第343話 ユニコーンのぬいぐるみ
寝ているアリシアを放置してファーストの町に入る。
街というよりは町、村と言ったほうがいい感じがする。
基本的な建物はあってもゲームと同じなら貴族などはいないはずだ。
なんだったら冒険者ギルドも無い。
そんな町に俺が入ると好機の眼で見られるのは間違いない。
腰に鎌を吊り下げたおっさんが俺を見ては足を止めて来た。
「兄ちゃんどこから来た? 崖のほうから来たよな?」
もう敵意むきだしだよ。
別に悪い事してないのに。
「崖のほうから来たのは間違いないし、アリシアやクウガの知り合いだよ」
「はーあの娘っ子の知り合いか! なんじゃ彼氏か、やっぱ都会に出たアリシアは彼氏連れて来たか」
何か1人納得してるおっさん。
これは直ぐに訂正しないとだ。
「おっさん。違うからね? 俺はこれでも彼女持ちなの。本当に友人だけの存在」
「流石都会いった子は違うな」
「おっさん聞いてる?」
「イヤイヤ聞いてるよ。君は彼女がいるんだろ? 彼女には黙っていてやるから嬢ちゃんと──」
おっさん背後に周り目の前でアンジュの剣を見せつける。
その刀身が俺とおっさんの顔を鏡のように映した。
「俺はまだ何言われてもいいけど、アリシアを巻き込むな」
おっさんが静かに頷くと俺は剣を仕舞う。
「悪かった。その代り俺が手伝える事あったら手伝うし、宿も借りたい。それとこれ迷惑料と要らないかも知れないけど……俺にはこれぐらいしか出来ないから、剣を向けたお詫びって事で」
おっさんに金を握らすと、緊張した顔も少しほぐれて来た。
「こっちこそ悪かったな。町を出て行ったアリシアが空飛ぶ物に戻って来てつい勘違いしてた」
「そういう事もあると思うよ、ついでに『羊亭』の場所も教えて」
『羊亭』飯屋と酒場がくっついた場所。
ゲーム本編では全くと言っていいほど意味がない場所だけど、何か情報があるかもしれない。
教えてもらった酒場に入ると朝から飲んだくれが数人。
俺の顔を見ては誰だ? と驚いていたが、一緒に入って来たおっさんが説明すると色々と納得してくれた。
奢りたくもないけど飲んだくれの料金と女主人に金を払い酒などを買う。
先行投資と言うやつだ。
金で信用が買えるなら安い。
「いいのかい? こんなに……」
女主人が驚いて金貨を数える。
「良くはない」
「…………あっはっは、都会者だからすかしてると思ったら正直だね」
「都会って言うけど、別にちょっと人が多いだけの所。悪人のほうが多いし、このファーストの町のほうが住みやすいと思うよ。まぁ友人と変な噂立たないようにしてくれれば、クウガとも知り合いだし……変な噂あったら俺がクウガに斬られる」
「あーあの坊主も数年前に来たと思えばまだ生きてるの?」
「バリバリ元気。なんだったらミーティアも生きてる」
そこからは3人が以下におてんばや、悪ガキだったのを話てくるのでそれを黙って聞いてる。
「でも、あんな事があったからねぇ」
「あんな事?」
「あの子らの孤児院が魔物に襲われただろ? 聞いてないのかい?」
「聞いてるよ」
聞いてないけど、知ってる。
ってかアリシアもその辺喋ってこなかったな。俺が知ってると思っていたのか?
「酷い事件だったよ。遺体さえでなかったからね」
そういう事もあり、ますます平和を願う事になるんだよなぁ。
「おはようございます。ヒナタさん、ここに──あっ! クロウ君」
アリシアの声がして振り向く。
走って来たのか息が荒い。
ヒナタって言うのかこの女主人。
そのヒナタが小さい声で「おやおやおや」と言っている。
頼むから変な噂だけは辞めてくれよ。視線で合図すると、軽く胸を叩いてる。
そうでなくては困る、大金払ってるんだし。
「ん、おはよう」
「もう帰ったのかと思ったよ!」
「帰る手段まだないから……」
「ご、ごめん」
周りの好奇心に満ちた目が凄くて俺は軽く説明する。
「ここには空飛ぶ船みたいの出来たんだけど、そのアイテムが壊れてね」
「ごめんねクロウ君」
「別にアリシアが謝る事じゃないし。と、言うわけで帝都に連絡を入れたいんだけど……」
俺が提案した所でヒナタは呆気にとられたような顔をしてる。
「帝都って王都じゃなくて? パール帝国の事かい?」
「まぁ無理だよね」
数年かけていく場所に連絡してくれって言ってるのだ。
電話が無い時代に東京からアメリカまで連絡いれてくれ。と言ってるような物だ。
「まっ色々考えてみるよ。とりあえず俺とアリシアの飯2人分」
「クロウ君!? 私そんなに空いてないよ!?」
「良いから良いから」
──
────
『羊亭』で飯を食べた後、元孤児院までゆっくりと坂道を歩く。
帝国と違ってのんびりしていていい感じだ、老後はこういう場所に住みたい。
「ごめんねクロウ君」
「何が?」
「街の人凄い来たでしょ……」
「来たな」
小さい町なので噂と言うのは凄い。
よそ者が来た。というので何人も『羊亭』に顔を見せに来た。
最初にまいた金貨が効いて女主人のアンナが『アリシアの友人だよ』と広めてくれた。
「クロウ君本当は強いのに」
「あー町の人のアレか」
外見で俺は弱く見えるらしく色んな人から武勇伝を聞かされた。
唯一俺が脅したおっさんだけは、ハラハラした感じで見ていたけど。
「まぁでも色々聞けてよかったよ。巡回騎士達が15日後に来るんだろ?」
「うん。表向きは巡回で……」
「アリシアの様子を見にって事か」
「孤児院を作るのにも材料が掛かるからね」
ゲームのようにコントローラーで出来るわけじゃないからな。
「ってか町の人ってアリシアが聖女なの信じてない感じだな」
「うん! 同名の人がいるって思ってるみたい。帰って来た時なんて「嬢ちゃんも名前も一緒なんだから回復魔法の一つでも覚えて来たのかい?」って言われちゃった」
アリシアが本物の聖女って知ったらどうなるのか。
別にばらさないけど……。
「ばらさないけど、バレた時騒ぎになるぞ?」
友人として忠告だけはする。
「その時はその時だよ」
「善意の塊みたいな事で」
「そうなのかな? 私結構悪い子だよ?」
全然そうは見えないけどな。
2人で孤児院後に付き何か使える物がないかと道具整理をする。
地下室から俺が地上に運び、地上にいるアリシアが選別をする。
昨日も少し作業をしたが今日も引き続きって所だ。
俺はふたが閉められている木箱発見しを上に持って行く。
「アリシア―木箱」
「でかした! クロウ君! でも少し黒いね」
「すすかな? 中身は焼けてるかもしれん」
アリシアと一緒に開けると中にはユニコーンのぬいぐるみが入っていて酷く汚れている。
「あっ……これって」
「アリシアの?」
「うん、こんな所にあったんだ。これねお父さんが作ってくれた奴……世界に1個しかないんだ」
少し涙を見せるアリシアに俺は何を言って良いか、とりあえず空を見て早く時間が過ぎないかな。と……。
木箱の中には小さい玩具や衣服も入っている。
そんな作業を夕方まで進め俺はファーストの町に帰ろうとする。
「えー泊っていかないの?」
「あのねー……」
「冗談だよ。クロウ君は先生を裏切れないもんね」
メルナならきっと俺が浮気しても気にしなさそうな気がする。
「別に裏切る裏切らないの話じゃなくて、変な噂立てたくないだろ。お互いに」
「別に私は気にしないよ!?」
「はいはい。じゃっまた明日」
「はーい。ヒナタさんの店に迎えに行くね」
さすがの俺も連続の徹夜はしたくない。
『羊亭』で余ってる部屋を借りて寝る、部屋に入る前に女主人が俺に挨拶をして別れた。
崩れるようにベッドに眠ると、ぐっすりと寝たはずなのに変な時間に目が覚めた。
「と、いうか俺『羊亭』で寝てたよな」
部屋の中にいたのに外にいる。
見覚えのある家。いや小屋がある。
そしてその横には立派な孤児院が立っていた。
何年寝てた俺?
あの更地からこれを立てるのに数ヶ月はかかるとしてその間の記憶が無い。
「おじさんなにしてるの?」
水色の髪をした小さい女の子が俺をじっとみている。
「へんしつしゃさん?」
「どこでそんな難しい言葉を。あと俺はおじさんじゃなくてお兄さん…………な……」
水色の髪をした女の子はユニコーンのぬいぐるみを大事そうに抱いている。




