第338話 溶けたメルナと黒パンツ
「へっくち」
メルナのくしゃみがいよいよ酷くなってきた。
現在は帝国にある高級宿。
部屋数は4つ。
シャワートイレ別、寝室にリビングまでついている部屋に現在いる。
すぐにアリシアの所に行こうとしたのだけど、メルナがふらっとしたので大慌てで俺は支えホテルを探した。
そこの大きなベッドがある寝室に寝かすと、飲み物や氷、メルナが希望した本などを買っては渡し、さらに頼まれた物を買ってはは渡しで一晩が過ぎたあたりだ。
正直俺もちょっと眠い。
7回目の買い物が終わった時にメルナが「もういいのじゃ」と言って来たので近くの椅子に座り一息をつく。
「ロウよ、そもそも慌てすぎなのじゃ。ちょっと転びそうになっただけなのじゃ」
「そうなんでしょうけど、ホテルを探す俺にしっかり条件つけてましたし」
「昨夜はロウが混乱してるようじゃが、普通教会や街医者に見せるのが当たり前じゃからな」
外科系なら回復魔法がある教会。
内科系なら薬で治す医者や錬金術師。
当然モグリもいるのがこの世界の医療技術だ。
貴族などになると専用の回復術師などがいたりもする、俺の家はいなかったけど。
だれでもかれでも治療が受けれる。とはならないのが星や国が違っても変わらない。
「いくら俺でもそれぐらいは知ってますよ、でも明らかに外傷じゃないし内臓系の治療するにしても女性の医者探さないと……まずは安静に寝る場所からかなって」
「…………変な気遣いだけはするのじゃな」
「それはそう、俺が数年かけて見れた裸を、ぱっとでの良くわからん男に見せたくもない」
「ほう、それでワラワが手遅れになって死んだらどうするつもりじゃ?」
「寂しいでしょうから後を追いますけど」
メルナが何も言わなくなったので俺も何も言わないとため息だけが聞こえてくる。
「ワラワは天国に行くのじゃ、ロウは地獄じゃろうし会わんじゃろ?」
「ひっど、どちらかと言うと逆なような」
「だま……へっくち」
「薬は飲んだんで?」
「ロウに頼んだ物を調合し飲んだ所じゃ」
頼まれた物に『カエルの干物』『マンドラゴラの葉っぱ』『砂糖』『マテリアの粉』などがあったので薬の調合とは思ったけど、集めるのに苦労した。
最後には冒険者ギルドにある在庫から買ったりもした。
「なに最近魔力を使いすぎたのがあだになったのじゃろう」
「それだったらいいんですけど、老衰とか辞めてくださいね」
「よく口の回る奴じゃ……ロウも少し寝るのじゃ。って何同じベッドに入ろうとしてるのじゃ」
「寝ようかと」
メルナは黙って首をクイっとリビングのほうに曲げた。
あ。だめ?
いいじゃん、もう実質恋人以上なんだからさ……。
でも好感度をこれ以上下げたくないのでリビングに行く。
じゃぁ普段やってる事は好感度下げないのか? ってなるけど、普段のは普通のスキンシップだから。
寝室の鍵が俺に聞こえるように掛けられた音が聞こえた。
鍵ぐらいいくらでも壊せるってのはメルナだって解ってるはずなのにかける。と、言う事は入ってくるな。の合図だ。
一晩金貨何十枚とする豪華な宿に来てなぜ俺はソファーで寝ないといけないのか。悲しすぎて不貞寝する。
俺が目が覚めると部屋に入ってくる光は赤く染まっており夕方だってのがわかった。
メルナのいる寝室をノックする。
反応が無く2回目のノックをした。
やっぱり反応がない。というか人の気配がない。
慌ててドアノブを回すと鍵はかけられていなく、乱れたベッド、散らばった荷物。口の開いた小瓶などだけが部屋の中に。
メルナ本人は見当たらない。
「メルナ!!」
大慌てで声を出してベッドへと行く。
目視でいないのはわかっているんだけど、薄い毛布をはぎ取るとメルナの下着だけが残されている。
シーツには人型に染みがありまるで溶けたかのよう。
…………溶ける?
「まじで……え? エルフって死ぬと溶けるの? ……いや長寿族か。って乗りツッコミ……」
冷静に。
何かの間違いだ。
まず下着。
もし溶けていたらこれが遺品となる。
これから俺が死ぬまでこれを大事にするよ、なにすぐに追いかけるし。
ってかだ。
俺って死ねるの? ミーティアの話ではメルナの攻撃を受けた俺は人に見せられない感じだったらしいし。
でも、復活した。
魔力の落雷でも復活する俺ってどうすれば……仮に死ななかったとしたらこの下着を毎日拝む事になるのか。『メルナ、今日こそ死ぬからね』って?
まずは俺の呪い? を除去する旅が始まる。
竜の血の効果であれば竜に聞くしかないか、いっその事何でも食べるセリーヌに食べてもらうって、手もあるが意識だけ残ったらどうしよう、それこそ地獄だ。
「よし…………わかりました。俺これを短いかもだけど一生大事にします」
「して溜まるか! へっくち!!」
「メルナ!?」
声のするほうに振り向くとハンカチで鼻をかむメルナが立っていた。
「人の下着を握りしめて何しとるじゃ!」
「生きて……あれ、溶けたんじゃ」
俺はシーツの染みとメルナを交互に見た。
「汗じゃ汗! へっくち。汗をかきすぎての着替えとトイレなのじゃ。ついでに洗濯も頼んできたのじゃへっくち」
「ああ。もったいない」
思わず素で本音が出た。
洗濯ぐらい俺がすれば節約になるだろうしって……あれ、メルナ何か引いてないか。
「あの?」
俺が一歩前にいくとメルナは一歩後ろに引いた。
「もうロウには洗濯は頼まんのじゃ……洗濯の時は健全と思っていたのに残念じゃへっくち」
「ああ! 違う!! 違うって。そりゃ俺だって好きな人の洗濯は興奮しないわけでもないけど、所詮は洗濯ものですって俺が言ってるのはメルナの洗濯ぐらい金を使わなくても俺がしますよって意味です!!」
「で、なんでワラワの下着を握りしめてるんじゃ?」
「…………それはそれこれはこれ、いやマジで心配したんですって溶けたのかと思って……」
俺の手からメルナの下着が奪われると部屋がノックされた。
失礼します。と沢山のメイドが入ってくると寝室の汚れをキレイにしていく。もちろんメルナは俺から奪い取った下着も渡すとメイド集団は部屋から出て行った。
「さて……飯でもへっくち」
「全然治ってませんね」
「治りが遅いだけじゃろへっくち」
──
────
メルナがくしゃみをしすでに5日。
まだ治らない。
治らない事にはイチャイチャも自粛だ。
「さすがにアリシアのいるファーストの町に行きましょうよ」
「いかんと言ってるじゃろ、へっくち」
「語尾が『のじゃ』から『へっくち』になりますよ」
「なってたまるか! へっくち」
メルナが黙ってしまった。
「ほらあ、呪いかもしれないし」
「こんな呪いあってたまるかのじゃ! ……行くならロウ1人でいけなのじゃ。ワラワいかん」
うーん。
「アリシアの事が嫌いとか?」
「んなわけあるかなのじゃ!! ああ、そうじゃ。行くならこの薬と子のマジックボックスを持って行ってくれなのじゃ」
「え。メルナが行かないなら俺もいき──」
「いけ! 師匠命令じゃ」
きったねえ。
普段弟子とか師匠とか俺の事全然気にしてないのに、こういう時だけ命令するし。
「まっロウは別に弟子でもないのじゃ。効かなくてもいいのじゃがな。へっくち……ワラワの要望は伝えたのじゃ。ちと鼻をかむのじゃ」
横を向いてハンカチで鼻をかみだす。
「わかりました。わかりましたよっ! 俺が戻ってくるまで死なないでくださいね」
「どんだけワラワを殺したいんじゃドアホウは!」
昔の呼び方で怒られてしまった。




