第36話 ザ! 温泉! 東南の楽園
「本当にありがとうございました」
「ふん、マリンダの知り合いでしたらフレンダを助ける事は当たり前ですわ。なんだったら助けるのが遅いのじゃありません?」
「フランさん、めっです」
「フレンダ、わたくしはそんなに怒ってはっ」
スータンの待合馬車前で俺は2人の漫才を眺める。
どこに向かうのと思ってもまずはイフに行ってから決めようと言う事で、こうして馬車屋前にいるのだ。
因みにフレンダとフランシーヌは俺達の見送り。
ゲームではフレンダを連れてあるけるが、本人も着いてくる気はなさそうだし、無理に来ても困る。
じゃなくても俺の横にはノラがいて……いや、別にノラは面倒って事もない。
なんだかんだでノラと旅して1ヶ月近くにはなる。最初はおどおどだったノラも俺達と仲良くしようと努力するし、闇カジノでは本当に助かった。
良く出来た妹みたいな感じだ。
まぁ妹なんて現実でもいなかったので感想と言う事になるけど。
「クロー兄さん、変な事考えてますか?」
「全然」
「気にするなのじゃノラ」
「でも、クロー兄さんいつも考え事を口に出さないと言うか」
「いや、出してるよ? 師匠とのイベントをどう起こそうかとか、尻なら何秒触れるかな。とか今なら揉んでも大丈夫かなとか」
俺がノラに答えると俺の周りにいた皆が一歩後ろに下がる。
「貴方……」
「あの、やめた方がいいと思いますよ」
「おぞましいのじゃ……」
「クロー兄さん……」
いや待ってくれ。
「いや待ってくれ。っと声にでてしまった……俺は何年も前から言ってますけど師匠を攻略するために訓練してるわけで」
「ワラワはお断りなんじゃがな……ドアホウは絶対について来そうで逆に怖いのじゃ」
「確かにクロー兄さんなら……」
「ストーカーですの? メルさんいよいよ困ったら王国の憲兵に突き出すといいですわよ、庶民の事など気にしませんが、女の敵とあればこのフランシーヌ協力しますわ」
俺の評判は下がりっぱなしだ。
「まっ気長にいきますよ。ついて行っていいって許可得てますし」
「今はじゃな……どうしたのじゃノラ」
「何でもないよメル姉さん。それよりもクロー兄さん、ボクを早く一人前の強さにしてね」
「いやまぁするけどさ」
「それよりも馬車屋が来ましたわよ」
フランシーヌがそういうと準備の出来た御者が馬車に乗って近くによってきた。
俺たちは2人に握手で別れを告げかっぽかっぽと砂漠の街スータンを後にする。
――
――――
スータンの街から数日後、何事もなく温泉街イフについた。
「いやぁ安全だったな」
「そうじゃな」
俺が馬車から降りて師匠も後から降りてくる。
最後にノラが慌てて降りてきた。
「メル姉さん。クロー兄さん。全然安全じゃなかったからね!? 季節外れ砂嵐で2日、サンドスコーピオン、はぐれ砂狼。あとあのミイラみたいのなんだったの!? 御者のおじさんだって『こんな事は初めてだ』って途中で熱だして宿場で交代したからね!?」
ノラはここまで来るのにあった出来事を並べていく。
「いや、全部まとめて普通だったかなって」
「そうじゃのう。ノラよ考えすぎじゃよ?」
「二人とも絶対におかしいよ……」
ちなみに砂嵐は馬車を簡易テントにしてやり凄し。
魔物は俺と師匠で倒した、夜中に現れたミイラ男の群れは流石に驚いたが眠かったのか師匠がフルバーストで強引に散らした。
残った魔物から取れた素材を集め宿場で投げ売り、おかけで結構なお金になり、俺も師匠もご満悦である。
「それをいうなら、フユーンの街付近で盗賊に襲われ、捕まっていた女の子と旅をするのもおかしいんだけど」
「そ、それはそれだよ!」
そうなのかなぁ。
「さて、どうせここにもアリシアはいないんじゃろ? 直ぐに出発じゃ! と行きたい所じゃが」
「温泉ですね」
「温泉じゃ」
俺も師匠も温泉に入る気満々だ。
だって温泉だよ? 温泉なんだから。
「いいのかなぁ」
「ノラだってスータンの街でピラミット探索や湖で泳ぐとか楽しめなかっただろ、入ってみたいっていってたじゃないか」
「そうだけど。時間があればって言ったよね」
「だったら温泉の1回や2回、ねぇ師匠」
「そうじゃの。ノラよお主がワラワの旅の目的、アリシアに会うと言う事を気にかけてくれているのは十分わかるのじゃ。しかし、何事も焦ってはだめなのじゃ」
ノラを丸め込んで俺達は宿屋へいく。この街では旅館といってますます日本の温泉街を思い出す。
「うわぁ……」
「どうしたノラ」
「いやだって……あの服着てる人多いけど、あんなに薄いの? 足とかいろいろ見えてるよ。見た感じ布1枚とベルトだけだよね」
「ああ、浴衣か、あんなものだよ。ノラだってスータンで水着来てただろ、水着と同じ同じ」
建物も全体的に東洋風が多い。
しかし歩いている人はこっちの人、外国人が多い温泉街に来たような感覚だ。
「と、言う事で今日の宿はここに!」
昔ながらの旅館というか中庭付きの3階建ての建物。
値段は高いが御者おすすめの宿であり、館内には露天風呂もあるらしい。
「高そうだね……あのボク。小屋でも全然いいよ」
「まだ言っているのかノラ。ノラはもう俺たちの仲間……? いや仲間なのかな。強くなったら別れるしクウガに会ったらクウガにまかっいっ!?」
師匠が俺の頭を狙って杖を振っていた。
何とか右手手止めると、その痛みをこらえる。
「ドアホウ本当にお主は……ほらみろノラだって泣いてるじゃろ!」
ノラを見ると別に泣いていない。
ちょっと笑っている所もある。
「笑ってますけど」
「いや、クロー兄さんは本当にメル姉さんしか見てないなって思って。別に悲しくないと言えばウソだけど、うん大丈夫メル姉さん」
「ふむう、まぁノラよ。素材も沢山うれたのは知ってるのじゃ、少しは使っても問題はあるまいなのじゃ。ノラだって活躍したからのう」
「その代わり部屋は3人で1部屋。それだったらノラも許してくれるだろ?」
ノラは「別にボクが許す許さないとかじゃなくて……」と、言っているが。本当に旅の資金はまだまだある。
この辺は金策クエストもあるし問題ないはずだ。
旅館の店員に案内されて部屋に通される。
中庭の池が見える2階の部屋、畳の部屋がふたつあり手前の座布団に俺は座った。
「クロー兄さん椅子がないけど」
「ああ、これは座布団といって――」
座布団。テーブル。床の間。などを説明していく。
「クロー兄さん、物知り……」
「よくもまぁ、そこまで喋るのじゃ……」
俺としても少しテンションが上がったのだろう、だってずーっと西洋ベースの世界だよ。日本ってか東南アジア系の場所にくると興奮しない方がおかしい。
「いやー師匠と混浴に入れるとおもって興奮して」
「入るかドアホウ! 別に風呂もあるのじゃ」
「冗談ですよ師匠。何怒っているんですか」
師匠が無言で詠唱を始めた。
だって両手がバチバチいってるから。
「まぁ!まずは浴衣。浴衣に着替えましょう」
「のじゃ」
テーブルに置いてある浴衣を1枚とる。
泊まる前に申請したので大きさも大丈夫だろう。
俺は着ている物を脱いでパンツ1枚になる。
さっと浴衣を着ていると師匠と目があった。
「あれ。着替えないですか?」
「こいつは……なぜドアホウと一緒の部屋で着替えないといけないんじゃ!」
「あっごめんなさい」
「め、珍しいのうドアホウが謝るとは」
「俺だって悪い事したと思ったら謝りますよ、アンジュの教えですし」
日本風の建物、温泉、浴衣。ときて興奮してしまった。
「あのメイドか……まさに狂犬のようなメイドじゃったな」
「え?」
「なんでもないのじゃ」
狂犬、犬……まぁアンジュは狂犬というか、父の前ではある意味犬だった。もうなんていうかね……あまり思い出したくもない。
「クロー兄さん、すごいしまった体だった……」
「ノラも鍛えればすぐすぐ。じゃぁとりあえず先に入ってきます」
「ワラワ達も着替えたら入るのじゃ」
師匠の言葉を聞いて廊下を歩く。
なんと館内を歩くようにスリッパまで貸し出しなのだ。
ペッタンペッタンと露天風呂入口につくと看板が見える。
左が男湯。
右が女湯。
…………午前中と午後で切り替わるタイプだ……………………だめだぞクロウベル。
もう一度看板を見る。
周りには人はいない、師匠達は直ぐに来る。
「いや、本当にダメだからね」
俺の手が《《勝手に看板》》を逆にした。




