第322話 ちょっとだけブチ……プチ切れのクロウベル
師匠に抱き着きながら空高く飛ぶ。
リターンの疑似魔法の一種で設定した場所に飛ぶ魔法だ。
現在は師匠しか使えないし、あらかじめポイントとなる場所を作るなど制約も沢山あるっぽい、しかも1回ポイント使うと何年も周囲に使えないとかなんとか。
雲を抜けて地上を見る、城が豆粒のようでそこに落下していくのがわかった。
「ドアホウ」
「うい?」
俺は師匠の顔を見上げようとすると大きな胸しか見えない。
あっかろうじて顔が見えた。
「……ドアホウで返事をするななのじゃ。お主よ」
「ドアホウだっべ?」
背中に張り付いているユキが師匠に聞いている。
師匠は「言い間違えただけなのじゃ」と改めて俺を見た。
「着地する時のクッションになるのじゃ」
「はい?」
城が屋根がすでに近い。
そういう事は早く言え! この師匠!!
俺が水盾を唱えるのと衝撃が同時に来た。
天守閣とでもいうのか、大きな穴を開けて畳を潰しながら着地した。
騒ぎに駆け付けた侍が襖を開けてどんどん出てくる。
「ええい! 魔女め!! 今度は何の騒ぎだ!! 将軍マサムネ様の城だぞ!」
マサムネ?
たしかムラマサなはずだ。
俺の見た方向には、眼帯をした小さい男の子がいる。
「師匠?」
「大方新しい操り人形じゃろ、さてワラワはユキをムラマサの所に連れていくのじゃ」
師匠がそういうと、周りの敵意が強くなる。
「所で、そこの一番偉そうな奴。五右衛門の爺さんは?」
「あの老いぼれなら、地下牢にいれている。安心しろ、お前の仲間と妖怪と通じた将軍……おっと元将軍だったな。そいつも一緒だ。大人しくすれば仲間の命は助けてやる」
あの。
そういいながら刀抜いて囲んでいるんですけど。
ここで大人しくしたら斬るよね、この人達。
「師匠、俺が暴れればいいわけですね」
「任せていいのじゃ?」
「もちろん」
「ユキとやらこっちじゃ」
師匠が天守閣から廊下に出ると飛び降りた。
下のほうで悲鳴と爆音が聞こえ空は晴れているのに落雷が鳴った。
あー師匠結構怒ってるなこれ。
昔の師匠なら、放置してる案件だろうに。
「じゃっこっちもやりますか。一応は手加減するけど……死んでも文句言わないように」
俺が偉そうな奴に伝えると一気に刀が襲って来た。
おっそ。
そこらの新米冒険者のほうが早いよ?
ゲーム中盤で来る場所と、終盤で経験値積んだ奴の差か。
1人目の腹に手をあて水盾を発動する。
反動で一気に数人が吹っ飛んでいった。
畳の下から槍が出てくると天井からも槍。
俺の動きを止めた後に、札を持った4人の男女が俺を四方で囲んだ。
一番えばっている男が「いけ陰陽師達よ!」と命令を下す。
「我は玄武」
「私は青龍」
「俺は白虎」
「うちは朱──」
それぞれが札をもって動くので、小さく『水竜』と唱えた。
ネッシー型の水竜が玄武と白虎を名乗った男を吹き飛ばす。
名乗っている最中に攻撃は基本だ、ってか名乗る前に攻撃しないと……俺は待たないよ。
「馬鹿な! 伝説の水竜陣!! 後継者は途絶えたはずだ!」
えばっている男が大きな声を上げては叫んでいる。
ああ、そうか……師匠が言うには東方の魔法だっけこれ。
そんな設定もあったな確か。
「…………ええっと、驚いている所ごめん。後継者ではなく独学です」
「ふ、ふざけるな!!」
「俺から言わせると、言う事を聞かない子供を殺して次の操り人形を作るほうがふざけてる。と思うんだけど……いや、考えはわかるよ。そのほうが早いし……俺も記憶が戻らなかったらそっち派だしさって……」
慌てて水盾を出して防御する。
紫色の液体が塗られた矢まで飛んできたのだ。
絶対に毒だ。
いやもう、話聞かない人達だ。
さて……師匠はもう地下牢に行ったかな?
「じゃぁ水竜ちゃん、フルパワーって事で」
待機中にある魔力を水へと変換させて圧縮するイメージで固める。
見た目はバスケットボールぐらいの大きさだ。
俺を攻撃しようとした、陰陽師達が術が発動しなく何度も札に呼び掛けているのが見えた。
あれも魔力依存なのかな? その魔力を俺が使っているから出ないのか?
どっちでもいいけど。
なるほどなぁ……どこぞのゲームで魔法は初歩魔法が一番強い。って聞いた事あるけどまさにそれ。
特に水魔法って弱いと思っていたけど結構便利かもしれない。
「そんな水球など恐れるに足りん。皆共斬ってしまえ!!」
俺は指を鳴らすとバスケットボールサイズの水球がはじけた。
圧縮された魔力の水が一気に敵を押し流す。
天守閣から魔力の水が消えると周りの敵は天井から床までいなくなる。
しかも、魔力の水なのですぐに乾くし掃除に便利だ。
「さて……俺も地下牢に行くか」
地下牢っていうから地下だよな。
階段を下りていくと生き残った侍が俺を見ては逃げていく、中には斬りかかってくる奴もいたけど吹き飛ばしては地下を目指した。
じめっとした地下牢前に着くとミーティアが階段に座っている。
「よう」
「おかえり!」
無事だと思っていたけどやっぱり無事か。
「師匠は?」
「ユキさんと中に」
俺もミーティアの近くに座り師匠を待つ。
「変態ちゃん、何とかしてよ!」
「……無理でしょ」
「あ、いや。アリシアは?」
「アリ姉ちゃんは帝都にいないかも……一度離れるかもっていってたし」
まぁ何でもかんでもアリシア頼みもだめか。
それに回復魔法が強ければ強いほど魔力の消費もあるしな……でなくても無理しすぎてるし。
「俺がわるかった」
暗闇から師匠と五右衛門の爺さんが歩いてきた。
「師匠」
「お主派手に暴れたの、地下まで魔力の流れが乱れたのじゃ。珍しく怒っていたのじゃ?」
「それは師匠では。それよりも」
師匠は黙って首を振る。
「持ってる秘薬やエリクサーを飲ませたのじゃが回復したそばから呪いにかかるのじゃ。残りの時間は2人の時間じゃな」
「どんな呪いなんです?」
「お主に言っても仕方がないのじゃが……症状を見る限りヴァンパイアの毒じゃな」
「若様……この五右衛門、天に帰る時はすぐにお側にまいりますゆえ!」
ヴァンパイア……別名吸血鬼。
あれ? 最近どこかの奴が自称していたような。
「変態ちゃん!!」
「うぐう!! く、首を絞めるな!」
俺はミーティアの手を首からはがす。
「ぜぇぜぇ死ぬかと思った」
「大げさだなぁ、変態ちゃんが首の骨折れたぐらいでしなないじゃん」
「こわ! この子こわ。俺だから死なないだけで普通の人は死ぬからね?」
「ミーティアちゃん普通の人にはしないから大丈夫!」
謎のぶいを見せてくるけど、問題はそこじゃない。
いや怒るよりも先に確認だ。
「師匠、吸血鬼の血があれば血清って作れます?」
「…………お主がいくら知識があろうが、この地のヴァンヴァイアは数年前に死んでいるのじゃ」
「クロウ殿よ、この芽瑠殿の言う通り数年前のオロチとの闘いで吸血鬼殿はオロチの牙ですでに灰になっているでござる」
「ああ、いや……もう1人。……1匹知ってる」
「はいはいはい! ミーティアちゃんが説明しますー!!」




