第32話 ですわ!
「いーやーだーーー!!」
更衣室に連れて行かれそうな俺は必死に抵抗する。
師匠が俺の服を引っ張り、ノラが俺の着る予定の水着を持っている。
何が悲しくて20歳。精神年齢でいえば30代後半……いや30後半はいやだから20代後半の俺が女装をしないといけないのか。
しかも水着だよ水着。
そりゃ世の中には男の娘という特殊な性癖はあるけど、俺で言えばもう違うでしょ。
おじさん娘、いや外見は若いからやっぱ男の娘でいいのか?
「往生際がわるいぞドアホウ」
「クウ兄さんならボクよりも優勝できると思うよ」
「んなあほな」
ってか師匠の力が地味に強い。
俺の服が破れそうなんだけど。
「あなた達!」
突然の声で俺の動きが止まった。
扇子をもった金髪の女性が俺達に向けて怒り顔だからだ。
瞳は青色で身長は140前後だろうか、赤いドレスを着ているのが特徴だ。
「ここは神聖な水着売り場ですわよ。男性が入る場所ではありません! しかもなんですか、水着大会? そこの女性……そんな崩れたプロポーションでは水着のほうが可哀そうではありませんの?」
「ふざけるな! 《《師匠は崩れていない崩しているだ!》》 ねぇ師匠」
俺が力説すると、俺の肩にポンっと師匠の手が置かれた。
「ライトニング」
「あばばばばばばばばばばばば!」
「ひっ!?」
「誰もワラワの事を言ってるとはいってないのじゃ!」
俺が電撃で痺れていると、俺を注意した少女は恐怖の顔だ。
「ま、街中で魔法は禁止、禁止ですわよ!」
「………………ワラワが魔法なぞ使うわけないのじゃ。演技じゃよ演技。ドアホウ立つのじゃ」
立たなくては。
体がしびれようが手足がなくなろうが立たなければ。
「だだだばいぼうぶ!」
「ほら、大丈夫じゃろ」
「ひぃ! や、野蛮人ですわ、ギルドに通報させてもらいますわ、いえそれだけではだめですわね、お父様に頼んで追放してもらいますわ」
旅をしてる人間に追放もなにもない。
「ごめんねお姉さん。ノラ達がうるさくしたのが悪かったよ」
「あら、良識ある子もいるんですね……貴方……男……? 水着を持っていますけど女装が趣味ですの?」
「一応は女性だよ」
「そうなんですの!? 胸がない女性なんてこの世にいるんですの!?」
ノラが静かに笑うと、別に気にしてないようだ。
「うん。こんなボクでも役に立つ時はあるからね」
「そう……なん……ですの?」
うっわ。
毒舌が凄いなこの子。
もしこれで俺が出るんです。って聞いたらどんな顔するんだろう。
いつまでも金髪の少女。と言うのも悪いだろう。
「ええっと……俺はクロウベル。君の名前は……」
扇子をパシャンと閉じると俺の手を叩いてきた。
「平民の名前なぞ興味がありませんわ。しかし残念でしたわね、今回の名誉ある水着はわがフリク家令嬢、フランシーヌが優勝する、と決まっている、無駄な努力はだめですわ、お可哀そうに」
「決まってるって」
「当たり前ですわ、この未来の《《聖女》》に不可能などないわ」
俺は腕を組んで考える。
聖女といえばアリシアになるんだけど、こんな子いたかなぁ……そもそもアリシアが聖女になるのは聖堂院で聖女の印をもらったからだ。
「え。聖女の印もってるの?」
「貴方……聖堂院の関係者なのですか?」
「いや?」
「であれば不要な事は喋らない事ですわ、これだから庶民は……フレンダといい本当に身分ってのをわかってませんわ」
え? フレンダ? 俺が呼び止めようとすると、オーッホッホッホと背後に見えるような感じで金髪少女は帰っていった。
色々と台風のような子だった。
「ドアホウ。ノラ」
「あ、なんです師匠」
「絶対に勝つのじゃ」
「いやでも……男の俺が」
師匠の手がプルプルと震えている。
「ワラワの事を崩れたスタイルじゃと……」
あっそっちで怒ってるのか。
「別に良いと思いますけどねぇ崩れても」
「ドアホウ、崩れてなんぞないのじゃ! もう一度ライトニングを撃たれたいのじゃ?」
「全然!」
「メル姉さん、クロ姉さん一度帰ろうか。水着買ってきたよ」
いつの間にか会計を終えたノラ、行動が早すぎる。
仕方がなくて一度フレンダの屋敷に俺達は帰った。
俺が壊した扉は治っていてフレンダが出迎えてくれた。応接室で今回の事を詳しく説明する。
「と、言う事で今回のマリンダのカードはその取り戻す事は無理じゃった……」
「そうですか、いえわかりました。諦めます……元々他人に頼むような事では」
フレンダがものすごく悲しそうな顔をした後にそう提案してきた。
「それに私一人で出来ない事を、少しでもマリンダの思い出と共に一緒にいたかったのですけど」
「フレンダよ。マリンダは良き親だったようじゃな」
「え? お婆ちゃんって話じゃ」
「マリンダは独身じゃよ、継承者を探してると聞いておったからな。まだ手はある、ここまで聞いて引き下がるほどワラワは薄情じゃないのじゃ」
師匠が胸を叩くと、その胸がポンっとはずむ。
次に俺を見て来た。
「あれですよね、色物として出て人気を得るって作戦ですよね」
「なんじゃわかっておったのじゃ」
人気投票系で脇役が主役を食う。という作戦だ。
アニメなどの人気投票で主役がいかに凄くてでも、1話しかでない雑魚キャラがトップになったりもする。
「俺としても手助けできるなら……そういえばフランシーヌって知ってる?」
「フランシーヌ様ですか、はいランス家のお嬢様です。以前は良くフランシーヌ様の父、サルタ様と共に屋敷に来ていたんですけど……マリンダが亡くなってからは全然」
占い師が亡くなったらそりゃ来ないわな。
「メル姉さん準備できたよー」
話に入って来ないと思っていたらノラは色々な服や道具をもっていた。
「ドアホウ、あの椅子に座るのじゃ」
「えっちな事しませんよね?」
師匠の手に電気が見える。
いや、なんでも魔法で従わせるとは駄目だからね!
俺が仕方がなくすわると、手足を縛られた、口には布をかまされふがふがとしか言えない。
俺を縛りあげ高笑いをしている3人は体の隅々まで触っていく。
いや高笑いしてるのは師匠だけか。
俺の衣服を縛ったままと言うのに器用に脱がせていく。
あん。
そ、そこは。
俺の乳首が触られていく。
「気持ち悪い声を出すなのじゃ」
「まぁまぁメル姉さん。あっフレンダさん、パンツは脱がさないで上げて、そこは興味がないから」
やめて! そ、そこだけは。でも、どうしてもって言うなら見せない事もない。
「まずは顔じゃな……鼻をもぎとろうかのう」
「メル姉さん駄目だよ、そうだこれは?」
「ほうほう、これドアホウ動くな」
動きたくても動けない。
別に本気を出せば逃げれそうなきもするが、それを考えての《《プレイみたいな》》物だし。
「まずは顔。口元をレースの布で隠そう、目だけ見えてる感じに。次に肩幅、これもクロー兄さんは大きいからストールで誤魔化すとして、水着はセパレートタイプ、胸を盛って盛りまくって……下の股間は金属ガードと腰布をつけるよ。髪と化粧はフレンダさんお願いしていいかな?」
「わかったです」
「ノラ、ワラワはどうしたらええのじゃ?」
どんどんと決まっていく俺の魔改造計画。
ノアの説明でいえば師匠は今の所仕事がない。
「メル姉さんはクロー兄さんのムダ毛の処理って出来るかな」
俺はその言葉を聞いて足をガバっと開ける、師匠に剃られるなら本望だ。
「クロー兄さん。ムダ毛処理は背中とか、その足と手だからね……デリケードな所は自分で」
「ふももほ」
「メル姉さん、少し褐色の塗料ってあるかな……クロー兄さんの肌を少し健康的に」
足を閉じて黙って聞いていく。
全てが終わった時、鏡の前には美女がいた。
長い黒髪のカツラ、細い切れ目、肩幅を抑えた衣装、もりにもったDカップ。股間は金属カップをいれておりもっこりもしない……いやまったくしないわけでもないのでスカートで隠す。
肌は日焼けよりも焼けており異国褐色のダンサーという所だ。
「これが俺……」
「提案したのがワラワであるが……中々に美人じゃの、これは色物枠じゃ無理なのじゃ? ノラ」
「うん。クロー兄さんは土台はいいんだ、黙っていればかっこいいし女装も似合うよ」
「女性みたい……」
俺が頷くと鏡の中の美人が頷く。
手をあげると同じように上げた。
「癖になりそ」
「ふむ……恋人さがしをするのに今度は男もさがさんとなのじゃ」
「冗談だからね! 俺は師匠がいいわけで!」
「ど、どあほう……その近寄るな。ワラワの脳がバグる」
「こんな姿にしたのは師匠達でしょう!」
「ぷ……ぱっぱっぱっぱっぱっぱ!」
変な笑い声が部屋に響くと、フレンダが笑っていた。
「ご、ごめんなさい。わたし笑うと変な声が出て……ぱっぱっぱっぱ」
「ああ、だから普段無口なのか」
俺が言うとフレンダはお腹を押さえている。
「だめ、その恰好で声を出さなぱっぱっぱ」
「ん! あーあーあーあおっぱいもみもみ」
俺は声色をかえて自分の胸を揉む。
フレンダがパッパッパッパわらってお腹を押さえて苦しそうだ。
「辞めんかドアホウ!」
パシン。と頭を叩かれて俺はふざけるのをやめる。
大会まであと5日、なんとかなるのかなぁ……。




