第323話 約束したのは俺じゃないし
俺と師匠は城下町から離れた転移の門をくぐる事となった。
なお、ここまでは馬で来たんだけど……ってか城に直結の転移の門があるなら使えばいいじゃんって思うじゃん? なんと俺が城を抜けている間に壊された。
おのれ家老衆め。
…………まぁ自分の城の下に外部から出入りできる出入口あったら潰すよね。
怒ってはいるがこれに関してはしょうがない。
「しかし、本当に残してよかったんですかね」
なんちゃら遺跡の階段を降りながら師匠にたずねた。
残して来た2人だ。
ミーティアとユキ、いや死にかけの元将軍ムラマサもいるか。
あっもっといた。
何かと切腹しそうな人斬り五右衛門も将軍を守っている。
「なに、地下牢にこもっている限り手はでないじゃろ、もっとも……」
「ムラマサが死ぬまでって事です?」
「そうじゃ。最悪の事を考えてミーティアには脱出用の煙幕アイテムを渡してあるのじゃ。ヒノクニでも冒険者ギルドに逃げ込めば将軍家といえと手出しは難しいじゃろ」
大使館的なやつかな。
「死んだら最後、新しい将軍の言いなりと言う事でござる、にんにんっと」
「ほれ、転移の門がある部屋に着いたなのじゃ」
師匠が足を止めると遺跡の小部屋とついた。
相変わらず埃っぽい。
壁に小さい絵画がかけられていて後は棚が並んでいる。武器や防具も転がっていて足の踏み場も少ない。
「この部屋のどこかに門があるはずじゃ」
「へい、探せって事ですよね」
師匠からの返事が無いので探していると、背後で師匠が喋りかけてくる。
「お主、あの館経由出来たのじゃ?」
「いやだって師匠Bが教えてくれたから……」
「あの館は変な蝙蝠が多くてのあまりにも面倒で全部燃やしたはずじゃったのじゃ」
「ああ、どうりで……元々吸血鬼の自称王の持ち物だったらしいですよ?」
転移の門が見当たらない。
「ワラワがまだ放浪中に見つけてじゃの。いい家とおもったんじゃんがのう」
「将来あれぐらいの家でも建てます? ってか元々セリーヌが住むのに家を増築しようと帝都に来たんでしたっけ」
「そんな話じゃったな……まぁ今となっては過ぎた事じゃ」
おかしいなぁ、納屋みたいな場所なんだけど額縁が見当たらない。
「そうお主は──」
「あの、師匠も探してくれません?」
めっちゃ暇そうに話しかけてくるからだ。
探してるんだけど気が散って探しきれない。
「むぅ……探したくないのじゃ」
「ってか無いんですけど、あるのは、あそこ飾ってる小さい額縁だけ、あれじゃ小さいし」
「おかしいのう……確かここに風車の絵がある絵に偽造してある。と聞いた事があるんじゃが」
俺が無言になる。
だって俺が先ほどいった絵に風車の絵がかいてあるからだ。
「師匠、あれであってるんじゃ?」
「…………風車なのじゃ」
「風車ですね」
小さい。
今までの転移の門は人が世裕で通れるほどだったので今回のは小さい。
試しに壁から外した絵画の絵の部分を外し、額縁にリターンと唱え魔力を込める。
すぐに魔力の鏡が出てきた。
「はぁ仕方がないのじゃ……体を細くすれば入れるじゃろ。壁に立てかけるのじゃ」
「壁に? あれ? 足から入るんです?」
「…………以前お主に尻を触られたのじゃ」
あーあったな。
師匠の尻が転移の門から出てきた時、あの時ズボンを下ろさなくてよかった。
きっと殺されいるか、殺されなくてもここまでの関係になるには時間がかかっただろうし。
その師匠が足から転移の門に入って行った。
「ふっふっふ、見るのじゃ! 尻も入ったじゃろ!!」
「ダイエットしてましたもんね」
「…………お主、そういう事は知っていても黙っておくのがマナーじゃぞ」
「へい」
ってか師匠ちょっと抜けていて可愛い。
尻は確かに通った。
転移の門は師匠の腹ぐらいまで入っていて転移の最中。
ほら。
明らかに師匠の顔色が変わった。
「さて、俺の出番ですかね、手伝います」
「ま、待つのじゃ!!」
「待てって言われても《《胸》》がつっかえてるんですよね」
師匠は慌てて転移の門から抜けようとすると、今度は尻が引っ掛かったらしい。
ゆっくり入ったから入れたパターンで慌てて出ようとすると引っかかのだ。
「それ以上来ると杖で吹き飛ばすのじゃ!」
「師匠のマジックボックスって腰ぐらいですよね、その腰は向こうの世界ですけど?」
「なっ! お主知っておったな!!」
「知るも何も師匠が先に入るって、俺のせいじゃないしーーあー大変だなーここで俺が消えたら師匠は一生上半身と下半身が別の空間ある魔女になるのかー」
「棒読みなのじゃ!」
「だって棒読みですもん」
俺は転移の門を持ち上げると壊さないように背後から師匠を押し込んだ。
主に胸の部分を何度も丁寧にゆっくりと押して。
──
────
4回目の転移の門を抜けてやっと吸血鬼の屋敷へと戻って来た。
「ふう。やっと着いたのじゃ」
師匠が本当に疲れたように言うので俺は思わず突っ込んでしまう。
「何も顔の形が変形するまで殴らなくても、それが無ければもう少し早く来れたんですけど」
「よくもまぁ、抵抗出来ないワラワを……どの口が」
「でも最後は師匠だって」
師匠が黙るので俺も黙る。
《《色々あったが》》色々あった。
「とにかくなのじゃ! 急がんと残して来たエリクサーでさえ効果は薄いのじゃ」
「ですね。師匠のせいで間に合わなかったってなったら後味わるいですし」
「ドアホウのせいでな!!」
もう、お主呼びじゃなくてドアホウだし、語尾もないしめっちゃキレてるのだけ伝わってくる。
これ以上言い合ってもしょうがないので中庭へと移動する。
「師匠」
「なんじゃ?」
「……先に風呂入ります?」
「……さっさとせい」
「うい」
すぐに庭にいきミーティアが建てたアイスの棒の墓前に着いた。
アイスには『きゅーちゃんの墓』って書かれていて俺はスコップでほじる。
金色の蝙蝠の頭が見え、俺を見ては赤い目でにらんでいる。
すぐに視線は動いて驚いた顔になった。
「ほう、この状態で生きておるのじゃ」
「強いらしいですし、俺に負けましたけど」
「吸血鬼の自称王、ドラキューじゃったな。血を別け自由になるか、血を抜かれ埋めなおされるか、好きなほうを選ぶのじゃ」
えぐ。
もう選択肢ないじゃん。
ドラキューは力なく頭を下げたので羽をもって師匠に手渡した。
師匠はその羽をむしった。
蝙蝠がとんでもない叫びを鳴いて俺に返してくれた。
俺はドラキューを穴底に置くと再び土をかけ埋める。
「まぁ本当に力がある奴ならしなんじゃろ」
「約束したのは師匠で俺は約束してないし」
ミーティアの作った墓標を刺してすぐに屋敷に戻る。
師匠は厨房に入るなり俺に指示を飛ばして来た、この羽から薬を作るのだ。
「お主の血も使うのじゃ。ヴァンパイアの呪いに負けなかったのじゃろ? ワラワの血もそこに混ぜる」
師匠は俺の腕から血を抜くので、その間に聞いてみる。
「師匠も噛まれても平気なんです?」
「この屋敷で噛まれた事があるのじゃが、結果はいうまでもないじゃろ」
屋敷にいた蝙蝠を燃やしたって言っていたもんな。
って事は俺がヴァンパイアの王になっても師匠は眷属に出来ないって事か覚えておこ。
「次に火を起こすのじゃ。その間にワラワは羽とエリクサーを混ぜるのじゃ」
「うい」
師匠のやる気がマックスだ。
俺も必死で命令通りに動き朝には1本の薬が完成した。




