第340話 小さな小屋の大きな聖女
直ぐ近くにあった外見は山小屋以下にしか見えない小さい建物。
そこにアリシアは暮らしているとの事、その小さい家に招かれた俺はアリシアが入れてくれたお茶を飲み始める。
「もうびっくりだよ。額縁が光ったと思ったら急にクロウ君の絵が現れてにょきにょきって出て来るんだよ?」
「あー……実はあれ『転移の門』って奴で」
「あれがそうだったの!? 前にクウガ君が私達から逃げるのに使ったって聞いた事あるけど……こんな場所にもあったんだね。門って言うから扉かと思ってた」
そういえばそうだな。
アリシアは使った事ないか。いや、使っていたとしても魔力を込めないとただの額縁だ。
大きさもバラバラだし、今考えるとわざとそういう風に作っていて移動用というか緊急脱出用も兼ねてたのだろう。
だから基本地下とかにあるし複数ある、道順を知らないと追いかけられないもんな。
「それより、アリシアはこのファーストの町までどうやって……リターンの魔法は使えないだろうし、転移の門もない……?」
俺が先に来てこの街で数年間待たないといけないのかと思って心配していただけに、会えてよかった。と言う所だ。
「どうって飛空艇だよ? サンさん達に送ってもらったけど」
「……………………」
「クロウ君? 私、また変な事言ったかな?」
また? って事は誰かに言われたのか。
今回に至っては普通の答えだ。
「いや。俺が馬鹿だった」
サンに飛行機が出来てるか確認しに行くんだったら『コメットⅡ改』で送ってもらえばよかったわ。
「まぁとにかく、これを」
メルナから預かったマジックボックスを手渡すと、アリシアはそれを受け……取らない!
「貰えないよ?」
「……いや、なんで!?」
「何もしてないのに何かを貰う理由無いよ?」
うん。お見舞いでもないしな。
「いや、孤児院作るんだろ? メルナと俺からの気持ちって事で貰ってくれ。それに……孤児院ってお金かかるだろ? 基本的に自給自足に街の手伝い、孤児院を出た人間の仕送り」
「そう……だね……ごめんね。そう言われると少し意地になってかも」
珍しいな。
「何で?」
「何でって……クウガ君は帝国でまだ用事あるし、他の人には頼めないって思って……絶対自分だけで作るんだって。うん、ありがたく頂きます」
アリシアがマジックボックスを手にしたので俺も一安心だ。
「お礼に何か甘い物を出すね」
アリシアが立ち上がり引き出しを開けては閉めてを繰り返す。後ろ姿を見ているとそのまま話しかけて来た。
「そういえば先生が風邪って言っていたよね? もう治ったのかな?」
「ああ、7日ほどかな? くしゃみ、鼻水がね。呪いではない。と本人は言うんだけど……? まだくしゃみしてるよ」
俺の顔を大きな目を見開いて見てくるので途中で言葉が止まってしまった。
あれ?
怒ってる? 圧があるんだけど。
「風邪……うん。一度整理するね」
「は……い……?」
「クロウ君は先生の風邪を放置してこっちに来たって事でいいのかな?」
「そうなるね」
「最低…………最低だよ! そういう所だよクロウ君。いいえ、クロウベル君!!」
怒られてる? え??
「先生も女の子なんだから弱ってる時は誰かにいてほしいんだよ。それが例えおっぱい魔人の変態のクロウ君でも!」
軽くディスられてるのは気のせいか、姉弟子であり友人だからなのか。
あと別に俺はメルナの胸がデカいから好きってわけでも、小さくてもメルナが好きで。
「いや、俺もそう思ってい──」
「うん。それは言い訳だよ。本当に先生の事を思うなら一緒に居ないと」
「だから俺も──」
「聞いてクロウ君!」
聞いてるし、俺の話も聞いてほしい。
「先生が私に気を使っているのはわかった。でもね、そういう事じゃないの」
「それ──」
「黙って」
「はい」
俺に発言権は無いらしい。
「確かに私はクロウ君に振られたよ?」
「俺が振ったね」
「そうだね、普通に考えたら極悪人だよね」
どうやら普通なら極悪人との事、知ってる? 極悪人って大抵死刑なんだよ?
「クロウ君、床を見ないでこっち見てくれるかな?」
「は、はい」
笑顔なんだけど怖いです。
本気で戦えば俺が勝つと思うよ? でも怖いです。
「私は先生だから納得出来たの、それにクロウ君は最初から先生が好きだった。普通に考えたら私のほうが悪い女の子なの」
「いや、それは違──」
「お口縫う?」
俺は口を即閉じる。
「一先ず私の話を聞いてくれるかな?」
俺は口で返事をせずに何度も頷く。
ここで『はい』なんて言ってみろ、アリシアなら口を縫って来るに違いない。
「それに、クロウ君は先生と名前呼び合うまで長すぎだよ! 何年かかったの!」
「たぶん2年──」
慌てて口を押える。
アリシアがポケットから革細工でも作りそうなぶっとい針と糸を出したから。
「よろしい。これは先生も悪いよ……メル先生はクロウ君の事をずっと好きだったんだから」
「マジで!? んんんんんんんんん!!???」
逃げようとすると、狭い小屋なので判断が鈍った、次の瞬間にはアリシアの手が俺の顔に。
縫った! この姉弟子、俺の唇を本気で縫った!! そのまますぐに糸をハサミで切ると、俺の唇は穴だらけで血だらけだ。
「ヒール! じゃっ続きいいかな?」
必死にうなずく。
再生があるからって痛いからね。
今度は無痛の能力が欲しいです、はい。もしくは痛み軽減でもいい。
「訂正すると好きじゃなかったかもしれないけど、好意はあったよ? だって先生と旅してる時に先生は何人も男性に誘われていたけど全部断っていたし、男の子の弟子も取らなかった。クロウ君ぐらいだよ先生が一緒に連れて…………根負けしてたの」
話だけ聞くとストーカーだ。
俺はストーカーではないから、マジで。
反論したいけど喋ると怖いので黙ってる。
「だから、クロウ君と先生が名前で呼び合う関係になっても、私は大丈夫だし。2人とも気にしすぎなの、今のクロウ君に出来るのは直ぐに帰って先生の手を握る事! さぁ出発!! あんまり帰りが遅いと先生はクロウ君の事忘れちゃうよ?」
アリシアに言われて俺は出されたクッキーも食べないで立ち上がる。
少しぐらいゆっくりさせて欲しいけど、帰れ。と言われたので帰るしかない。
それにアリシアの言う事が正しいなら帰ったら『ロウ』から『ドアホウ』まで二段階ランクダウンになってるかもしれない。
「じゃぁ帰え……じゃなくて! アリシア!! えっとまず喋っていい?」
「いいよ? 何かな」
よかった。
縫われたくないので一応小さい手を上げて申請した。
「その、メルナのくしゃみに効く薬とか無い?」
「あっ! そうだよね!!」
アリシアがすごい慌てた顔になる。
お土産渡して終わりってのも良いけど、メルナに薬、もしくは何か持って行きたい。
「私も一緒に行ったほうがいいんだろうけど……先生が気を使いすぎてるし、まずはクロウ君から私の気持ちを伝えてからのほうがいいよね」
俺個人的には大丈夫だろう。と思うが、アリシアがそういうならそうなんだろう。
「待ってね。きっと先生も知ってるだろうけど調合したハイポーションと私の魔力を込めた聖水。あと呪いだったら困るから祝福のエーテルも、これはナイ君から貰った奴で効けばいいんだけど」
「どもども」
座りなおした俺はアリシアが出してくれたクッキーを食べる。
やっと落ち着いた。
「じゃっ帰りも『転移の門』使って帰るわ」
「そうだね歩くと何年かかるかわからないもんね『転移の門』で帰え……あの、クロウ君」
「何?」
急にしおらしくなったアリシアは俺と目線を合わせない。
「本当にごめんなさい! クロウ君が帰りに使う『転移の門』って私壊した奴よね?」
っ!?
「ああああ!!!」




