第339話 アリシア驚きすぎて手を放す
転移の門の前につく深呼吸をする。
メルナから『アリシアに会いに行け』と命令、いやお願いか? されてから5日はたった。
メルナの髪も黒色が抜けて銀髪に戻りつつ、風邪の症状も落ち着いて来たので、本来であれば別に離れる必要はない。
と、いうか。
だったら俺もアリシアに会いに行く用事もなくなりつつあるんだけど……なんせメルナが俺の顔を見ても塩対応なのだ。
例えば朝「今日もいい天気ですね、まるでメルナの心の様だ」と言うと、「今すぐに雷でもなりそうなのじゃ。へっくちん」と。
じゃぁ別の昼食時に「たまにはマッサージでもしますか?」と言うと「ふっ……どの口がなのじゃ」と拒否られたり。
実力行使でもする? っても。「アリシアは大丈夫であればなのじゃ、おっとここにいる、ロウには関係なかったのじゃ」などだ。
具体的なのはもっとあるし、いよいよ俺も覚悟を決めたのが昨日。
メルナに「帰ってきたらひぃひぃ言わせますからね!!」と最低の文句を伝えた所だ。
それに対するメルナは俺の股間を見て鼻で笑い「そっちのほうもアリシアに頼んたらどうじゃ? へっくち」と。
俺の怒りはもうフルマックスですよ。
って事でさっそく皇女であり友人のサンの所にいって以前頼んでいた『飛行機』を借りに行ったけど、試作一号機、二号機共に大破した。と結果だけ聞いて今は設計図を練っているという事だ。
あれでいて子育てや公務や趣味の発明などで忙しいので、返事だけして帰る。
と最後はもう馬か馬車になるんだけど。
馴染みの馬屋でも丁度馬の手配が無理で、一度宿に帰ったらメルナに「…………馬車でいけばいいじゃろ」と正論を言われて現在だ。
いやあのね。
ここからファーストの町まで戻るのにゲームならすぐだよゲームなら。
途中で大きな海峡越えたりさ、年単位かかるんですけど!?
俺が「そんなに俺に会いたくないんですか?」って言うとメルナは俺の言いたい事がわかったらしい。転移の門のルートを書いてくれた紙をくれた。
「ファーストの町か……」
『マナ・ワールド』最初の町で何もない。
教会、道具屋、町長と数件の家。
ゲームでの話で実際はもう少し色々あるんだろうけど、売ってる物が木の剣や良くて鉄の剣。
俺の住んでいたフユーンの町からさらに南のほうだ。
時間はあっても離れたくはないの。
こうなると現代のGPS機能が欲しい。
いつも勝手に遠くに行くメルナに付けておきたい……。
「いや。確か精霊通信とかあったような……あれって精霊使いだけが使えるんだっけ? 帰ったらメルナに聞いてみるか……っと。ええっと『リターン』」
四角い額縁だったのが鏡のようになる。
安全だ。とわかっていても1人で入るのに勇気いるんだよなぁこれ。
手を入れて足を入れて最後に頭をいれ別の場所へとワープする。
俺がワープし終わると背後の『転移の門』はただの額縁に戻って行った。
「ええっと……ここからファーストの町まで。左下に青マーク。次に右上に黄色マーク、入ったら印なしの奴で、一通2回、最後に5個あるうちの金色いマークついてる奴……覚えきれっか!」
覚えなくても順番通りに行けばいいんだけどさ。
手順通りに進んで最後の転移の門まで来た。
来た所である事に気づく。
「あれ?」
帝都からアリシアが護衛も着けずにファーストの町に戻ったのは確定だ。
「そうそこまでは良いんだ。問題はアリシアの移動手段」
普通に戻ると数年かかる場所に俺が先に行ったって駄目じゃない?
ファーストの町で数年俺は待つわけなの?
そんな時間ないよ!? あるんだけど無いよ!!
「わ、わんちゃんにかけるしかない。アリシアがワープ魔法で来ている事を願う!!」
最後の転移の門を起動し頭を突っ込む。
反対側の景色が突然動いた感じがした、俺が違和感を感じた時にはもう遅く移動の途中だ。
あり得ない事が起きて俺は目の前の女性に挨拶をする。
「よ。よう……《《アリシア》》」
「クロウ君!?」
アリシアは転移の門を持った状態で俺を見て、俺はその転移の門から上半身を出している状況だ。
「えっと……なんで《《額縁》》から……本物さんだよね?」
「それよりも、手離してくれない? 壊れたら俺の体バラバラになるし」
「あっそうだよね! あっ!!」
「なっ!?」
アリシアの手が転移の門から離れた。
俺は床を蹴って転移の門に飛び込む、飛び込んだ同時に足元で何かか壊れる音が聞こえた。
受け身を取りつつ振り返るとアリシアが壊れた転移の門を必死押さえている。
「クロウ君!! ど、どうしよう。これ、あの!! ごめんなさい!! 治るかな? 治せる? ううん、絶対に治すから」
泣きそうな顔で言われると許すしかない。
「いやいいって。元々古い物だったしってか久しぶり」
「久しぶり……かな? 1年の半分以上は会ってる気がするよ」
「確かに」
俺が小さく笑うとアリシアも小さく笑う。
そのアリシアが周りをきょろきょろと見合わした。
「先生は?」
「え? ああ……メルナなら風邪引いて」
「ふえっ!?」
「な、なに!? 敵でもいる?」
アンジュの剣を抜いて周りを見る。
いやー、またこれアンジュ辺りに怒られるな……剣や冒険者の師匠であるアンジュ曰く『転移の罠などに嵌った時は状況を確認する事です』と口を酸っぱくして教えられた。
周りを見ると遠くに小さい小屋。
崩れた石壁が少しとアリシアの近くには地下に行く階段が見える。空は青く晴れている。
少し高い場所にあるのか、街並みが見える。あれがファーストの町としたら奥に見えるのは海だ。
って事は背後には……ああ、崖があるな。
この辺の敵はスライムなどだ。
こんな序盤でオーク何て出てみろ、クウガ達が生まれる前に滅んでる。
「スライムでもいるようには見えなかったけど」
「ち、違うから!! え、クウガ君」
「何?」
「先生から今は何て呼ばれてるのかな?」
「え? ああ……」
ああああ!
ちょっとだけメルナが来なかった理由の一つが分かった。
そうか。
そうだよな……少なくともアリシアは俺の事が好き……だった。
で、メルナはそれを知っていた。
当然俺もその事は知っていたし、今までは弟子としてメルナと一緒に居たからよかったけど、その名前呼びになった。
普通であれば、何かあったのじゃないかって思うわな。
そうか、ミーティアもそうだけど、あのクウガも気づいたもんな。
2人より頭がいいアリシアが気づかないわけがない。
「クロウ君?」
「え、笑みが怖いんだけど……その『メルナ』は俺の事を基本『ロウ』と……なんかごめん」
「うん。とりあえず、つねるね」
アリシアが俺の横腹を手加減無しでつねって来た。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い、アリシアマジでいたいってごめん」
「私が何時、謝ってほしいって言ったのかな? ねぇ」
「そ、それはその、千切れる」
「ヒール」
え? 痛みが治まった。
「ほら大丈夫。続き行くね」
「待て! まっ!」
痛い、痛い、痛い、痛い!
「謝った事を謝るからとりあえず話を!!」
「はい、わかりました」
離れてくれた。




