第318話 畳の上でごろごろミーティア
「師匠。イチャイチャがしたいです」
「………………死ねなのじゃ」
場所はどこかの大きな畳の部屋。
俺はクウガを連れてこなかった罰として正座させられていて、ミーティアは畳の上でごろごろと回転している。
遊女よりの恰好をした師匠は厚底の靴を履いていて俺太ももをぐりぐり踏んでいる。
力を入れているようで入れてないのでこれはこれで楽しい時間だ。
「芽瑠殿!」
「そうだ! 師匠。この爺さんは何!? 俺がいないからって浮気とか」
「仔細は分かりまぬが、この五右衛門。芽瑠殿の許可が得ればこの男を斬りましょう!」
斬るな斬るな。
凄腕なのはわかるけど、師匠の知り合いと分かれば俺の緊張も解ける。
師匠がいる限り、いきなり斬られる事はないからだ。
「五右衛門、斬れなのじゃ」
「御免!」
俺の首があった場所に刀が通り過ぎる。
俺でなければ絶対に死んでいた。
踏み込みからの追撃を5度ほどかわすと、爺さんの息があがり膝をつく、ってか咳込みがやばくて転がっていたミーティアが背中をさするほどだ。
「この五右衛門一生の不覚……芽瑠様の命令を聞けぬとは、最後は武士としての意地でござる!」
はい?
突然上半身を出すと、刀の刃の部分を持ち出す。
「ミーティアその爺さんを止めろ! 腹斬るつもりだ」
「ふえ!? ええええ!! お爺ちゃんまったまった!」
「この五右衛門、女子供に止められるほど老いぼれて……ぬう!!」
そりゃ普通の女の子だったらな。
あっちの切腹は止めたとして、花魁師匠の話を聞かねば。
「師匠あの……何なんです?」
「こっちのセリフじゃ。ワラワはあのクウガ宛に手紙を出したのに、なんでお主がここに。そもそももう一人のワラワはどこじゃ?」
「どこって帰りましたけど」
師匠の手がプルプルと震えている。
小さい声で「あの馬鹿女」と言っているが、それを言っちゃえば師匠も『馬鹿女である。だって同じ師匠だし』
「何かいいたそうじゃの」
「全然。俺は不本意ですけど、クウガを呼んできましょうか?」
「何日かかるのじゃ?」
「ええっと転移の門使って往復して、すぐに来たとして6日って所ですかね」
「むぅ……」
師匠は黙って首を振ると俺を見た。
「不本意じゃがもう、お主でいいのじゃ」
「不本意な言い方ですけど俺でいいなら、で? 何倒せばいいです?」
「和平交渉じゃ。フジノヤマにいるユキオンナの条件を聞いてこいなのじゃ」
「嫌ですけど」
思わず本音がぽろり。
ユキオンナ。
日本の昔話にいる女性型の妖怪。
雪山で吹雪を出しては人間を困らせたりする、しかし、一部は人間にも友好的で助けてくれたり。
でも裏切ると永久的に氷漬けにしたりと言う話も。
「いた、痛いですって師匠こめかみぐりぐりは痛いですって」
俺が師匠の攻撃を受けると、拘束からはずれた爺さんが俺と師匠の顔を見て平伏した。
「今度は何!?」
「この五右衛門。この男が芽瑠様の旦那殿と知らずなんと無礼を」
「なっ」
「ふぁっ?」
俺と師匠はミーティアをみるとミーティアが「え、だってそうだよね? ミーティアちゃんしってるもん」と言って来た。
「なわけあるかなのじゃ!」
「さすが。ミーティアよく見てる!!」
俺と師匠の意見が正反対だ。
土下座してる爺さんがどっちを信じていいのか迷ってる状態だ。
「そもそも師匠。場所を変えましょう。自己紹介も何もない!」
「むぅ、時間がないのじゃがのう」
「いまさら30分、1時間後でも大丈夫でしょ」
師匠が小さく頷くとふすまが大きく開かれた。
まさに武士! と言う格好をした男たちが平伏し手横に並んでいる。
その中央には聖域のようにまっすぐに道が出来、子供……10歳前後の男の子がぺちぺちぺちと歩いて来る。
師匠をみつけつと走って来て、その胸に飛び込んだ。
「芽瑠のおっぱいふかふかだ。でこの馬鹿面がクウガなのか? この男にユキを任せればいいのか」
師匠を呼び捨てにした子供を引っ剥がして俺は《《軽く》》《《腹パン》》した。子供はふすまを突き抜けて吹っ飛ぶと、周りが静かになる。
おかしい、軽くしただけなのに大げさに吹っ飛んだ。
「このクソガキが! 師匠の胸を何揉んでるんだよ!!」
俺が叫ぶと師匠の静かな声が聞こえてきた。
「今の行動を数年前にお主もしとったなのじゃ」
「………………いやぁ俺って可愛らしい子供でしたよね」
ってか、俺たちの周り。
いや俺の周りを大量の侍が刀を持って取り囲んでいる。
いつの間に!? いや子供殴り吹き飛ばしてからだな。
「ええっと? じゃぁ乱闘する? 刀抜いた以上そういう事だよね」
少し不機嫌な俺は周りの侍の顔を見渡す。
髪を整えるふりしてアンジュの剣はすでに出している、後は斬りかかてきたら攻撃の合図だ。
侍たちは緊張した顔になり咳込む人も現れる。
「ドアホウ! いや、お主よ」
「…………あの師匠、呼びにくかったら前のままでもいいって何度も」
「これはワラワなりの区別じゃ! とにかく非はお主にあるのじゃ。お主が吹き飛ばしたのは将軍、ムラマサじゃ……名ぐらいは知ってるじゃろ?」
「え。あの人間嫌いの将軍の子供!?」
思わず裏設定を言うと、周りがざわざわしだした。
「この馬鹿なのじゃ、名だけでいいのにじゃ」
「って事は、あの爺さんって人斬り五右衛門?」
「ほうほうほうほう」
あっやばい。
師匠が半ギレだ。
ってか俺は確認のために聞いただけじゃん。
俺の味方を探しミーティアと眼が合った。
「うわぁ……よくわからないけど火に油ってこういう事なんだね。ミーティアちゃん覚えた」
うん。味方はいない。
「うぐ!」
師匠が俺の襟首を引っ張る。
「こいつとミーティアはワラワの友人じゃ」
「どうも弟子で恋人です、いっ! 師匠足踏まないでくれます?」
「黙っとれ。五右衛門よ部屋を用意せよ。それと周りの者よ……すまなかったのじゃ。この馬鹿に説明が終わってないのじゃ」
師匠はそういうと謝るけど、頭なんて下げてないかね。
堂々と前を見て謝罪の言葉だけ言うと、侍たちが刀を収めた。
中にはほっとした顔の人もいるし、五右衛門って言われた爺さんに何かを耳打ちすると部屋を出ていく。
「向こうに茶の間を用意してるでござる」
爺さんが歩くと師匠はその後に続くので俺とミーティアもその後に続いていくことにした。




