクサーのせいで元気で」
「おっさんみたいな事言うてる場合なのじゃ!? こらやめ……」
「メル姉さん。ま、まって! 本当にクー兄さんが…………」
俺とメルナは走って来たノラを見た。
ノラは俺を見た後にため息をだして後ろを振り返る。
「後続の人達を足止めしてくるね」
短剣をもって戦闘準備満タンのノラ。
俺は急いでメルナから離れると大声で止める。
「まったまった。後続って。え、ノラも何でここに!?」
「クー兄さん気にしなくていいよ、メル姉さんとその契っていても、ボクは2人の事が終わるまで誰もここを越させないから」
「そういう意味じゃなくて」
背後でメルナも立ち上がった。
めくれたワンピースを直すと、少し咳払いをする。
「発情したゴブリン以下じゃな……ノラ本当に大丈夫じゃ。帰りながら説明する」
「メル姉さんがそれでいいなら……」
3人で出口まで歩くと他の人間と出会う。
メルナやノラに挨拶をしてすれ違った。
「あの人たちは、ギルドの人達だね。クー兄さんが入ってから安全確保のために」
「それはいいだけど……疑問が。あーそれとあの狐面。俺じゃなかったですね」
「顔を見たのじゃ!?」
「ええ、美少年……いや女? ちょっと性別が不明でスラっとしてました」
俺の正直な答えに2人の雰囲気が変わった。
「クー兄さんって胸でしか性別判断してないよね」
「そうじゃな……以前も違う人間を男と思っていた時もあるのじゃ」
「い、いや俺だってわかるからね!? 別に胸でしか判断してるわけじゃなくて、胸が一番わかりやすいのよ!?」
「今度あの小僧にパット入れて会ってみろ、ロウは絶対に女って言うはずじゃ」
あの小僧と言うのはクウガの事。
「だから、俺だって女装した男はわかりますって」
たぶん。
「じゃぁ会った奴はどっちなのじゃ?」
「…………さぁ」
メルナが杖を出して来たので攻撃されるかと思って身構える。
ノラが直ぐに「出口が見えたよ」と言うので外にでた。
外には『コメットⅡ改』が停まっていて、サンが周りの兵士に命令を出している所だ。
「あれ。サン?」
「やっと出てきましたわね……では。魔女メルギナス様、これで帝国との貸しは終わりですわ」
「そうじゃな」
「帰りはどうします? 帝国に送りますけど」
「いや、この馬鹿とノラを連れてゆっくり帰るのじゃ」
「わかりましたわ。ではノラさん、メルギナス様、それとそこのお馬鹿さんご機嫌よう」




