第337話 一言多いんじゃ。へっくち
「へっくち…………のじゃ」
何もなくなった家から地下室にある階段を降りているところ可愛らしい声が聞こえた。
先に進んでいた俺が思わず足を止めるとメルナが「早よ進むのじゃ」と言うんだけど。
「メルナ?」
「なんじゃ、へっくち」
「…………」
「…………」
すぐに顔を背けて口元を隠し始めた。
が。
「うええええええ!? メルナも、もしかして風邪っすか!?」
「地下で叫ぶな! 頭に響くのじゃ……へっくち」
俺はすぐにメルナのおでこに手を当てる。
素人感覚でいうと、メルナのおでこはほんのり温かい。
次に目を指でくぱーと広げる。
もちろん俺のじゃなくてメルナのだ。
素人感覚でいうと赤くはないし、銀色の綺麗な瞳が俺を見ている。
じゃぁ。と俺は次に鼻を豚鼻にくいっとした、メルナの鼻のあ────
気づけば地下室に転がっていた。
全身がプスプス焦げており、なぜか着ている物は大丈夫だ。
上り階段を上を見るとメルナが杖を向けていて杖先が光っている。
「ロウ!! 何すんじゃ突然!! なのじゃ」
「いや、本当に風邪がどうなのか素人判断ですけど俺が診察しようと」
カツカツカツカツと階段を音を立てて降りてくると、狭い空間なのに杖を1回転させて俺に突きつける。
「ちっ……胸などならまだしも……いや、鼻の穴などじっくり見ようとなどド変態。で解ったのじゃ」
「素人判断何だから解るわけないじゃないっす」
「このロウ!」
「これでもメルナの事を心配して!」
「へっくち」
メルナが再度可愛らしいくしゃみをする。
「ほらー騒ぐから埃が、俺的にはメルナの鼻の穴を鑑賞でき…………ここはまずい! 転移の門が壊れますって!!」
「ちっ、よく回る口なのじゃ」
「もう一度帝都に戻ってアリシアに見てもらいます?」
「…………大丈夫なのじゃ……へっくち……のじゃ」
全然大丈夫じゃないでしょ。
「風邪は恥ずかしくないですからねー」
「誰も恥ずかしいといってないじゃろ、へっくち」
「はいはい」
師匠を強引引っ張って帝都まで案内してもらう。
数時間前に嗅いだ帝都の匂い。
冒険者ギルド近くにある地下練習場から出てまっすぐに教会に。
なじみのシスターを捕まえて、アリシアを呼んでもらった。
「いませんよ?」
「はい?」
「へっくち」
「アリシア様でしたら故郷にお帰りに、元々帝都での布教は短時間と約束がありましたし」
じゃぁ迎えに行くか。
「ほらなのじゃ」
「あれ。2人とも久しぶりです」
シスターが頭を下げて帰ると、教会なのにクウガが出て来た。
もしかしてまた若いシスターと遊んでいたのか?
「珍しい所で会うな。アリシアはいないぞ」
「知ってますよ。ファーストの街に戻って孤児院を作るとか」
「あー旅の途中で魔物で滅ぼされたもんな。いよいよ復興か」
それゆえにアリシアもクウガもゲーム本編後は街に戻って共同生活EDになるのだ。
「え?」
「ん?」
クウガが何かに驚いているので俺は思わず聞き返すとっメルナに足を踏まれた。
「いっ! メルナ痛い。痛いからね!?」
「は!?」
クウガがさらに驚いた声を出す。
何なんだこいつは。
「まってまってまって!? クロウベルさん! 孤児院の事……いや。いつからメルさんの事をメルナ呼びに!?」
「ああん? お前がメルナの事を名前でよぶんじゃねー……いっ。あのメルナ痛いから。さっきから杖で突いたり足踏んだり」
「ロウよ。お前は黙っておけなのじゃ、へっくち」
「ロウ!?」
なんだが今日のクウガはいつにもまして変人である。
「クロウベルさん!」
クウガは俺の手を引っ張って壁まで押し倒すと、俺の服を両手でつかむ。
メルナの魔法にも耐えれる素材で丈夫なんだけど、気分的にしわしわになるから辞めてね。
「い、痛いって」
「クロウベルさん!! 貴方は貴方って人は!! やったんですか!?」
何を? って聞き返したいけど、こいつが言うヤッタって言うのは生物的繁殖行動の事しかない。
「え。まぁ……成り行きで」
少し離れた場所でメルナのくしゃみが聞こえた。
回数が多くなってきたな。
「貴方だけは! 貴方だけは味方と思っていたのに!!!」
「うお!?」
クウガは俺を壁に突き飛ばして教会から出てった。
「へっくち。男同士の話はおわったのじゃ?」
「え? 意味が分かりませんでしたけど……あれ?」
教会から出て行ったクウガが走って戻ってくる。
思わず剣を抜こうか迷っていると、今度は膝に手を当てて下から俺を見上げてくる。
「どうして帝都の教会に?」
「どうしてってメルナが風邪気味なのでアリシアに見てもらうかなって。いなかったけど」
「そうだったんですか……って事はバレてないか」
「何が?」
後半が小さくつぶやくのでよく聞き取れなかった。
「ばった?」
「な、何でもないです! そ、そうだ。帝都に家買いに来たのかと思って!!」
「家? 別荘じゃなくて?」
「そ、そうです!! 別荘です!! メルさんの家って沢山あるじゃないですか! もうそろそろ新しい家いるのかなって」
「いやそれが、メルナの魔道具のミスで家が吹き飛んでいてさ」
話を聞いていたメルナが俺とクウガの会話に入ってくる。
「ロウよ。ワラワのせいというのじゃが、一応あの回路は誰か開けないと発動しないはずだったんじゃがのう。へっくち」
「っ!? メルさん、風邪何です!?」
「さっきから言ってるよね?」
俺とメルナがくっついたのがショックだったのかクウガの様子がおかしい。
「やだなー改めてですって。アリシアにあったら『僕は丘での約束を忘れない』って言ってもらえません」
「たしか『この世界から不幸な人間を減らす』だっけ?」
「クロウベルさん!? え。アリシアから聞いたんですか!!!」
メルナが俺の足を踏んできた。
ごめんって、ってかごめんなさい。
「聞いてない。あのアリシアが他人の秘密言うわけないだろ」
「いやでもクロウベルさんだけにいう場合も」
「ないないない。多分鉄球が飛んでくる」
「確かに、じゃぁなんで」
そう、その答えがない。
いい感じにクウガが納得しないとだめだろう。
「……ええっと俺が過去の世界にいったのは知ってるよな?」
「噂では僕ためにすみません」
「戻ってくるときに丁度その空間に飛んで、クウガがアリシアに告白してるシーンの木の影に一瞬ワープした」
「え?」
「ほら大きな岩があっただろ? ファーストの街並みが見える所に」
「あった……んですかね」
正直しらん。
「あった! その裏でクウガの告白を聞いていたら現代に戻って来た、悪かったな今まで黙っていて、秘密を見た感じでアリシアにも言ってない」
「……いえ。僕のためにありがとうございます!」
何とか乗り切ったっぽい




