第351話 疑問の残った小旅行
別れ際にアリシアと握手をする。
先行部隊とはいえ迎えに来てくれたんだ、俺としては帰るのだ。
もう少しアリシアとゆっくりできるかな? って思っていたけどメルナにも早く会いたいしな。
5人で色々な情報交換をし別れの時間になって行く。
封印した古代都市は聖騎士隊の管轄になり、後日大規模な調査を行う事。
アリシアの身分は公表もしないが秘匿もしない事。
この平和な地域なら人も殺到しないだろうし、そもそも聖女は公務の時に仮面してる、帝国ではしてない時があったけど……。
これから資材や大工の手配、そんな事を話していると数時間なんてあっという間だ。
「じゃぁアリシア」
「うん。気を付けてねクロウ君。先生には何も気にしてないし手紙も書くから。って伝えてね」
「わかった」
アリシアの後ろにいるクローディアが怖い顔をしてる。
クローディアはここに残ってアリシアの手伝いをするらしい。
男の俺といるより同性の人と一緒にいたほうがいいだろう、話を聞いている感じアリシアの味方っぽいし。
帝国の帝都にいるシスターがそこを辞めて追いかけてくるって相当なもんだよ。
「アリシア様。本当によろしいのですか? クロウベル様は女性に手は上げないと聞いております。押し倒すなら手伝いますが」
「ディアさん!? べ、別にそんな事思って……ううん。少ししか思ってないよ」
「そうですか、そうですね。数日間押し倒すチャンスがあったにもかかわらずベッドにクロウベル様が《《使った痕跡》》がありませんでした。教会ではメルギナス様と至る所でされていたのに、ヘタレなんですね」
俺の個人情報言うの辞めて。
別に至る所でしたわけじゃないよ!? 俺かメルナの寝室とあとちょっと外の物影ぐらいで……ってか、知っていたら教えてよ!
「後半は聞かなかったとして、俺でも必要とあれば女性でも子供でも斬るよ」
こういう世界だし、一瞬の甘さで自分の命を落とす。
法があって法がない世界だしな。
「そんな世界無くなればいいのにね」
「無理だよ」
俺以外の4人が黙った。
「クロウ君、そういう所だよ」
「先生。そういう平和な世界を目指すのに我ら聖騎士隊がいます」
「隊長殿の活躍に期待しております」
「クロウベル様、アリシア様も聖女として世界を変えようとしてるのです。何故水を差すのですか? 本当に空気が読めないのですね」
俺が悪いのか?
だってさー世界が違う地球で……比較的平和な日本でも無理だったよ?
法もあったけど結局は権力で曲げられてるし。
でも謝る。
「ごめんなさい」
「……クロウ君が謝った」
「先生も謝るんですね」
「良い心掛けです」
散々な言われようだ。
これ以上ここに居るとまた怒られそうなので馬に乗る。
「じゃっ今度こそ本当に」
「うん」
ファーストの街まで戻ると、一緒にいた聖騎士の爺さんが馬を降りた。
「では隊長」
「ここまでありがとう」
敬礼すると俺とフォック君の2人になる。
「先生。何も聞かないんですね」
「何が?」
馬に乗りながら俺に話しかけてくるので俺もそれに答える。
「今回の事です。帰る方法とか……なぜ2人なのかなど。あと、僕が隊長って呼ばれてる訳とか」
「聞いたら話してくれるだろうけど、極力面倒ごとは避けたい」
「え、でも先生は無敵ですし、どんな事があっても大丈夫です」
「無敵ねぇ」
愚痴っぽくなると、フォック君が馬を俺のほうに寄せてくる。
「どうしたんですか?」
「……いや何でもない」
ちょっとだけあの魔物の事を考えていたからだ。
魔石を使った簡易魔法陣、光系の魔法と思うがあれで俺は消滅しそうになった。
アリシアが助けに来なかったら再生(強)も間に合ってなかっただろう。
「まっ倒せたからいいんだけど」
「先生! また何か強敵と……さすがは先生です!」
「いやいや。その辺のスライムを倒しただけ、気にしないの」
フォック君は俺の事を過大評価するからな。
ここで一歩間違えば死んでいたって話してみろ、どっちに転んでも大騒ぎになる。
「で……町から離れて馬に乗ってるけど。どこ行くんだ? フェーンの街に行くには北上なのに北西に行ってる気がするんだけど」
「さすがは先生です!」
まさかと思うけど、この先に聖騎士隊が並んでいて俺を殺すとないよな。
もしくはフォック君が『帰りたかったらしゃぶってください』とか言い出したらどうしよう。
勢いあまって殺すかもしれん。
でも殺すとメルナと会うのは長くなりそうだしなぁ。
「着きました! …………あの先生?」
「え? ああ……ついたのねって何もない森しか見えないんだけど」
「ですよね。僕もです!」
話にならん。
もしかして魔物が人間にでも化けてるのか? と思ってフォック君を見るが人間っぽい。
「あの。馬を降りてください」
「もしかして俺にエッチな事するんじゃないだろうな……」
「先生?」
今なら馬に乗ったまま逃げれる。
「しませんけど……」
「……冗談だって」
俺が馬を降りる時に小さい声で「今は」とフォック君の声が聞こえた気がした。
慌てて振り返る。
「先生? どうしました?」
「…………空耳だったかな。いや何でもない」
「さて馬は適当に縛っておいてください、ここからは徒歩です。僕も地図を見ながらなので迷ったらすみません」
「聖騎士隊の飛行船でも隠してる訳? こんな森の中に」
「流石は先生。でも内緒です」
しばらく森の中を歩いている洞穴が見えた。
人が丁度入れそうなぐらいの穴。
「さぁお先にどうぞ」
俺が洞窟に入ると左右の壁が一斉に光りだす。
迷宮か? こんな場所に迷宮があるとか俺は初耳だ。
作りこまれた一本道を歩くと人影が見える。
俺の知ってる顔でその顔はアリシアと同じように微笑み、見るものをほっとさせる。
後ろにいたフォック君が前に出ると頭を下げる。
「聖王様。部隊長フォック。クロウベル=スタンをお連れしました」
「ご苦労だったね。さがっていいよ」
「はっ! じゃぁ先生名残惜しいですけどここで」
俺が声をかける間もなくフォック君は走って消えた。
「ええっと?」
「はっはっは。そう殺気を出さないでくれた前よ老人にはつらい」
「……出してないけど」
「そうかい? それはすまなかった」
正直何を話していいのか。
「ええっと俺はただ帰りたいだけなんですけど」
「わかってるよ。何所に行きたいかね? ええっと『リターン』」
「は?」
聖王が短く詠唱すると聖王の横の壁が鏡になった。
「おや? 知らないのかい『転移の門』だよ」
「知ってるけど……え?」
「はっはっは。ようやく君の驚く顔をみれたようだ。なに代々聖王しか知らない移動手段でね、アリシア君から手紙を貰った時にそうだろう。と思っていたよ」
なるほど、だからフォック君も帰ったのか。
場所はわかれど起動方法や物までは秘密に出来る。
「君はいつも遠くを見て落ち着いているからね」
「そんな事はないんだけど」
どうせ貰った命だ。好きに生きよう。と思っているのがそう見えるのかなぁ。
「そしてこれが私が開発した術でね『リターン・ミラージュ』」
「なっ!?」
聖王が作った『転移の門』の中にメルナの背後が映ってる。
髪はまだ銀髪に戻り切ってないがあの背中と尻はメルナしかいない。
手にはタオルをもって風呂にでもいくのだろう。
脱衣所に入るとメルナは服を脱いでいく。
もう少しで下着姿。
その瞬間に転移の門はただの岩壁に戻った。
「あああ! いい所で!! 聖王っ! どう……うわ」
四つん這いになって息が荒い聖王がそこに居た。
「え、年甲斐もなく興奮した……とか?」
「これでも聖王じゃよ邪な気持ちはない……が、魔力の消費が激しくてね……見とれてないで早く行ってくれると助かるな」
「ああ、ごめん」
てっきり聖王が俺のために覗きの魔法唱えてくれてるのかと錯覚してしまった。
そうだよな。帰るって話だったわ。




