第331話 口の上手いペテン師
俺とメルナ。そして遠征から帰って来たミーティアと一緒に朝食を取る。
ミーティアは昨夜遅く帰って来たのでまだふらふらとした足取りで座布団の上に座った。
「変態ちゃんおはお」
眠そうだな。と思っていると大きな欠伸だ。
年頃の娘がはしたない……ってか思考がおっさん寄りになるので黙る。
「何?」
「いや、あんまり大きな欠伸でたん壺かと」
「ふにゃ? ………………!? き、きったな! 変態ちゃん冗談でもそんな事言わないほうがいいよ!? それってあれだよね。ミーティアちゃんのお口にペっ! って出すって事でしょ? メルさん戻って来た、メルさん聞いて聞いて!! 変態ちゃんが!!」
「馬鹿! これでもミーティアのために表現を易しくだな!」
「はぁ!? これ以上過激なのあるの!? 犬のうんちでも入れる気?」
その手もあるか。
最初に言おうとしたのは『そんな大きな口を開けているとボロンと入れられるぞ』と言うやつだったけど。さすがに我慢して『タン壺』に変えてあげたのに。
「ミーティアよ。ロウは元々ド変態じゃ」
「……確かに?」
「いや、納得しないで。ちょっと好奇心が多い青年だよ」
3人の前に膳を並べ朝食となる。
ヒノクニらしく朝は米とみそ汁、焼き魚、豆腐といった重くないメニュー。
離れにいるムラマサ達も同じ食事だろう。
俺と師匠はハシで食べてミーティアはスプーンで食べる。
余計食べにくそうなんだけど、ハシって難しいから仕方がない。
「スタン君。遊びましょうー!」
俺が飯を一口食べた所で女性の声が聞こえて来た。
気にせず二口目を口に入れて豆腐もハシでつまむ。
「変態ちゃん呼んでるよ?」
ミーティアが余計な事を言う。
聞こえてなければ返事する必要はないのに。
「え? 空耳じゃない?」
すっとぼけ作戦だ。
「スタン君ー総隊長命令で来たんだけどーその、遊びましょう」
2回目だ。
俺は聞こえないふりをして飯を続ける。
「うわ」
ミーティアが何か言ってるがメルナも何も言ってこないし大丈夫だろ。
ちらっと見ると、メルナも無視してみそ汁を飲んでいる所だ。
どこかの1番隊隊長の声が大きくなると、突然に叫び声に切り替わった。
「な! 大妖怪ユキオンナ!! なぜこんな場所に」
「わっちは美味しい朝食の礼をだべ……あんた何してるんべさ。もしかして、わっちからムラマサを連れ戻しに来たんだっべ? させないっべさ!! 人間さ! 敵っさ敵。わっちがここで食い止めるべさ」
「人に害をなすとは。この神選組の沖田が斬る!!」
まず。俺達が食事をしている場所の襖がふっとんだ。
次に部屋全体が凍り付くと、無数の氷の矢が飛んでくる。
俺のおかずや茶わんに刺さると、あんなに温かいみそ汁が冷水になる。
次に吹っ飛んできたユキが壁にぶち当たると天井の一部が降って来てミーティアの膳をひっくり返す。
追撃して入って来た沖田が三段突きを、メルナの後ろに隠れていいたユキに放つと、メルナが持っていた茶碗が3つに砕けた。
メルナが静かに呼吸をしたのがわかった。
あっやばい。
俺はミーティアの背中を押し倒し畳に押し付ける。次の瞬間部屋全体が真っ白になり、数秒遅れて轟音が響いた。
音と光が去った後、嘘のように静かになる。
周りを見渡すと吹っ飛んだ襖や畳、壁には2つの物体。
一応加減はしたんだろう、沖田もユキも意識はありそうだ。
「……ドアロウ!」
「いや。ドアホウとロウが混ざってます!! せめてどちらかで」
「もうどっちでもいいのじゃ……」
メルナがそう言うけど、よくはない。
数年かけてやっと名前呼びになったのにこれでは前のようにモブ扱いになる。
「メルナ! 名前は大事!! ね!」
「むぅ……ロウよ。ミーティアとユキ。あとはあの小僧を連れて飯を食いなおしてくるのじゃ。まぐわってもなんでもいいからはよ解決するのじゃ」
「ふええええ!? ミーティアちゃん初耳事件!? え!! メルさんどうしたの!?」
メルナは倒れているユキをミーティアに引っ張って来い。と命令し部屋から出て行った。
残ったのは壊れた屋敷と天井を見ては動かない沖田翔子だけ。
「おーい。死んでる? いや、死んでてくれ」
「…………私は生きてる?」
「いや、死んでる」
沖田が急に体をばねのようにして起き上がった。
「生きてるじゃないか! 何だ今のは……ああ、総隊長が言っていた英雄メルギナスとはあの女性だったのか……てっきり」
「てっきり?」
「もっと老けてるものかと」
「それ、本人に聞こえたら今の100倍は飛んでくるぞ」
「だって魔女だよ!? 魔女といえばお婆さんじゃないか」
わからんでもない。
よく昔話で何百年も生きてるといえば山姥とかになるけど、名の通り婆さんだ。
「で、壊れた部分は職人を手配するとして。何しに来たんだ」
「何って、総隊長命令通り遊びに」
「……子作りだろ?」
「そ、それはその…………」
沖田が急にしおらしくなる。
「ってか嫌なんだろ?」
「もちろん! この体!! 隊長以外に触られるなど触った男のイチモツを斬り落としたいぐらいに嫌だ!」
イチモツとか言うなよ。
ツッコミはしない。
「俺も別に抱きたくないしな」
「総隊長命令だぞ! 私を抱くんだ!!」
「嫌なんでしょ?」
「もちろん! スタン君の子を産んだら私は死ぬつもりだ!」
重いよ!?
やだよ、そんなの。
「安心してくれた前。スタン君と私の子は神選組が大事に育てる。君は何人も隊士とまぐわってくれれば」
男にとってなんて都合のいい女性達でしょう。
1人1晩と考えて3ヶ月はやり放題である。
でも別にしたくはない。
「ってかメルナと相談したんだけど、要は有名になればいいんだろ?」
「さぁ総隊長のお考えは私のような者には」
「馬鹿だなぁ」
「総隊長の事を馬鹿にするとは! いくらスタン君が友達でも許さない」
まてまてまて。
いつから俺と沖田翔子と友達になったんだ!?
後、俺の知ってる友達の定義は殺気は飛ばさない。
「近藤さんは、試練を与えてるんだよ」
「試練?」
「当たり前だろ、自分の部下で愛する沖田が他の男と子作りするって変だと思わないか?」
「愛する!?」
よし、この調子でいけば何とかなりそう。
「ああそうだ。総隊長なるもの隊士。特に隊長である沖田なんて一番すきなんじゃない?」
あれ。俺が習った歴史で言うと近藤の一番知らん来出来るのは土方と習ったんだけど、そういえば見てないな。
「私が!?」
「そうそう。これは沖田を信頼した問題だよ。俺と子作りするなんて普通に考えてないだろ? だからこそ、神選組を有名にするための問題」
「そ、そうだよね。私が見ず知らずの男と子を作るだなんて」
まぁ先日あった近藤の眼は思いっきり本気だったけどな。
「と、言う事でまずは職人にこの家を直してもらうつもりだから家を出て考えよう」




