第34話 やっぱ正攻法が一番ですよ、その2
10キロは痩せた。
そう錯覚する程度にはお尻から出した気がする。
俺の回復魔法『癒しの水』は傷を治す系であり下剤などは解毒の魔法じゃないと。
聖属性で『解毒の光』があったはず。
実はヒールよりも覚えるのは大変。とアリシアに聞いた事がある。
よろよろと浜辺を歩くと師匠とフレンダを発見した。
ビーチパラソルで日影を作り椅子に座っては何かを飲んでいる。
「ただいま…………」
「ごくろうじゃったな、他の参加者から話は聞いたのじゃ。今回の事は偶然が起こした事故だった。と、署名すれば金貨5枚を配られるみたいなのじゃ、代わりに署名しておいたのじゃ」
「他の女性達は納得を?」
「するしかあるまい、まぁ金を受け取れるのじゃ早々騒ぐこともあるまいなのじゃ」
師匠から続けて「飲むのじゃ?」と飲み物を渡されたけど黙ってフレンダのほうへスライドさせる。
「確実に飲んだ分が出ます」
「な…………なるほどなのじゃ」
「ご、ごめんなさい。私のせいで」
フレンダが謝る。俺は「そんな事ないよ」と震える手でフレンダの頭を撫でた。
なぜ震えるかって? 力を入れたくないからだ。
「勝負はどうなっているんです?」
「参加者が2人、異例の事態らしくての……1次審査は無し、2次審査でお互いの得意な事で勝負するとの事じゃ今はその準備って所じゃの、ほれ」
師匠は俺にカバンを渡してくる。
中にはお着替えセットが入っており、俺がクロウネルお姉さまから、クロウベルに戻る一式だ。
腹に力をいれないようにカバンをもってトイレに戻る。
再び5キロほど痩せた気分になって師匠の所に戻って来た。
「丁度準備ができたようじゃな」
俺がステージを見ると冒険者ギルドのギルドマスターカイが海パン1枚で高らかに宣言する。
「題22回、スータン水着大会! 今回は特別に男性も参加させ当ててもらう。という趣向も考えた結果突然のトラブルウウウウウ! なんと体調不良が多く大会もあやぶまれたかあああああ! フリク家御令嬢フランシーヌウウウウウ様だあああ」
カイのデカい声が会場に響くと、思ったよりも拍手が帰ってくる。
フランシーヌが堂々な動きでステージ中央に来ると一礼してくるっと回る。
「続いては旅のボーイッシュ美女、ノラお嬢様ああああああ」
ノラも堂々としたもので、くるっと回ると一礼をして戻っていく。
こちらは拍手が少ない。
むむむむむ。
「ノラ! ノラ! ノラ! ノラ! はいはい!!」
俺が掛け声を上げると、ステージの上のカイが俺達に気づく。
「旅の仲間でしょう。応援がすばらしい! さて異例の2人対決、その対決は自らの得意技を披露だああ!」
カイが再び叫ぶと無理やりにでもステージを盛り上げようとする。
そういえば、アリシア達が優勝した……ゲームで優勝した時はアリシアのポロリがあったはず。なんと各キャラに特別CGがあったりしていたなぁ。
「では庶民の皆様。未来の聖女フランシーヌ=フリクの舞をごらんになってくださいな」
フランシーヌが一礼すると、会場の中央でタップを踏む。
いつの間にか弦楽器を持った男数人が会場の側に現れるとそのBGMがだんだんと激しい踊りになっていった。
そのBGMに合せるようにダンスも激しくなっていく、時には開脚し時にはジャンプ。手足をまっすぐに伸ばしキレがいい。
弦楽器が最後にジャン! と閉めるとフランシーヌも会場の中央で一礼した。
「すごい……あれだけ踊れれば別に不正な事しなくても優勝だろう……」
現に会場の周りからは先ほどよりも大きな拍手が聞こえて来たからだ。
ちらっとノラを見ると、ノラの顔が蒼白だ。
そりゃそうだろう、目の前であれだけの踊りを見せられたんだ。
てっきり色物キャラと思ったが、正統に勝負をしかけてきたか。
「師匠、どうします?」
「どうとはなのじゃ?」
「今だったら、この大会をぶち壊せます」
今この段階ならノラに恥をかく事もなく大会をつぶせる。
カイやフランシーヌには悪いが、そもそもフランシーヌが不正をしたんだ。
だからと言ってこっちがやっていいとはならないが俺の恨みもある。
「……駄目! フランシーヌ様もノラさんも頑張ってます」
「フレンダ。あの子が勝つとマリンダのカードが手に入らないけどいいの?」
「そ、それは……はい、マリンダならそれも定め、といいます」
まぁフレンダがそれでいいならいいんだけど。若干であるが俺の腹の虫が収まらない。
ノラがステージの前に出て来た。
その横では鍵のかかった箱が置いてある。
ノラの特技は開錠である。
地味、圧倒的に地味。
「旅のノラじょうの特技は開錠ううううだああああ! ここにあるのは鍵のかかった箱10個! それをドンドン開け切れるのかあああ」
カイの声が響くとノラは自分の顔を叩き、堂々と俺達に礼をする。
口に金属の棒を加えると必死に開錠を試みた。
周りからは失笑まであるというのにノラの顔は真面目だ。
「見事ノラ嬢! 箱を10個あけきったあああああああ!!」
まばらな拍手に俺は立ち上がる。
「ブラボー! ノラよくやった!」
俺は立ち上がり大きな拍手をすると、その拍手が周りに伝染していく。
ノラは照れながらお辞儀をして後ろに引きさがっていく。
まぁ結果は案の定フランシーヌが優勝した。
投票数100に対してフランシーヌが63。ノラが37と言う数字だ。
いくら踊りが凄くても、やっぱり嫌がらせは駄目だね。
商品贈呈式でフランシーヌは『マリンダのカード』を希望した。
箱に入ったカードはマリンダの手に。
最後にカイが今回の大会終了宣言して終わった。
「終わってしまった……」
「すまぬのじゃフレンダ」
「いいんです、こうしてマリンダを知る人が助けてくれたのですから」
少女なのにちょっと大人びた感じがして見とれてしまう。
会場の裏口からノラが少し不機嫌な顔で戻って来た、きっと悔しいのだろう。
「ノラ、惜しかったな、氷入りの冷たい飲みもの頼んでおいた」
「惜しかった。じゃないよクロー兄さん。ボク恥ずかしかったんだからね。あんな大声で……」
「そう怒るなノラよ。ドアホウはノラを応援したのじゃ」
「そうですけど、フレンダごめんね」
ノラも謝るとフレンダは首を振る。
「オッホッホッホッホッホみじめな者ですわね、優勝出来ないと言う人達は」
「その声は! でたな珍獣フランシーヌ!」
「…………人を魔物みたいに言わないでくださいまし、本来であればお父様に言って首を落としますわよ。しかしあなた達みたいなのがフレンダと知り合いなどどは……フレンダ、人付き合いは選んだ方がいいと思いますわよ、例えばこのわたくしのようにエレガンドな人物など」
フランシーヌは文句を言うとフレンダの横に来た。
「さてせっかくの景品ですけど間違って選んでしまいましたわ。わたくしカードには興味ありませんの。フレンダに差し上げますわ」
「え?」
「お?」
フランシーヌは『マリンダのカード』をフレンダに手渡した。
「も、貰えないです」
「…………いいから、貰いなさい! マリンダ様が亡くなって元気が無さ過ぎますわよ、前みたいに一緒にあ、遊ばせてあげますわ」
あー……これって。
ツンデレって奴だ。
もしかして、フランシーヌが今回卑怯な手を使ってまで絶対に勝ちたかったってのはこれのためかもしれない。
締め切りが早かったのもフランシーヌの手によってだろう。
「フレンダ、貰ってやるのじゃ」
「で、でも……ありがとうフランシーヌ様」
「レ、礼には及びませんわ。前見たいにフランって呼んでくださいませ」
フレンダが少し泣きながらカードを貰うと大事そうに胸に抱きかかえてる。
「それはそうと、フランシーヌさんだっけ優勝おめでとう」
「あら、以前あった時よりも体調が悪そうですわね、庶民は庶民らしく――」
お前のせいだ! とは言えない。
ここで俺がさっき女装してた女だってバレると余計に騒ぎそうだから。
「まぁまぁその庶民から一杯おごらせてほしい。なんせ未来の聖女、いや水着オブクイーンとなったフランシーヌさんに一杯、一口だけでも飲んでもらった。と言えば、未来永劫自慢できる。だってあのフランシーヌ様だよ。庶民の事を気にかける聖母みたいな、見たいと言ったら失礼だ。聖母フランシーヌ! ささ」
俺は氷の入った飲み物を手渡す。
本当はノラのために頼んだ奴であるけど、今から頼みなおすのは時間がない。
「ま、まぁ庶民もやっとわたくしの魅力に。特別ですわよ、本来は庶民と同じ物をなんてお父様が怒りますわ」
フランシーヌは飲み物を飲むと、美味しかったのだろう一気に飲み干した。
「案外美味しいのですわね。庶民しては気に入りましたわ」
「飲んだな……」
「ええ? 飲みましたわよ」
フランシーヌが不思議そうな顔をして突然にお腹を押さえた。
ぎゅるぎゅると音が聞こえてくる。
「クロー兄さん!? まさか!?」
「ほうやるのじゃ」
「フランシー……フラン!?」
フランシーヌはしゃがみ俺をにらむ。
「な、なんで……お腹が……まさか毒……わたくし死ぬんですの……」
「死にはしない。まだわからないかな、あの時は俺の腹を良くもさすって……本当に危なかった」
俺はノラが最初に飲む予定だった超強力下剤入りのビンを見せつけた。
当然中身は空だ。
「なっ!」
最初に入っていた中身はテーブルの下で捨てて下剤入り瓶の中身を入れて混ぜた。
「どうしてそれを、すべて回収したはず……いえ1本足りませんでしたわね。あっ女装してたんですの……へ、変態、犯罪……」
「フランシーヌ、ぜひ庶民の俺に優勝の秘訣を教えて欲しい」
「ひっ!?」
俺はフランシーヌの腕を掴んで逃がさないようにする。
「ドアホウ、本当に顔が怖いのじゃ」
「離して、はなしなっ……あっ駄目ですわ……」
俺は精いっぱいフランシーヌを引き留めその復讐を堪能した。




