第324話 軽い冗談ですって
俺と師匠が城に戻ってくると城の半分以上が凍っている。
どうみても妖怪、ユキオンナの仕業です本当にありがとうございました。
裏口につくと「長旅ご苦労様です」と、武士の1人が俺達にお茶を入れてきた。これってもしかして、甘い顔で誘い込んで俺達を殺すつもりじゃ?
「師匠先にどうぞ」
「…………お主、ワラワに毒見させようとしてるのじゃ?」
「そんな事はないですよ。俺も師匠も普通の毒は効かないんですよね」
問題は普通じゃない場合だ。
「お主先に飲め」
「いや、ここは年配の師匠から。俺に何があったら師匠を介護出来ないでしょ!?」
「お主! そこはせめてレディーファーストじゃろ!!」
「2人ともイチャイチャしないでいいから早く飲んで地下に行こうよ!!」
怒る声が聞こえたので声のほうに向くと、ミーティアが仁王立ちで縁側に立っている。
「あ、ただいま」
「おかえり! じゃないよ!! ミーティアちゃんずっと待っていたんだから!!」
「何十年も?」
「4日だけど大変だったんだよ。ユキちゃんは城凍らすし」
「元将軍とユキは?」
ミーティアは首を振った。
エリクサーが切れて容態の悪くなったムラマサをユキが凍らした。との事。そのまま城を半分凍らせたのが1日前らしい。
俺と師匠が余計な事をしたばっかりに。
薬を作り終えた師匠と俺は一泊して風呂入って飯食って来た。
緊張感無いかもしれないが、結構ふらふらだったからね……。
「急いで来たんだけど……ねぇ師匠」
「そうじゃな」
「じゃっ薬は」
師匠はミーティアに小瓶を見せると直ぐにしまい込む。
「落としたら大変なので、こ奴にも触らせてないのじゃ」
「変態ちゃん信用ないもんね」
「俺はそんなフラグ無いから。じゃ急ぎましょう」
地下牢に小走りに行くと、あれだけ俺達を殺そうとしてきた侍たちが手のひらを返して来た理由がわかった。
何人もの侍や忍者が氷漬けになっている。
その中に人斬り五右衛門の姿も見えた。
勇敢にも刀を抜いて向かって来る敵を抑えようとしてる所を凍らされていた。
「ってか寒いです」
「凍ってるからなのじゃ」
んな事わかってる。
俺が欲しいのは師匠が『これでも使え』と何かいいアイテムを出してくれるのを期待してるのだ。
「師匠寒いです」
「…………お主ワラワをメイドか何かと勘違いしてるのじゃ? 男なら我慢せいなのじゃ」
「うい」
仕方がないので師匠の背中から胸にかけて手を突っ込んだ。
「あたた……ういいい!? かかかかっかぶっべ! ごっば!!」
全身が吹っ飛び中を突き破る。
地下牢に向かって走っていたはずなのに太陽が見えたかと思うと視界がぐるぐる回って最終的には青い空が見えた。
体中の骨が逝った。
死にそうなぐらいの痛みを我慢してぼーっと待つ。
やっと体が動けるぐらいに再生すると顔を上げた。
人1人が通れるぐらいの穴が城壁に開いていて俺はそこから出たらしい。
「あんなにキレなくても……ねぇ」
誰に言うでもなく独りことをいうと、凍っていた城の氷がパリンパリン音を立てて割れ始める。
「ああ。薬間に合ったのか」
人影が近づいて来たので顔をあげるとミーティアだ。
「ミーティアちゃんドン引き。ねぇ生きてる? うわ、本当に生きてる……」
「師匠は?」
「ユキちゃんとムサムネっちに薬飲ませてる所、ミーティアちゃんは変態ちゃんの様子を見てこいなのじゃ。って頼まれたのじゃのじゃ!」
「ああ、そう」
「…………可愛い女の子が心配してるのにそっけな」
可愛い?
ほう、どこにそんな女の子がいるんだ。
「いないね」
ミーティアは俺の足を軽く蹴ってくる。
「いっ! まだ治ってないから!?」
「知ってるよ」
「余計に悪い。俺は良いから師匠の所戻って護衛して。あれでも相当魔力使ってるはずだし」
「うわぁ……」
ミーティアが俺の顔を見て奇声を上げた。
いや、驚いた声だ。
「何?」
「ううん。メルさんと同じ事言うんだって思って」
「師匠が?」
「うん」
「なんだ可愛い所あるじゃん」
「ねーねーねーねーねー」
ミーティアが俺の顔の横に座りだす。
いや。座らないで師匠の所いって?
「何? ってか俺の話聞いてた?」
「聞いてたよ? でもメルさんは変態ちゃんが治るまで戻ってこなくていいって言うし」
はいはい。
俺の事を待ってるんですね。
じゃぁ、無理をしてでも起き上がる。
「癒しの水」
「おぉ自己回復だ」
「おおもう何も、知ってるでしょ」
「ミーティアちゃん思うんだけど、いい加減メルさんの事名前で呼んだら?」
俺は膝から崩れ落ちる。
一番気にしてる事を言われた。
一番何も考えてないような奴から言われた。
「よよよよ、よぶし」
「メルさんもメルさんなんだよねぇ、変態ちゃんの事を名前で呼ばないし。変態ちゃんってミーティアちゃんやアリ姉ちゃんの事は名前で呼ぶのに変だよ」
「師匠が俺の事をどう呼ぶかは別に俺は気にしてない」
俺は気にしてないけど……向こうの師匠Bにも言われたんだよなぁ。名前で呼べ見たいな事。
「そうなの? でもメルさんも女の子だよ? 恋人なら名前で呼んだほうがいいよ絶対に」
ミーティアが何故かガッツポーズをして力説している。
穴の開いた城壁から師匠が出てくるのが見えた。
俺を見ては、心底嫌そうなため息を出し始めた。
「やっぱ生きてるのじゃ」
「やっぱって何!? やっぱって。俺だって役に立つんですよ!? 今回の薬だって俺の血が無いとできなかったんでしょ!?」
「……お主の功績と悪行を差し引きしたら悪行のほうが勝つのじゃ」
やっと回復してきたので立ち上がると、俺の脇腹を突いて来る奴がいる。
誰って言わなくてもここには俺と師匠以外ミーティアしかいない。
「ほら!」
「…………いや、ほらってなぁ」
「何の話なのじゃ?」
師匠が変に食いつてきた。
ほらぁこうなる。
別に今師匠の名前を言う事でもなくない?
「メルさん! メルさん! 変態ちゃんが大事な話があるって!」
「この馬鹿ミーティア!!」
「ミーティアちゃん馬鹿じゃないもん!」
馬鹿だろ!
「何じゃ? 今言わないと駄目な事なのじゃ?」
「全然。今じゃなくても大丈夫です! はい!! 今度でOK、俺の気持ちが落ち着いた時でOKです!」
「…………何じゃ今話せなのじゃ、逆にそこまで拒否すると気になるのじゃ」
あああああああああああ! 墓穴ほった。
普通に『後で話します』で終わればよかった。
「いや。辞めときます」
「師匠つらするわけじゃないのじゃが……命令じゃ話せ」
「………………命令ってか脅しでは!?」
声は柔らかいのに杖を向けて先端が光ってる。
ミーティアはいつの間にか師匠の後ろに回って回避してるし。
「3」
「あの師匠?」
「2」
「ええっとですね」
「1」
「わかりましたよ!」
「ゼ──」
謎のカウントダウンが止まった。
でも杖先は向けられていていまだ光ってる。
「ええっと、メル」
「………………な、なんじゃ」
ミーティアが驚いた顔をして拍手しはじめた。
後で訓練誘ってぶっとばすからな!!
ってか名前で呼ぶって事に集中して後の事を考えてなかった。
「ええっと……買い物でも行きません?」
色んな選択肢があったはずなのに、かろうじて買い物に誘ってしまった。ミーティアは師匠の後ろで腕をクロスしてバツのジェスチャーだ。
じゃぁどうしろって言うんだ!
「…………今回の事が終わったなのじゃ、数日待て」




