第357話 帝都のおける古書店の利用法
追い出された俺は特に行く場所もなく街の中を歩く。
通り過ぎる人達が忙しそうにしてる中、少しだけ申し訳ないという気持ち。
俺も2年ぐらい前は貧乏だったんだけど。
懐にはお金がいっぱい。
もうそろそろ何か投資したほうがいいかもしれない。
男の夢は喫茶店。
でも喫茶店って回転率悪くてすぐに潰れる……まぁ俺みたいに金持っていれば平気なんだけど、投資としては大失敗だ。
にしてもノラとメルナは女性だし、男に言えない相談もあるんだろう。
例えば恋バナとか?
ノラが好きな人って聞いた事ないもんな。
素直にクウガの事が好きになるかと思ったら全然だったし、むしろ嫌ってる?
じゃぁ無いか?
もう一つの話は寝ぼけていたのだろう。
俺がいつの間にか『ヒーローズの近くの迷宮に行く』そんな事をノラに言ったとか言わないとか。
でも、まったく用事ないからな。俺が寝ぼけていたかノラが寝ぼけていただけか。
「っと、ついたか」
俺が足を止めると本屋が出て来た。
ゲーム中でもあるこの本屋。
魔導書から、物語、絵本、なんとエッチな本まである。
田舎には到底ない。
この辺はさすが帝都ってだけある。
この古書店は貸本もしており保証金さえ払えば貸し出しもしてる。
例えば銀貨10枚払って期日までに返却すると銀貨9枚の返却みたいな。
メルナの読んでる本もここから買っているのもある。
俺が店の中に入ると本の香りがしてきた。
今日の店主は若い10代の後半の少女だ……名前はソフィーと言って冒険者ランクD。この子は爺さんの孫でゆくゆくは古書店を継ぐとかなんとか……一応世間話するぐらいの仲ではある。
なんでそんな事まで知ってるのか? というと。
若い女性が受付の場合、エッチな本が買えないから。
いや、別に禁止されてないよ!? でもさぁ……そのセクハラじゃん。
あと『クロウベルさんってこんなのが趣味なんですね』って思われたくもない。
俺は別にエッチな本を使うために買うわけじゃなくて、この世界のエッチな本の制度を確認したいだけなの。
俺の記憶の中の日本では、それはもう色んなジャンルがあった。
純愛、催眠、NTR……数えきれないほど。
でもまだこの世界はそこまでエッチな本のジャンルが無いらしく基本ヌード絵だ。一度ここの店主である爺さんと語り合い、その手の禁書が出たら取っといてもらえる事までなっている。
それがどこまで進化するのか俺は見てみたいだけ。
全然やましい事なんてないんだけど。
『うわぁ大丈夫ですよ。メルさんには内緒にしておきます』とか言われたらもう恥ずかしい。
と、言うわけで別に興味もない『魔導書コーナー』に行く。
ってか整頓されてるようでされてないのでたまに魔導書コーナーで水系の魔法書が無いか探してみる。
この辺は宝さがし感覚だ。
宝さがし感覚と言えば、古い本には個人の手紙やヘソクリが挟まってる時も、そういうのも割とお宝でメルナが喜ぶ。
特に魔導書に挟まっているのは良い研究の材料になるとかなんとか。
「あれ。女帝さん所のクロウベルさんですよね」
本の修復をしていたソフィーが俺のほうに振り向いた。
「女帝って?」
「ああ、ごめんなさい……私がお爺ちゃんがそう言うから。ほらメルさんって呼ばれてる女性です」
確かに女帝だ。
普段ロープで姿隠しても目立つからなぁ。
隠す気あるの? ってぐらいに胸もあるし男ならみちゃうよね。
本人は気配を消す薬を使ってる。って言うけどそれでも気品あるようなオーラは目立つ。
「その通りだからいいんだけど、俺に何か用?」
「用って、先ほど買った本の返却かなって思いまして」
「買った? ソフィーさんから?」
「ええ。古い本で処分するやつだったんですけど、お金出すから売ってくれって……代金はお断りしましたんですけど置いて行ったので」
ふむ。
「とりあえず俺じゃないし返却もいらない。それよりもおすすめの恋愛小説ある? 女帝が好みそうな」
「あっはい! でしたらこちらに。以前探されていたクリスティーナ作の『悪役皇帝に求愛された聖女』『うっかり転生したら悪女でした』の初版本がここに!」
ちょっとだけ笑えないタイトルで引く。
1冊目はまだいいよ、政略結婚もあるし。
2冊目はなんていうか、うっかり転生ってどんな状況だ。うっかり転生するなよ。と言いたい。
俺が言えた義理じゃないけどさ。
顔には出さないように2冊を買う。
なんと金貨4枚もした。
「所で……俺と思った人はどんな古書を」
「あっ守秘義務です」
「………………そ、そうだよね」
ちょっとだけ殴りたいこの笑顔。
でも、殴るわけにはいかないのでソフィーに礼を言って古書店を出る。
マジックボックスにお土産の本をしまい込んで立ち止った。
「俺と似てる人……か」
最近は変な上位マネマネマンも出たし、その可能性も高い。
迷宮の敵は迷宮でしか出ない。
そう思っていたんだけど……あのヴァンパイアの自称王……。
「名前なんだっけかな」
それが迷宮から出たって例もある。
ある程度力があれば迷宮から出れる、じゃぁもし俺の偽物が迷宮から出た場合も考えないといけないのか。
一番考えられるのは本物とすり替わり。
これはよくあるパターンで本体を倒して魔物である偽物が幸せに暮らす。
「いや、メルナは渡したくないし……」
うん。
「言って置いて何だけど別にメルナが幸せなら俺じゃなくてもいいって事もあるからなぁ。でもまぁ、やっと攻略したんだし渡したくはない」
「クロウベルさん!!」
んにゃ?
俺の名前を呼ぶ声がするので振り返ると女の子を横に連れたクウガ君ではないですか。
「……また新しい子だ」
俺がぽつりというとクウガがどんどん近寄ってくる。
事実を言っただけなんだけど。
「クロウベルさん。聞こえましたし変な事言わないでください。これは俺の仕事なんです」
「仕事?」
ちらっと見ると可愛い女の子は俺に頭を下げてくるので俺も自然に下げる。
「希望された女性と買い物をして街を回る。これでお城での女性同時のいざこざが減るんです。彼女は今日の僕のパートナーでアンって子で」
「そこまでの情報いらないからね」
「いいですね。クロウベルさんはメルさんが居るんですもん、僕なんて僕なんて」
ちょっとヤンデレしてきたな。
ここで、俺がアリシアと会って来たって言ったらもっと大変な事になりそうだ。
もっと面倒になりたくないので適当に会話を打ち切るか。
「ほら可愛いアンって子が待ってるだろ、仕事なら急がないと」
「…………そうですね。僕は僕で仕事をしないと。所でクィルに会うなら今度美味しいお店にいこうって伝えてください」
「は?」
俺が返事をする暇なくクウガはアンって女の子と手をつないで歩いて行った。
色々とツッコミたい。
まず仕事でなんでホテルあるほうにいくのかなぁ……まぁクウガにしか出来ない仕事ではある。
「ほんっと、卑怯だなよなぁ……あれだけ遊んでいて絶対に女性から嫌われない……むしろ遊ぶ事が仕事みたいな。それとクィルは人妻だからな……後はツッコミたいのはなんで俺がクィルと会わないといけないって話なんだけど」
当然クウガの姿はもう見えない。
居場所が変わってなければクィルはヒーローズの町にいるはずだ。
ヒーローズ……ノラも同じ名前を言っていた。




