第353話 必殺技が欲しいです
ミーティアが帰って数日。
メルナの機嫌も良くなって来た所で、俺は読んでいた本を閉じた。
メルナのほうはまだソファーで本を読んでおり、見せつけるように足を組み直してる。
上下がつながったロングワンピースなので体のラインが出て……うん。控えめに言って素晴らしい。
メルナはしおりを挟み本を閉じると俺を見て来た。
「もしかして、俺のチラリズムを見たいんですか? 待ってくださいねぇ、いぱパンツずらすんで」
ズボンとパンツをぎりぎりまで下げる。
もう少ししたら俺のなんちゃらが『こんにちわ』するぐら──ぐっ!?
「いっ……そ、それは駄目」
股間を蹴られて俺は痛みを我慢する。
脂汗が出て来て、2分ぐらいその場に固まった。
痛みが治まった後、メルナを見るとメルナはいつの間にか本を読んでいる。
「いきなり蹴らないでくれます?」
「チラチラ見てくるのはロウのほうじゃろがい!! 余りにも変な事いうのでなのじゃ。で? 何の様じゃ?」
「簡単に言うと必殺技が欲しいです」
「ふーん」
メルナは本を読み続けて俺はメルナを見たままだ。
会話が終わってしまった。
「終わらないで!」
「はぁ……まったく……」
面倒そうに本を閉じるとやっと俺を見てくれた。
「ロウは十分強いし今さらいらんじゃろ……居合抜きも十分な必殺技と思うのじゃがな……」
「そこまで俺の事を」
ちょっと感動する。
なんだかんだで見てくれてるのだ。
「話は終わりじゃ」
メルナは本を読むのを再開しだす。
いやこれ、俺を褒めたわけじゃなくて面倒で切り上げた奴だな。
「メルナさぁ。少しは先生と呼ばれるんだし師匠らしくしたらどうですかね!?」
「はぁ!? 嫌味かロウ。そもそも何も教えなくても勝手に覚えていたじゃろがい!」
「俺だって必死。もうメルナの横に立てるように独学で……あっ1つだけメルナから教えてもらった事を」
「そうじゃろ。そうじゃろ。ワラワとて魔女と呼ばれているのじゃが昔は違う名で人々に教えたもんじゃ。で?」
で? って言うのは何を教えたか知りたいのだ。
何百年も生きてるくせにこういう所は成長しない。そこがまた良いんだけど。
「夜のメルナの喜ばせ方を──うお!!!?」
最後まで言い切る前に吹っ飛んだ。
背中から落ち、《《昨日修理》》したばっかりの窓ガラスを破り地上へと落下する。
通行人も近くにある看板を見ては、今では驚きもしない。
看板には『人とガラスが落ちるのでこの中に入らないでください』と書かれてるからだ。
そんな事ある!?
そりゃ毎日1回以上落とされてるからあるんだろうけど……。
そんな事思っていると、直ぐにホテルからメイド達が散らばったガラスや木片を回収しに来る。
掃除が終わると、仰向けに倒れている俺には一言も言わず帰っていく。
体の打撲もやっと治って来た所で仰向けから起き上がる。
宿に戻りカウンターで何か言いたそうなマスターに金貨数枚を差し出すと、ほどほどにお願いしますね。と釘を刺された俺は最上階へと戻って扉を開けた。
メルナは先ほどと同じように本を読んでいて、これまたメイド達が壊れた窓を取り換えたのと入れ違いで部屋へと入る。
「酷い……メルナに突き飛ばされた……泣きそう」
「ほざけっ! 泣きたいのはこっちなのじゃ! …………そもそもなぜ今さら?」
たまに語尾を忘れて聞いて来るメルナが可愛い。
じゃなくて。
泣きまねの愚痴もやめ氷の入った冷蔵庫から冷たい飲み物を出しながらソファーへと座る。
もちろんグラスは2つで1個はメルナの前に。
「アリシアに会いに行ったときに近くの古代遺跡行ったんですけど、そこでマネマネマンがでて。見た事ない攻撃で死にそうになったんですって。こう魔石を俺の周りに刺して魔力ブーストですかね、その後の光属性と思うんですけど……あれ覚えたいっす」
「………………ロウ」
「うい」
いつの間にかメルナが本を閉じて俺を見ている。
「魔力の残滓が知らない魔法を使ったのじゃ?」
「そう」
確認するほどボケたのかな。
安心してください、俺が介護します。
「とりあえず殴るのじゃ。いやもう一度落とすのじゃ」
「なんで!?」
「冗談じゃ、何か変な顔してるからなのじゃ……しかしあり得ん……魔力の残滓はあくまで迷宮に入った時にコピーされる力。本人以上の力は出ないはずじゃ……しかも……光属性……ロウは使えるのじゃ?」
「水系しか使えませんけど」
だから困ってる。
いや、実際には困ってないんだけど。
「所詮は俺はモブの悪役令息ですしー、いや過去形? 今じゃただのモブ」
手をひらひらさせてアピールする。
「先に突っ込むのじゃが、普通のモブってのは窓の外を歩いているような走り回る職人いや、何も目的のなく昼間から酒を飲む人間の事じゃぞ。どこぞのモブが魔法使ったり、魔女を師匠と呼んだり、セクハラや肉体関係。さらに聖女や英雄と呼ばれる男。各国の皇子や王、姫などと知り合いになるんじゃ?」
と、言われてもなぁ。
「全部が全部クウガのせいですって……俺1人だったら誰とも出会えませんし。アレが俺を恨んでるのか慕ってるのか色々問題起こすので、俺は仕方がなく手伝ったらこうなっただけです。メルナだってそうでしょ?」
「普通ならそうなのじゃが。ロウは前世というチートがあるのじゃ」
前世ってかゲームの知識というか。
ぶっちゃけ思い出すなら、全部の前世の記憶を持っていて欲しい。
なんでピンポイントに暗い日本人の時の記憶だけ持ってるんだ。ってたまに思う。
深く考えても仕方がないけど。
「じゃぁ俺は特別な人間」
「…………この世に特別な人間なんでいないのじゃ」
「あの合えて師匠って呼びますけど、俺の考えをどうせいと」
凡人と思ったら選ばれた人間だ。って言って来るし。
選ばれた人間なんですかね? って説いたら凡人だって言う。
「人生の大先輩として思い上がったロウを諭そうと思ったまでじゃ。さて……話を戻すのじゃ……うーん」
メルナが腕を組んで考えている。
これはあれ。
俺の言う事が気になってるのだろう、すぐにでも確認しに行きたい時の唸り。
メルナって面倒な事は嫌いなくせに気になったら調べたい性格をしてる。最初俺の事は気にしないふりをしていたけど、ちょいちょいツッコミ入っていたし。
で、じゃぁ。直ぐにでも行くって話にならないのは、そうアリシアが近くにいるから。
「俺1人でもっかい行きます?」
「問題はそこじゃないのじゃ」
「アリシアに会いたくないからでしょ?」
「…………ワラワがそこまで小さい女と思って」
「居ますけどおおおおお!?」
視界がくるっと半回転して外に放り出される。
割れたガラスが飛び散り背中から地面へと落ちた。
痛い……超痛い……いっその事斬ってくれたほうが再生(強)で一気に回復するだろうに。
メイド達が淡々と仕事して町の道は綺麗になった。
回復をまって最上階へと戻る。
扉をあけてメルナと視線を合わせた。
「泣きそう」
「泣きたいのはこっちなんじゃが……ロウも毎日回避できるじゃろうに律儀に受け負って」
「俺が回避出来るのは3回に1回ぐらいですからね……残り2回はマジで無理……で他の問題って」
「ワラワの魔力の残滓が出た場合じゃ。強化されたワラワと戦いたいと思うのじゃ? それと、ロウよどうやって倒したのじゃ。話だけ聞いていると負けてると思うのじゃが」




