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負け悪役貴族に転生した俺は推しキャラである師匠を攻略したい  作者: えん@雑記


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第354話 メルナ。わがままを言うも回り込まれる

「やっぱワラワはいかんのじゃ」



 ファーストの町。

 そこにあるヒナタさんの酒場でメルナは突然にわがままな事を言って来る。



「ここまで来て!?」



 俺がマネマネマン……もとい強化された魔力の残滓の話をして気になったメルナは様子を見に行く! と宣言しての今である。


 でもアリシアに会いたくないのか、来るまでも色々理由つけては時間もたってすでに半月。


 これには理由があって『転移の門』を使ってもファーストの町に来るのは結構大変で……帰る時に使った転移の門は聖王の魔法であって設置型じゃないらしく使えない。

 一番近かった『転移の門』はアリシアが壊した。


 となるとだ、近くに転移してから、徒歩の旅って事で10日ほどたってる。


 ついたはいいけど、まずは休憩って事になり、こうしてヒナタさんの店で食事をし終わった所。

 



「迷宮を管理してるフォック君もアリシアの家に居るっていうし許可ないと入れないですし」

「人間の作った許可なんて壊せばいいのじゃ。簡単な結界ぐらいワラワだって壊せる」

「そうもいかないでしょ……結界張ったのはアリシアなんだし……まぁメルナがいいならいいんですけど」

「むぅ」



 ヒナタさんが俺とメルナの前に食後の飲み物を置いてくれた。

 その瞬間後ろの扉が大きく開く。



「先生!」



 アリシアの声が背後で響く。

 メルナを呼ぶと俺も振り返った。

 アリシアは駆け足で狭い酒場を走ると、そのままメルナに抱き着く。



「のじゃっ!」

「会いたかった……です」



 少し半泣きのアリシアと困惑してるメルナを見て俺はそっと酒場を出た。

 いやだってねぇ……俺の事いなかったように眼中にないし、絵的にもいないほうがいいでしょ。


 酒場を出た先にフォック君が息を切らして馬をなだめていた。



「先生!」

「………………あの、フォック君」

「なんでしょうか?」

「アリシアの感動的なシーンが被るから俺の事は先生って呼ぶの辞めて。そもそも先生じゃないし」

「ひどくないですか……」



 それはそう。

 一度は許したのに俺の勝手で呼ぶのを辞めてもらうのだ。

 だってどうしても、今のシーンと比較して自分が惨めになるというか、本当にそもそも先生らしい事してないしな。



「特に部隊長に昇進したんだろ? 俺の事を本当に思っているなら……クロウベルでいいよ」

「そんな恐れ多い、では……ロウ……とお呼びしても……」

「殺すぞ?」



 どこの世界にメルナと同じ呼び方をしてくる馬鹿がいるんだ。

 突然呼ばれたり、女性に呼ばれるならまだしも。



「す、すみませんでした!! ええっとで、ではスタンさんで、ではどうでしょうか!?」



 苗字のほうか。

 スタンっていうと他のスタン家の人もそうなるけど……まぁいいか、かぶったらまた変えさせよう。



「それでいいよ」

「ありがとうございます! スタンさん」

「いや、こっちこそ……俺の事を聞いてアリシアを迎えに行ったんだろ? 馬もフォック君も息荒くして」

「ええ、まぁ」



 こういう所が隊長になれる気づかいだろう。

 ってか16歳ぐらいだろ? それで部隊長ってすごくない?



「あの僕の顔に何か?」

「いや、天才っているんだなぁって……とりあえず今日泊る所ない? メルナはアリシアの所で泊まるとして、今出て来たのにヒナタさんに頼みに行くのもかっこわるいし」

「では臨時兵舎であれば、あ。あと! 訓練してください」



 うーん……訓練か。

 この世界の人ってすぐに戦いたがる。

 魔物が居る世界だからしょうがないんだけど……負けたら死ぬし、守って来た人も死ぬからね。



「俺の戦い方って聖騎士向きじゃないよ?」

「知ってます! どんな卑怯な事をしても生き残る。素晴らしい考えと思います。アンジェリカ副隊長も褒めてます」



 現役の聖騎士部隊長がいうのはどうなんだ。



「アンジェリカが言うのは多分別の意味だぞ」

「そうなんでしょうか?」



 この辺は子供か。

 アンジェリカの嫌味が通じてないよ。



「じゃっ案内して」

「はい!」



 メルナとアリシアはあのままでいいだろう。

 フォック君に連れられて仮兵舎に向かう。


 1日目。フォック君にせがまれて訓練を行う。

 非番の兵士数名がフォック君が負けるのを見る。思ったよりも強くなっていてびっくりだ。



 2日目。メルナはまだ来ない。

 アリシアと遅くまで語り合っていたのだろう、多少の寝坊は仕方がない。フォック君達とカレーを食べる。聖騎士隊が作るカレーは美味かった。



 3日目。メルナはまだ来ない。

 代わりに聖都から交代の聖騎士が来る。

 俺と練習試合をした兵士数名が帰り、俺の事を知ってる聖騎士数名と握手を交わす。



 4日目。メルナは当然のように来ない。

 アリシアと話が盛り上がっているのだろう……盛り上がりすぎじゃない? 4日ももつ? フォック君が言うのは今日の夕食はカレーらしい……あのさすがの俺でも4日連続はつらい。



 5日目…………やっとメルナが来た。


 仮宿舎の玄関先に普段の黒をベースにしたロングワンピース姿で現れた。

 体のラインが出る服で毎回思うけど、これが普段着って割と露出狂の癖があるのかもしれない。

 今度は外でマッサージしてもいいかも。



「変な顔をしてるのじゃがロウよ。どこ行っていたんじゃ……」

「はい?」



 え、俺?



「まぁロウのトラブル癖はいつもじゃ。いまさらグチグチ言いたくないのじゃが。調査は終わったのじゃ帰るなのじゃ」

「は?」



 もう一度俺はメルナに聞き返す。



「だから調査は終わったのじゃ」

「終わったって……俺はメルナがアリシアと和解するのを見て兵舎にいるからって伝言まで頼んで、ここで待っていたんですけど!? もしかしてもう迷宮にいって1人調査して納得したから、どこかに行った俺を聞き込みで探して迎えに来たとか?」

「あっ」



 メルナが何か思い出したように口を開く。



「今『あっ!』っていったよね!? 忘れてた? 俺の事を? 伝言聞いてますよね!?」

「忘れていたわけじゃないぞ!? あ、あれじゃ! ロウを呼ぼうとたんじゃがの……仮にロウより強い魔力の残滓が出たら面倒なのじゃ。どうじゃ?」



 どうじゃ。って言ってる時点で白状してるもんだ。



「仕方がないのじゃ……ほれ」



 メルナに腕を掴まれて抱きつかれた。

 大きな胸の感触や甘い匂い、うっすらと日に焼けた白い肌などが目に入る。



「ほれほれ、ロウよ。怒りはおさまったかの?」

「あのですね、子供じゃないんですし抱きつかれたからって許しは、それに見られて恥ずかしいんですけど」

「誰も見てないのじゃ」



 俺は首の動く限り周りを見ると、玄関先に居た兵士は全員が背中を見せている。

 わぁ聖騎士の奴が空気を読んだ。



「じゃぁもう少し…………あの」

「なんじゃ?」

「アリシアがすごい、にまにました顔で俺を見てるんですけど」



 メルナは俺を突き飛ばし、俺は地面に1回転しながら受け身を取る。



「アリシア」

「アリシア」



 俺とメルナが同時にアリシアを呼ぶ。

 手にはバスケットを持っていて起き上がる俺に手を貸してくれる。



「近くに居るのにもう帰るって言うからお土産だったんだけど、邪魔しちゃったかな?」

「それはもう」

「ふふ、ごめんね。先生も拗ねちゃった」

「あれは何時もだから」

「何時もと違うのじゃ! それはそうと……みっともない所を見せたのじゃ……立ち話もなんじゃな。そこの人間よ茶はでるんじゃろうな」



 顔見知りの聖騎士は慌てて道を開けてくれた。

 あの、ここは家じゃないだし……俺も黙って後について行くけどさ。


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