第335話 暴れたりないオロチの復讐
「うわぁ……」
思わず空を見るとそんな感想しか出てこない。
城よりでかい大蛇。と聞いて『大げさ』だろって思っていたらちゃんとそこそこにでかい。
高さはビル5階分ぐらい。
太さは牛を丸のみできるぐらいに横幅も大きい。
「ミーティアちゃん、あれほど大きいの戦えないよ?」
「この五右衛門、腰の痛みさえなければ……」
だろうな、あれほど大きければ遠隔攻撃のほうがう有効だろう。
ミーティアもこの爺さんも近距離タイプ。
「ああ。やっと卵からかえったのに……ひっく。惜しく食べようと」
隣に居る酒臭い近藤が悲しそうに言うけど、何も悲しくないから。
「え。ペット食うの?」
「珍味だよ? 精もつく」
「ロウ。そんな事よりも逃げるのじゃ」
メルナが意外な言葉を言うので立ち止る。
「え。倒さないです?」
「この国にも優秀な人間はおるじゃろ。見てみぃ火の鳥が飛んでいるのじゃ」
言われるように見ると大蛇の周りに亀や弱そうな竜に白虎。と言う事は飛んでいるのは朱雀が応戦してるのが見えた。
その後に大蛇の全身に吹雪が舞うと動きが弱くなった。
「あっユキか?」
「じゃろうな」
なるほど、俺達の出番はない。
俺達の前に走ってくる集団がいる、先頭は沖田でその後ろに何十人にも同じ羽織を着ては突進してくる。
女性ばっかりで、俺が首を縦に振っていたらこの子たちと毎晩ベッドインしていたのかと思うとちょっとだけ照れくさい。
…………口に出して言うと変態っぽいので出さないけどさ。
近藤の前で止まると片膝をついて沖田だけが顔を上げた。
「総隊長!! こんな所に! 神選組沖田以下隊士58名いつでも」
「おや。早かったねぇ……じゃぁ倒しにいこっか」
「は!」
沖田が頷くと他の隊士も顔つきが変わる。
「残念じゃったな近藤とやら。ほれロウよ、大蛇の首が落とされたのじゃ」
メルナが言うとちょど大蛇の首が落とされた所だ。
「神選組の出番無かったな」
「そう思うかい。見てみなよ」
遠くから勝どきが上がるも悲鳴に代わる。
頭の斬れた胴体から今度は二つの頭がにょきにょき生えて来た。
しかも斬り落とされた頭のほうからも短い尻尾が生え動き出す。
「草薙の刀は持ち主の再生能力があってねぇ……いやぁもしかしたら、再生するじゃないかなって思っていたけど困った困った」
「おま、なんでそんなのを」
「斬った先から再生すれば何度でも食べれるじゃないか、身なんてウナギみたいに美味しいと思うのさ」
なんて迷惑な。
「ペットというよりも家畜だな」
「クロウ。君だって毎日卵が食べれると分かれば大事に育てるだろ?」
俺がメルナを見ると思いっきり不機嫌な顔だ。
そんな顔はしなくていいんじゃないの? と言いたい。
「ちっ……ロウがいるといつもこれじゃ。ワラワは静かに暮らしたくてだから行先も教えずに帰りを遅くしたのじゃ」
なるほど、不機嫌なのは面倒な事が起こって手を貸すのがだるいなぁって事か。
でもさ。
そういうのなら、俺も一言いいたい。
「はぁ!? メルナ、そんな事をいうならメルナが問題起こすから俺が来たんですけど!?」
「なんじゃと!?」
「帰ってこないから迎えに来たって言うのに」
「どうせワラワが帰っても帝国じゃ武術大会じゃろ? 結果が見えてる大会なんぞ見ても面白くないのじゃ! そもそもじゃ迎えに来いって手紙に書いておったのじゃ? ワラワはクウガを呼んじゃのじゃが?」
それはそう。
俺が勝手に来ただけ。
「で、でも俺が来なくても結局は同じでしょ? メルナも何も出来ないし例えクウガ来ても何も出来ない。ってか面倒な事がいやだったら家に帰っても良かったんじゃ」
「魔力が切れていたは本当じゃ! 転移の門も使えないしの……それよりもじゃ。ロウよ、それはここまでロウに付き合ったワラワに言う事なのじゃ?」
「メルナは怒りますけど、優しいからって付き合いすぎなんですよ」
怒っていたメルナの顔が戸惑いに代わって無言になった。
「ほう。さすがは英雄メルギナス様。この近藤大いに感動する。この場にいるのは優しさからであったか」
「メルさん面倒見いいもんね」
「芽瑠殿はその昔に会った事を覚えて今回もムラマサ様のために……針治療や飲み薬、ムラマサ様の足の治療まで」
近藤、ミーティア、五右衛門の爺さんなどメルナの事を『優しい』など褒めるとメルナの顔が赤くなる。
「ぐ、偶然じゃ!」
「いやメルナ、顔が赤いですけど」
「総隊長様。あの時間がたつと町が無くなるんですけど」
沖田が近藤に言うと一大事なのを思い出す。
あちこちの長屋から火が噴き出たり、半鐘の鐘が鳴っていたりと大惨事だ。
「あえて師匠呼びしますけど、何か道具とか無いんです? メルナモンーオロチを倒す道具を出してよー」
「…………ふう……最近やっと魔力が回復してきたのじゃがな」
メルナはいつもの杖を取り取り出した。
「焼くのじゃ」
「なるほど、了解」
俺もアンジュの剣を取り出すと、話を聞いていた近藤が俺を「まった」と呼び止めた。
「何? 近藤さん」
「作戦も何も焼くってどうするんだい?」
「え。だからメルナが今説明したけど……?」
「何もされてない」
「あれ?」
メルナのほうへ振り向くとメルナはすでに長屋の屋根に上がり見下ろしのいい所へと移動している。
「いやだから、メルナがあの杖で高出力の魔法を放つから、それまでに周りの妖怪や人間を排除して俺に足止めしろって。足止めしたら一気に魔法を打つからそれで死ななかったら後は知らんのじゃって」
「君達凄いね」
「普通だけど……」
近藤がいつの間にか一升瓶を持っていて一気にラッパ飲みした。
「ふう。では神選組のやる事は一つ。大妖怪オロチと戦っている者を避難。戦力にならないものは民の誘導を!! われら神選組これより死地に入る!!」
気合の入った演説だ。
神選組と一緒にオロチまで走る、途中で大きな亀などを踏み距離を縮める。
すでにオロチは3体に増えていてそれぞれに妖怪と人間、侍や忍者などが戦っている。
「ユキ!!」
俺は子供ユキへと叫ぶ。
「人間っさ! 逃げるべさ。妖力が足りなく妖怪部隊はじり貧だっべ」
ああ、だから小さいのか。
マジックボックスから換金用の魔石を何個か投げつける。
「痛いべさ!! 何するんだべ! この人間!!」
「馬鹿受け取れ! 魔石。妖怪ならその魔力使えない?」
「ませき……? 妖石だっべさ! どうしたっぺこんな珍しい物を」
「異国産」
俺はユキの体を持ち上げ肩車をすると、ユキがいた場所に小さい蛇が槍のように降ってくる。
「助かったべさ」
「それよりも短期決戦。この周りどれぐらい凍らせれる? あの城を凍らせたぐらいは余裕か?」
「この妖石を使えば……」
頭が重くなり思わずしゃがむと大人ユキが肩車から降りる。
「あの倍はいけっべさ。でも前回と違って寒さに強くなってるべさ……他の妖怪と力を合わせても一時停止ぐらいだっべ」
「それで十分、四方に柱を立て閉じ込める。そうしたら動きを止めてくれ。魔石をもう少し渡しておく全部使って良いから」
「わかったべさ」
ユキに別れを告げて再び走る。
俺を貫くように蛇の槍が降って来た、水盾を発動させ斜めにはじく。俺は大丈夫だったけど同じく走っていた神選組の隊士がその攻撃を受けると受けた部分が石になっていく。
メドゥーサの力もあるのかこいつ。
俺の横に沖田が並んできた。
「楽しい! スタン君これが戦いなんだね!!」
「油断してると…………足元救われるぞ」
俺と沖田が走るのを辞めて一緒に止まると地面から大蛇の頭が出て通る予定の場所を食っては尻尾で建物を薙ぎ払う。
飛んでくる瓦礫を沖田は三段突きで弾き飛ばし、俺は沖田の背中に隠れる。
「スタン君……かっこ悪いな」
「別につけたくないし、それよりも陰陽師の連中とは?」
「任せてくれた前、総隊長の命令で朱雀と青龍には話して来た。残りは総隊長が話を付けてくれるだろう」
問題は時間稼ぎだ。
作戦としては陰陽師が結界を張り、ユキ達妖怪がそれを強化する。
で、最後に師匠が北の大地の天候さえ変える大魔法だ。
それを開始する合図やオロチの動きを止めるきっかけか欲しい。
爆音が鳴った。
一瞬メルナの魔法が鳴ったかと思うと城からだ。
城のほうを見ると屋根の上にメルナが立っていて、その下の天守閣には小さい子供。
その子供の横には貧相な大砲が10個ほど並んでいた。
さすがメルナだ。
城からの攻撃がイラついたのだろう、大蛇の数匹は城へと向かう。
神選組や妖怪がそれを押しとどめると笛が鳴る。
笛は1個ではなく神選組隊士それぞれ全員が鳴らし始めた。誰がどう見ても何かの合図。
俺のすぐ近くで大きな亀。
玄武が出るとすっぽんのような頭を上げ対角に朱雀が見える。
その瞬間。周りの空気が氷、目の前まで迫っていた大蛇が真っ白になる。
よし!
俺は城を見上げると、小さく見える師匠が頭を抱えているのが見えた。なんで? 杖が無いとか? 光に照らされた師匠の手には杖がちゃんとある。じゃぁなんで……あっ。
「………………ああああ!!!! 俺が結界の中じゃん!!」
思わず叫ぶと玄武を出した陰陽師の男が結界の外から悲しそうな顔で見ている。
「先ほどから早く出ろ。と叫び……すまぬ今結界を解くわけには……」
「知ってるよ……」
俺が諦めた声を出すと世界は光に包まれた。




