第319話 余はしょうぐんなのだ!
はぁ玉露がうまい。
しかもこれ一番茶って言う旨い部分だろ。
もう10年ぶりぐらいの日本茶? を楽しむと、ミーティアが信じられないような者を見る目で俺を見る。
「何?」
「変態ちゃん、こんな不味いお湯飲んでる……これ薬だよね?」
「茶だよ。紅茶の一種って考えればいいかな、アルコールもないし苦味があるけど保存も効く。それにこれだってスプーン1杯で金貨クラスと思うよ」
そういうとミーティアは慌てて飲み始めた。
金貨の味って苦い……など言う始末だ。
「ってか五右衛門……さんだっけ? 何?」
「呼び捨てで結構でござる。いや……この茶をそこまで楽しむとはクウガ……いやクロウベル殿はヒノクニの出身でござるか? 畳みを知っているでござるし、正座も決まっているでござる」
「…………違うよ」
「変態ちゃんはフユーンの貴族だもんねー」
「元な。今は勘当されてるし戻るきもない」
「であれば珍しいでござるな」
それは俺が日本人舌を持ってるからで、まぁその話はいいんだけどさ。
師匠が俺を見てるし俺も師匠のほうへ振り向く。
「じゃ、師匠お茶も頂いたし帰りましょう」
五右衛門が俺の顔を見ると直ぐに師匠のほうへ振り向いた。
「芽瑠殿!? まさか見捨てて帰るつもりで!?」
「まぁお主よ待つのじゃ、ワラワも帰りたいのは同じなんじゃが……一応恩も会ってなのじゃ、フジノヤマにユキオンナがいての《《将軍》》ムラマサが好いておるのじゃ」
「え? 将軍ってヨシムネじゃ?」
病気の将軍ヨシムネのためにオロチ退治して、その粉を渡す。
そうすると元気になり城に自由に出入り出来たり、忍者の里を教えてもらったりするはずだ。
「オロチの毒にかかり数年前に他界してるでござる」
「どうしたのじゃ?」
あっやばい。
本来はクウガが来る所を俺が歴史改変させたせいでクウガはここに来てない事になってる。よく考えればミーティアが畳を初めて見た。って時に気づくべきだった。
元々高齢だったしな。たぶんその……黙っておこ。
「なんでもないです。でムラマサって確か妖怪が好きでしたよね? そのユキオンナと一緒になりたい。とかです?」
「察しがいいのう。マサムネはユキを幸せに出来る男を探しているのじゃ。そこで世界一女の扱いが上手いクウガが来るように手紙を出したのじゃが……」
その手紙に細工したのが師匠Bって所だろう。
「師匠の魔力は?」
「あいにくと緊急着陸に使ってほぼゼロじゃ、わずかな魔力で隠し文字を入れた手紙をだしたんじゃがのう……」
「芽瑠殿の手紙は検問される恐れがあったでござる」
「なるほど、じゃぁミーティア頑張って」
「なんで!?」
1人話を聞いていないようなミーティアが反攻してきた。
「俺はアリシアからミーティアを他の冒険者と旅できるように頼まれてるの。これぐらいのクエストを1人出来ないでどうする」
「お主、本音はなんなのじゃ?」
「面倒です」
俺が本音を伝えると師匠はため息を出した。
遊女というか花魁姿なのでとても色っぽい。
俺だったら毎日通うね。
ってかなんで花魁姿なんだろう。
「ミーティアがここにいる理由が分かったのじゃ。ミーティアはワラワに任せてお主、明日行ってこいなのじゃ」
「うい」
「…………返事ぐらいまともに、今日は休めなのじゃ。家老よ」
「はは! 準備は出来ております」
大体の事情はわかった。
人斬り五右衛門が手を複数回叩くとふすまが一斉に開く。
…………こいつら聞き耳立ててるのか?
「芽瑠! 難しい話はおわったか?」
子供らしい声で入ってくるのは少年ムラマサ。見た感じ12歳ぐらいか? ゲームで初めて会った時が10歳ぐらいだから多分あってるはず。
師匠の事を芽瑠と呼び捨てにして叩いてやろうか?
俺の顔を見るとムラマサの体が止まった。
「五右爺! この者を斬れ。斬れ」
「ほう……」
俺が感想を言うとムラマサの顔がおびえだす。
「将軍様! この男こそユキオンナを説得する男でございます! それでもいいのであればこの人斬り五右衛門。命を懸けてやり遂げましょう」
「…………そうなのか芽瑠!?」
「どうじゃろうな。ここで斬っても良いともうのじゃ」
「うーん。ミーティアちゃんもメルさんに賛成」
俺の味方は、今知り合った爺さんだけだ。
物凄い泣けてくる。
「俺は師匠を迎えに来ただけでなんで斬られないと、しかもこれ無償でしょ? 暴れていい?」
周りの侍たちの表情も変わりだす。
そりゃそうだろう、この小さい将軍の一言で俺と斬りあいをするんだ。
「将軍様。ご命令を」
「…………め、芽瑠ど、どうしたら?」
「好きにするがよい。じゃがワラワの借りはこれで返したのじゃ」
「わ、わかった! 許す。そのほうこの将軍ムラマサが許そう」
子供のお遊戯みたいだな。
その子供の一言で何人も何万人も人の命が掛かっているんだから嫌になる。
これであればまだ帝国のアレキ皇子のほうが頭がいい、あれは一応帝国のためになるような事を優先してるもんな、たぶん。
五右衛門から、若い侍に案内役が変わり。俺を和室へと案内してくれた。
畳にあり座らないと使えない低いテーブル。
木製の座椅子に端には布団が折りたたんでいる。
セルフの旅館だな。
窓から外を見ると雪景色の城下町が見えた、今いる場所が城の高い場所というのがわかり首を伸ばすと雪山も見える。
となると、あっちがフジノヤマか。
大体の地形は把握できた。
和室から出ると城の中を歩く、だって別に出歩くな。とは言われなかったからだ。
俺が歩くと周りの気配も動く。
いやねぇ監視されてるって……そりゃ俺じゃなくてクウガを呼ぶってもんだ。
そういえば昔100人斬りが出来る城攻略のゲームあったな、いろんな技を駆使すれば0人斬りでもクリアできるという神ゲーだった。
その気配が突然に消えた。
まるでここから先は許可が無いと入れない。そんな錯覚すら覚える。
「まぁ錯覚なんだけど」
障子を開けて中に入り込む、いくつかの部屋を通り最後の障子前に立つ。
白い障子は影絵のようになっていて師匠が丁度着替え始めてるのがわかる。
そっと障子に穴をあけて覗こうとかがむと、俺の目に指が飛んできた。
「あっぶねっ!?」
あと0.1秒遅かったら俺の目はつぶれていた。
障子を開けて師匠に文句を言う。
「師匠あの眼がつぶれる所だったんですけど!」
「お主、着替えの最中だっていうのにノックぐらいするのじゃ……というか、こっちからもお主の影が見えていたのじゃ、何するのかと思ったら……」
「まぁまぁ」
師匠は俺がいるのにお構えなしに着替えを始めた。
逆に目のやり場に困って横を向いた。
「ふっ」
師匠が鼻で笑った気がする。
振り向くと豪華な着物から質素な浴衣に切り替わっていた。
「で、わざわざ忍び込んで何の様じゃ?」
「本題は?」
「………………後は着けられてないのじゃ?」
「この部屋に入る時に気配消えましたね」
師匠は座りだすと胡坐になった。
見える、いやこれは見せてる?
「ふんどしじゃないんですね」
「…………」
師匠は足を組みなおして座りなおした。
見せてくれたわけじゃないのか。余計な事を言って損をした気分だ。
「まだ昼間なのじゃ……」
「え。夜ならいいんですか!?」
「…………考えてやらん事もないのじゃ──」
「ミーティアちゃんただいま参上! メルさーん、着替えてきましたっよって変態ちゃんここ男性禁止なのに何でいるの!?」
俺と師匠はもう壁と壁まで離れた。
深呼吸をしてミーティアを見上げる。
「用があったんだよ」
「そうなの!?」
「ワラワが呼んだんじゃ……ミーティアよ似合ってるなのじゃ。さて城の総意としてはユキオンナとムラマサを別れさせたいのじゃ。そのためにクウガを呼ぶ。と言う事を頼んだのじゃ」
「でも違うんですよね?」
「楽しそうな話!」
俺もミーティアも師匠にそばによると小さい声で話す。
「ワラワはムラマサとユキオンナの恋を応援したいのじゃ」
「メルさんって乙女ーミーティアちゃん好き」
「乙女? 姑じゃなくて? 師匠杖はだめ、物音で人が来ます!」
「ちっ、つねるだけで許して……お主なんで嬉しそうなのじゃ……」
おっと、師匠とイチャイチャ出来そうなので顔が緩んでしまった。
「あわわわ、ミーティアちゃんそ、外の空気吸って来るね」
変な気を回すミーティアを落ち着かせるのに20分かかった。




