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負け悪役貴族に転生した俺は推しキャラである師匠を攻略したい  作者: えん@雑記


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第329話 近藤さん

「なるほど、ここでも手掛かりはなし。ああ、そうだね。じゃぁウナギの上を1つとお茶をくれたまえ」



 4件目の店で聞き込みが終わり、沖田はうな重の上と茶を頼む。



「うな重なんて高いだろ? 俺は外で待ってるからゆっくり食ってくれ」

「待ちたまえ! 食べるのはスタン君だよ?」

「…………いや、さっきから奢ってくれるのは嬉しいけどさ。蕎麦、うどん、てんぷら、うな重はさすがの俺も」

「安心したまえ、私ももうお腹いっぱいだ」



 え、じゃあ頼むなよ。



「しかしだ! このヒノ城の城下町を守る神選組としては捜査に協力してくれたお礼はしたい。で、スタン君食べた前、君は男の子なんだろ?」



 いくら神選組だからって俺よりも年下の女の子に男の子なんだろ。と呼ばれるとは、ちょっと苦笑する。



「何か文句がありそうだね」

「隊士何人いるかわからないけどお土産じゃだめなのか?」

「それはだめだ! 私ばかり美味しいものを食べてると思われてみろ、お金を出したのは誰だ。と揉める」



 力いっぱい力説した沖田がひょこっとすわると俺と沖田のテーブルにうな重が出て来た。それも2つ。



「すまない。1個しか頼んでないはずなのだが?」



 うな重を持って来たおばちゃんは良い笑顔で受け答えする。



「街の治安を守っているんだろ? 1個はサービスさ。それに育ち下がり動けば腹もへるさぁ食べて頂戴」



 この世で一番恐ろしいのは無自覚の善だ。

 ふと思うと沖田は笑顔で礼を言う。



「これも英雄メルギナスを見つける試練……いただきます」



 そういうとうな重の箱をもつと箸で口の中にかき込んでいった。

 俺のほうはゆっくりと食べる。


 うまい。


 いくら腹がいっぱいとはいえ、美味いのだ。


 そもそもうな重には関東風と関西風があるらしいが、俺は関東育ちなので濃い味付けが丁度いい。

 何度も炭火で焼いた上にタレが塗られて……こんなの俺が日本にいた記憶の中で食べた事が無い。


 食べた事があると言えばスーパーのパックぐらいだ。

 いくら腹がいっぱいとはいえだ。

 気づけば全部食べ終わっていた。


 腹いっぱいになりウナギやを後にすると、すぐに沖田がしゃがみ込む。



「どうした?」

「…………さすがは男の子だな。あれだけの量を食べて吐きそうだ」

「もったいない」

「わかっている! 精魂込めて作ってくれたご飯だ。私は絶対に吐かない」



 何とか立ち上がる沖田はよろよろと歩きだす。

 うわぁ、イタズラしたい。


 ちょっとその腹の部分を押してみたい。

 どうなるかな。

 やっぱブチ切れるかな?



「どうしたスタン君」

「いや、何でもない……で次はどこ」

「この近くにある次の店となると……すっぽん屋」



 思わず黙る。



「スタン君の言いたい事もわかる。でもこの辺は食事通りなのだ!」

「俺も通ってるから知ってるけどさ……もう注文しないほうがよくない?」

「スタン君の言いたい事もわかる。だが! 神選組の沖田! として聞き込みに来てるんだ。最初の店で頼んだのに他の店で頼まない。というのは不平がでるだろ?」



 出ないでしょ。

 言いたい事もわかるけど、沖田がやろうとしてるのは全部の店で食べ歩きと一緒なんだけど。


 TVロケでさえ商店街はいったら3件ぐらいで終わるよ!?



「さぁ次の店だ! 店主よこの店で一番小さいすっぽんを頼む」

「いや。目的!」

「は!? 違った……この辺で英雄メルギナスを見なかったか? 青い髪で長身の女性。瞳も青いと聞く。異国人でありながら妖術まで使え陰陽師よりもすごいと噂されているんだ。いや最近この辺に引っ越して来た人物でもいい」



 すっぽん屋のおやじは、沖田の横にいる俺を見て来た。

 うん、そうだよね。

 これまでの店で全部沖田じゃなくて俺を見てくるもんね。


 仕方がなく腕でバツ印を作る。



「…………いやぁ最近暑くて物忘れがひどくてな、いるかもしれないが正直覚えてない」

「そうなのか……では親父さん。小さいすっぽん鍋を頼む。せめてもの調査のお礼だ」

「馬鹿言っちゃいけねえ。俺っちの店には小さいすっぽんなんて一匹もいねええ」




 だろうな。

 飲食店で小さいのをくれっていうのは中々に失礼だ。



「っすまない!」

「ってかだ。神選組の隊長が何か聞きながらお礼に食べてるって回って来てるっちゃ回って来てる。多分この先の店も《《だれも覚えてねえ》》と思うぜ」




 さすがすっぽん屋話が分かる。

 『知らない』とは言ってないのだ。『覚えてない』なんて便利な言葉なんだ。


 もっとも沖田が頭が良ければその意味も気づく。

 裏を返せば『喋りたくても喋れない理由がある』と言う事に。



「それでも私は聞き込みを続けよう。英雄でもお腹は減るだろ? 本人じゃなくても小間使いがご飯を買いに来ると思うんだ」



 すっぽん屋の親父は無言で俺を見る。

 その小間使いは俺だからな。



「仕方がねえ、鍋は作る。適当に座ってろ」

「かたじけない」

「こっちのセリフだ」



 スッポン屋の親父が奥に消えると、沖田は椅子に座りお腹をさする。



「生まれそうか?」

「殺されたいのか?」

「全然」



 突然の殺気を知らないふりして受け流す。



「神選組である以上、私は女をとうに捨ててる。私の剣はすべて隊長のために」



 隊長のためって言う時点で全然捨ててないけどな。

 隊長っても多分近藤とか言うんだろ。


 小一時間かけて鍋を食べ終えた俺と沖田は店を後にする。

 隣の店はコロッケ屋だ。

 腹もちが良すぎて困る。



「コロッケ屋の女将よ。神選組の沖田と申す、この──」

「聞いてるよ。残念ながら客が多いから覚えてないさ。コロッケ一つ1文さ」



 俺と沖田にコロッケを渡して沖田は二文払った。

 俺でもギリギリなのに沖田はもう顔面蒼白。

 小さいコロッケを食べ終えてから何も喋らなくなった。


 小さい声で沖田に話す。



「吐いたら?」

「馬鹿言うな! 神選組の沖田が食べ物を吐いたらどうなると思う、その店は取り潰しの可能性すらある」



 日本で言う警察が食事して吐くみたいもんか。



「次の店は──」



 沖田がそういった瞬間、スローモーションで倒れた。

 あんみつ屋の若い女性が駆け寄ってくると沖田の顔をまじまじと見て小さく笑う。



「神選組の沖田って言えば頑固で有名だからね、お兄さん悪いけど沖田さんに免じて屯所とんしょまで連れってくれない?」

「なんで俺が」

「それ聞く? たぶんこの食べ物通りの誰に聞いても同じ答え言うと思うけど。貴方よね? 最近引っ越して来た異国美人さんと一緒に暮らしてる人って」

「馬鹿! 聞こえたらまずいだろ!!」



 気絶しても吐かない沖田はまだ意識が無い。

 よかった聞いてないみたいだ。



「セーフ。わかったよ……屋敷のほうに適当に晩飯を」

「うちあんみつ屋なんだけど? まってね地図渡すから」



 あんみつ屋でも何か食べるものはるだろ。って事でお金を渡して沖田を背負う。


 でもこれいいの?


 背負ってから思う。


 侍ってプライド高くて有名なんだけど、しかもこの子女の子よね。

 足をがばーって広げて背負っていいのか? 

 戸板みたいのに乗せて引っ張ったほうがいいのか、いやそれもだめか。


 俺が屯所に向けて歩くと屯所の前で1人の女性が座っていた。

 神選組の着物を着ているが上半身が半裸に近い恰好でサラシを巻いている。

 髪は日本人……じゃない、ヒノ人らしく黒髪。

 長さ小さく結べるほど。

 身長は高くも低くもない。


 特徴的なのは……酒臭い。

 結構離れているのに俺のほうまで酒の匂いがする。



 その女性は将棋盤を見ていて俺のほうには顔を見せない。



「あんたの所の隊士連れて来たけど」

「…………」

「おーい。聞いてる?」

「ふむ。異国の男よ、この盤面を見てどう思う?」



 将棋盤の上には玉がありそれを守るように駒が並んでいる。

 その玉から離れるように桂馬と言う駒が置かれていた。



「どうって…………将棋は詳しくないんだ。特に詰将棋は……もしかしてあんたが近藤さん?」



 俺が訪ねると升と呼ばれる木の器を差し出して来た。

 酒がどんどん注がれていく。


 そして俺じゃなくてサラシを巻いた女が目の前で飲み干していく。



「あんたが飲むんかい!」

「いやだって、君が下戸だったらもったいないだろ。ねぇクロウベル・スタン君」



 やっぱりが。

 俺は罠にはまって連れてこられたって所だろう。


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