第350話 ヤンデレ聖女
地下の古代遺跡封印からすでに10日。
やっと街の村長クラスに立ち入り禁止にしたなどの説明が終わった所。
最近疲れが取れない。
そんな事を思いながら今日もアリシアの住んでいる丘の上へと歩く。
本当は体調は絶好調である。
「なんだったら、1時間かかる場所まで走って20分ぐらいで行けるだろうし……」
心が疲れてるのだ。
そう、《《ヒロイン枠がいない》》!
アリシアは本編ではヒロインでも俺にとっては異性の友人。
俺のド本命はメルナである。
イチャイチャが足りないのだ!
それも物理的に。
さすがにアリシアと物理的にイチャイチャなんて出来るはずもない。
…………最近アリシアの眼差しが怪しいきがするけど、それは俺の気のせいと信じてる。
そんな俺であるが、師匠には手紙を頼んだし聖騎士隊も来るからそれと一緒に帰るつもりだ。
アリシアの家が見えてくると、外にいたアリシアが大きく手を振ってくる。
近くにはテーブルとイスがあり、テーブルの上には角が折れたユニコーンのぬいぐるみが置かれている。
アリシアが杖を振るのが見えると、俺の足元に魔法陣が現れると光が空に向かって伸びていく。
光が終わった後に俺の体はすっきりする。
「おはよアリシア。その毎日ハイ・ヒールかけなくても」
「おはようクロウ君、魔力あまってるからね。使わないと損だよ?」
「すぐに枯れて死にそうになるくせに」
「それはそれだよ。聖女自らヒールをかけてくれるだなんて幸せ者なんだよ」
「はいはい」
椅子座ると直ぐにお茶を入れてくれる。
「はい、疲れが取れるお茶」
「どうも」
アリシアも隣に座ってはお茶を飲む。
そう、今の俺達にはやる事がないのだ。
孤児院を建てる。
建てるといっても、アリシア自ら石を積んで家を作るわけじゃない。
専門の大工などが作るのは当たり前で、建てたいプランや後片付けはアリシアと俺で終わってしまった。
田舎街なので街の皆は基本健康。
聖女としてのアリシアの出番もないし、強力な魔物もいない。
古代遺跡と言う例外はあったけど。
「クロウ君」
「何?」
「今日泊って行かない?」
聞き間違いだろう。
アリシアがそんな事言うはずがない。
妖怪……ツクモ神? よくわからんがぬいぐるみの中にいるバグのせいかと思うもそんな感じはしない。
「トマトは好きだよ」
「野菜の話はしてないかな? 毎日の移動大変だよね? 泊っていこ?」
「全然、20分でいって帰ってこれるから」
「…………」
「…………」
アリシアが無言になるので俺も無言だ。
一呼吸おいてから事実だけを伝える。
「いやあの、俺はメルナがいるからね」
「知ってるよ!? クロウ君変な事言わないでよ、それじゃ私がクロウ君を誘ってるみたいだよね? 私はクロウ君が毎日来るから大変と思っての優しさだよ!」
そ、そうだったのか。
アリシアの反応が超早かったし、説明の仕方がクウガみたいになってるのは指摘したほうが良いんだろうか。
「だったら……」
「だったら!?」
俺の耳に馬の足音が聞こえた。
それも1頭ではなく複数の馬の足音。
だったら泊るか。と、言おうとしたは途中でその言葉を飲み込み町のほうを見る。
目に映るのは3頭の馬、乗っているのは老人。女性。若い顔。
その若い顔は見た顔だな。
だれだっけ。
記憶を頼りに考えていると、すぐに馬は近くなってきて俺とアリシアの前で急に止まる。馬を降りると俺の側に来ては手を差し出して来た。
「先生! お久しぶりです!! フォックです!」
「ああ! 久しぶり」
確かそんな名前だったな。
貴族の3男で茶髪の好青年。年齢はなんと15歳……いや16歳ぐらいになったのかな?
俺の事を先生となぜか呼び、双子のアメリンと言う妹がいる。
「もしかしてお忘れですか!? 帝国に一緒に試作機で行き帰った中じゃないですか! 所で先生の師匠さんで彼女さんである、メルギナス様と可愛らしいセリーヌさんが居ませんが……」
「隊長。聖女様の前で無礼ですぞ」
老人が言うとフォック君は慌ててアリシアの前に膝をついた。
「聖女様もうしわけございません! 連絡を受けて至急駆けつけました」
「もう少し遅めで良かったのに……」
「え?」
「ううん。すぐ来てくれるだなんて流石聖騎士隊、身勝手なお願いなのにありがとうございます」
「いえいえ、帝国から戻ってくれた分。バックアップはお任せください」
フォック君は立ち上がり胸を張る。
アリシアは次に女性のほうを見た。
女性は日よけのフードをかぶっていてそのフードを外した。
若く細目の女性。
「知り合い?」
「うん……え、でも……ディアさんです?」
合っていたのか女性は少し微笑むと俺のほうにも顔を向けて来た。
「クロウベル様もお久しぶりでございます。普段と違う格好なので、以前帝都の教会でお会いしましたね。クローディアと申します」
帝国。
教会。
よくあった?
「ああ! あの無表情シスター!!」
「………………クロウ君?」
あ、やばい。
思った事をつい口に。
帝都でアリシアに会うたびによく手続きをしてくれたメイド長みたいなシスターさんだ。
「なんでここに? え、アリシアを帝国に連れ戻すとか?」
「そうであれば聖騎士隊と一緒には来ません」
それもそうか。
「帝都の教会は先日退職しましたので、アリシア様のお手伝いに……まずは家の中を失礼します」
「え!? あのディアさん!?」
クローディアがアリシアの家の中に勝手に入るのでアリシアも慌ててついて行った。残ったのは聖騎士隊のフォック君と爺さんだけ。
「で、本当に何しに来たの?」
「聞いてませんか? アリシア様から速達でクロウベルさんがすぐに帝国に帰れるように手配を。と短い連絡が来て。すぐに僕が挙手して──」
顔が近い近い近い。
鼻息が当たる。
「隊長。クロウベル殿が困っております」
「やだなー先生はこんな事で困らないよ」
「十分困ってるからな!?」
一気に騒がしくなる。
アリシアの家からクローディアが出てくると俺のほうをにらむ。
「クロウベルさん! アリシア様のベッドに──」
「寝てない。寝てないからね」
「なぜ、寝てないのですか!」
「はい?」
俺が驚くと、アリシアが家から出て来てクローディアの服を引っ張りだす。
「ディアさんっ! う、動かない」
クローディアが俺の前までアリシアを引きずりながら歩いて来る。
「アリシア様の家を調べた所男っ気が1つもありません! ここは襲う所でしょう! クロウベルさんだってアリシア様の気持ちに気づいてむぐーー!」
アリシアが必死にクローディアの口を押える。
それを見たフォック君が何度も頷きだす。
「先生、安心してください先生の師匠には黙っておきますから、今夜は二人っきりにしておきます」
「俺はフォック君と一緒に町にいくからね?」
何をけしかけているんだこいつらは。
ここで俺がアリシアと関係を持ってみろ、メルナだって嫌が……いや、手を叩いて喜ぶかもしれん。
「とにかく、戻る」
「そこは一緒泊ってよクロウ君」
クローディアの口をふさいでるアリシアが感情が無いような真顔で俺に言って来る。
思わず見ると急に慌て始めた。
「もちろん冗談だよ?」




