第349話 狐面の人間
全身の痛みで目が覚める。
体内の血というか魔力が消費されてる気がするので『再生』の効果だろう。
手足はまだ動かなくて天井が見える、うっすらと小さい穴が見える事からあそこから落ちたのかわかった。
小さい声で『クロウくーん』とアリシアの声が聞こえるって事はかなりの高さだ。
ってか。声が聞こえなくなった思ったら。割と大きな石が何十個も空から降って来た。
いっ! 痛い痛い痛い痛い!!
「いった……」
大きな声を出せるほど回復してないってのに、全身の力を振り絞って何とか場所を移動すると、人間が簡単につぶされるほどの岩が落ちてくる。
「はぁはぁ…………あのこれ俺じゃなかったら死ぬからね……」
推理するに俺が落ちた、アリシアは慌てて穴に近づく、穴に近づくにいたって足元が少し崩れる。
体重の重くなったアリシアが乗る事で地面が崩れ俺の上に落ちて来たって所だろう。
まだ痛いが手足の確認をして起き上がる。
暗いが明かりが無いわけじゃなくて大きな門が見えた。
イフなどの隠しダンジョンと同じならこの門の先に古代都市が待っている。
俺の記憶ではボスはいなく、エリクサーや希少価値の高いコイン。一番大きな家に魔石があるぐらい。
「問題は帰り道のほうだな」
ゲームでも縄ハシゴなのは覚えてるけど、切れたって事はない。
ここで救助を待っていてもいいんだけど、正直何日かかるかわからないし。扉の先が気になる。
「と、言う事で……一応地面に矢印を残すか」
地面に目印を作り古代都市にへと入った。
ちなみに正門は堅いので開かず、離れた所にあった小さい門を壊し中に入る事に。
他の隠しダンジョンと違って敵は見当たらない……この辺はゲームと一緒。
ただ町が広く途方に暮れそうだ。
ざっと見る感じ家が200件以上。
手前の家に手をかけてみると鍵がかかっている。
「水槍」
俺の水槍は扉ではじかれた。
「…………水槍・連」
俺の十数の水槍は扉に向かうも扉にはじかれた。
「はぁ……これでも強くなったと思ったんだけどな。こうも扉1枚破れないとなると自信を無くすわ……『水竜!!』」
俺が叫ぶとネッシー型の水竜が現れて長い首をぐるっと回転させた。
その力強い一撃で扉を壊すと、どうだ! と言わんばかりに俺を見てくる。
首を軽く叩き、意識を遮断させると水竜は小さな水滴になり消えていった。
お邪魔します。と、入った家の中は何も変哲のない普通の家。
ほこり1つない家で気持ち悪さが勝つ感じだ。
「宝は無し。と……ってか一軒一軒水竜で開けるのも大変だし、ここは封印だろうな」
俺が誰もいない一軒家から出ると、全身をボロボロのローブを着ている人間が立っていた。
「……どうも」
軽く会釈をする。
原住民さん発見ってね。
さて……帰るか。
その人間に背を見せた瞬間、なぜか危険信号が青から赤に切り替わった。
「っ水盾・連!!」
俺が水盾を唱えると同時に黒い水槍が俺の水盾を貫いて来る。
「ちっ! 水竜!!」
俺が『水竜』を召喚すると、目の前の人間もネッシー型の水竜を出して来た。
なっ!?
違うとすればその水竜は全体に黒い水。と言う事だろう。
水竜vs水竜で周りの家が何件も壊れた。
力は互角……いや、あっちのほうが上だ。
俺の水竜たんは黒い水竜に体を噛まれ透明な水が黒く濁っていく。
まずいな。
魔王城でみたマネマネマンの上位か。
あれも城に入った人間をコピーし戦うという敵だ。
敵は出ないはずなんだけど……アンジュの剣を出して間合いを詰める。
フードの影から顔が見えた。
てっきりマネマネマンが化けた俺の顔が見えるかと思ったが狐の面。
当然というかコピー魔物も俺と同じアンジュの剣で応戦してきた。
俺の攻撃を見切り、その上をさらにかぶせてくる剣筋。
手首を斬られると勢いよく血が噴き出てくる。
小さい傷なので再生はするが、貧血になる。
流石裏ダンジョンだ。
俺が水槍・連を唱えると回避するか黒い水盾で防がれる。
狐面が手をさっと上に掲げた。
陽動かも、と思ってもとっさに目がいくと俺の足元に黒い魔石が5個突き刺さる。
「あ。やばい」
何されるかわからないが、本能的にやばい。
だって5個の魔石が魔法陣を描くんだもん。
狐面の男が指を鳴らすと俺の体が焼け落ちていく。
「ハイ・リザレクション!! 再生と死の炎よ、魔女アリシアとの契約により力を貸して」
俺の体が光に包まれると同時に、炎の鳥が何十羽も狐面へと飛んでいく。
狐面は炎に飲まれ全身が燃えるとその姿が消えていった。
「はぁはぁはぁ……クロウ君!! だ、大丈夫!?」
「なんとか…………」
アリシアの回復魔法と、俺の再生。衣服は師匠からもらった魔防が高い衣服。
パッと見ただけでは問題はない。
無いが、足に力が入らない状態、魔力消費が激しいんだろう。
「今の敵は!?」
「…………やっつけたんじゃない?」
辛うじてそういう。だってやっつけた。と言うよりは……。
「逃げたように見えたけど……」
さすがアリシア。眼がいい事で。
俺も逃げたように見えた。
「いや、アリシアのおかけでやっつけた」
「クロウ君がそういうなら……って。危険がないんじゃなかったの!?」
「いやぁ……俺の記憶違いというか。北の迷宮にいる上位がいるとは」
「あっ……あの魔力の残滓……じゃぁここにも黒い魔王がいる……?」
アリシアが周りを警戒しだす。
敵の気配はない。
ってかあれだけの戦闘だったのに敵は1体しかいなかった。
「見た感じ気配はないし……」
「そう。わかった、ここを封印します」
珍しく言い切った。
「もったいない……」
「…………クロウ君正座」
「え? なんで?」
「いいから」
「いや、理由を……あっはい。正座します」
アリシアは俺の前に仁王立ちになる。
顔は般若だ。
「そもそも、危険はないっていってたよね。敵は出るしあのクロウ君ですら危ない、いいえ。落ちた時になんで移動するかな? 私だって馬鹿じゃないんだよ? すぐにローブでもなんでも用意するよ」
「いや、太ってまた落ちるかなって、救助遅くなりそうだし」
「は? え?」
俺もすぐに助けは来るだろう。と最初は思ったよ? でも縄ハシゴが切れて、床だってアリシアの体重で落ちたんだし、まだ時間がかかるかなって。
「再生と死の炎よ」
アリシアの手に小さい火の鳥が出てくると俺の顔に張り付いた。
「ぶあっちっ!! いてえ、あちいい!!! と、取れない!!」
「安心して燃えた所から治してるから」
「謝る! 謝るから! アリシアは太ってません!! 太ったように見えるだけで軽いです!!」
「へぇクロウ君……」
「馬鹿! 鳥がふえ──」
──
────
迷宮を後にして街まで帰る。
あれから何度も土下座をして許してもらった。
古代都市のほうはアリシアが扉を封印した。
本人がいうにはメルナから教えてもらった封印術で外部の魔力を使うので大丈夫。といっていたけど……凄い疲れている感じだったな。
「あーあー……せっかっくのデートだったのに」
「え?」
前を歩くアリシアが変な事を言うから思わず聞きかえした。
「冗談だよ? それよりもお腹減ったんじゃない? 食べながら行こうか」
アリシアは腰のポーチからバスケットをだしてきた。
普通なら物理的に不可能なんだけどマジックボックスだなきっと。
中には美味しそうなサンドイッチが入っており、2人で別けながら街へと帰った。




