第317話 少年漫画的インフレというなの呪い
怒りで叫んでいるらしいドラキュは一旦置いておいて、ミーティアに向き直る。
「あれ。倒せる?」
「ふにゃ!? ミーティアちゃんがやるの!?」
「だって俺は面倒……じゃない。冒険者たるもの時には1人で戦う事もあるでしょ」
「ねぇ今面倒って言ったよね!? ねぇってば!! 変態ちゃん!?」
目線を合わせない。
ってかよく見たらミーティアの姿、部屋着に赤竜の篭手なんだな。
アンバランスなのが人によっては刺さるのかもしれん。
「まぁそれはいいんだけど」
「何の話!?」
「気にするな、危なくなったら俺も助けるし。その代り全力でいけ」
「もう……」
文句を言うミーティアが構え……あれ? いない。
隣にいたはずのミーティアの姿がいなく、すぐに野太い断末魔が聞こえた。
声のほうを見ると無数の蝙蝠が炎上している。
はや!?
ってか弱くない? もう分離して逃げようとしてるし。
その中のひと際大きい奴が俺のほうに飛んできては首筋にかんだ。
「変態ちゃん!? ごめん、一匹そっちいっちゃった」
ミーティアが叫ぶと首筋に小さい痛みが走った。
すぐに耳元でドラキュの声が聞こえた。
「ふはっはっはっは! どうだ! 貴様の血を吸ったぞ!! さぁこの私の眷属になるのだ」
小さい蝙蝠が勝ち誇った声でしゃべりだす。
「あちゃー……吸っちゃったか」
「まずは土下座するのだ!!」
俺は黙って蝙蝠を捕まえると、近くにあった花瓶に入れてふたをした。
丈夫な花瓶らしく全然壊れない。
花瓶の中から声が聞こえるけど内容も聞き取れないほどだ。
「へ、変態ちゃん……大丈夫?」
「ん? まぁね」
「何で平気なのー!? もしかして変態だからヴァンパイアにならない!?」
「半分正解」
俺だってヴァンパイアドラゴンとか見た事ないもん。
俺の血って現在竜の血混ざってるし再生もついてるし、かなり異質なのは自分でも理解してる。だから多分噛まれても大丈夫なんだろうなって。
それにこの手の復讐してくる敵ってインフレの波についていけないのよね。
さらに言うと、ミーティアが簡単に負けるようなら棺に閉じ込めるとか色々あるし、また水檻でも使う気だったし。
だって、対策とかしてなさそうだったしさ。
普通、二度と同じ手は食わないようにって言うだろうに何もいってなかったしな。
って事で。
「花瓶は花瓶らしく水をいれましょうかね」
花瓶の中で蝙蝠がすごい暴れてる。
「うわ。えげつな」
「どっちが? そもそも俺達を襲って来たゾンビも元はだろ……師匠がゴミを燃やしたって意味がわかったよ。これがゴミなんだろ?」
花瓶がすごい暴れているが、床に押さえつけてるし逃げれない。
小さい隙間から『ウォーター』を流し込むと花瓶の動きが弱くなり最後は止まった。
「…………終わったの?」
「たぶん。でもまたこれ復活すると思うよ? よくて気絶」
俺は聖職者でもないしヴァンパイアハンターでもないし。
魔力のこもった銀の杭も無ければ弾もない。
ミーティアが繰り出す魔力の炎では燃えもしなかった。
「どうするの?」
「どうもこうも……」
──
────
寝不足の俺とミーティアは地下室に入った。
「もう寝かせてよ……腰も痛いし」
「俺だって下半身が痛い!」
会話だけ聞くと、ちょっとエッチな感じもする。
が、実際やった事といえば大きな穴を掘って埋めるだけの作業。
俺やミーティアが倒したゾンビは骨になっており、それらすべてと元凶であるドラキュ―を大きな穴に埋めてきた。
全然問題解決にはならないけど今できるのはこれぐらい。
後で帝国の冒険者ギルド、ミランダ宛に手紙を送って処理してもらう。
「良いからさっさと転移の門を組み立てるぞ」
「もう」
師匠からもらったメモ通りに転移の門を組み立てる。
普通の絵画の枠であり何度も見てる。
魔力を込めてリターンと唱えると魔力の鏡が出てきた。
「変態ちゃん変態ちゃん! ミーティアの姿が映ってない!!」
「話聞いてた!? 転移の門だっていうの。まったくほら先に行くから後から来ないと枠壊すからな」
俺が先にくぐると慌ててミーティアもついて来た。
移動した先で転移の門を崩しておくと向こうで入っても同じ場所や別の場所に飛ぶ。
こういうのがあるから俺覚えれきないんだよね。
覚える気もないけど。
ぐるっと見回したところこちらの転移の門も倉庫の中にあり薄汚れた階段が見えた。
階段を上がり天井の扉をあけると畳の部屋出た。
20畳はありそうな大きな部屋。
左右の壁は白壁であり前方にふすまが見えた。
いつもの俺なら畳に感動してごろごろするだろうが、1人の老人が鞘付きの刀を縦に構え正座をしている。思いっきり俺と眼が合って無言だ。
「ちょっと変態ちゃん、止まらないでよ! 鼻に変なのあたったじゃん!」
俺の尻が何か言ってきた。
いや尻の下にいるミーティアだ。
「だめだだめ、ここに師匠はいなかった。アレ殺人鬼だよ!? 俺を絶対斬る老侍だよ!?」
「何良くわかない事いってるのさー変態ちゃんはー」
ミーティアは俺の背中を踏みつけて外に出て行った。
「馬鹿! 死にたいのか!!」
俺が再び畳の上にいくと先ほどの老人が土下座しているのが見えた。
それはいい。
いや、それよりもミーティアがその老人の髪の毛をひっぱったり叩いたりしてる。
「うわ。変態ちゃん! このおじいちゃんの頭すごい!」
ちょんまげってやつだ。
真ん中をそり上げて左右のこった毛を中央に縛り、油を付けて綺麗に折りたたむ。
「すごいだ──」
「凄いはげてる!」
「馬鹿、ちげえ!! そってるんだよ」
「なんで?」
………………なんで?
その発想はなかった。
馬鹿か馬鹿と思っていたが何でなんだろう。
「兜をかぶるためでござる……」
「でも、それだったら全部剃ったほうがいいよね?」
たしかに。
「いや、問題はそこじゃない! 殺されるから離れろ!」
「殺しはしません! 力を貸してくれでござる。《《クウガ殿》》!!」
「よし、ミーティア帰るぞ」
俺はミーティアの手を引っ張って地下室へ戻ろうとする。
足に重みが加わると先ほどの爺さんが俺の足を掴んでいるではないが。
「ねぇーねぇークウガどのー、おじいちゃん困ってるよ?」
「あのね。どこの世界に俺とクウガを間違える奴がいるのよ。ってか俺達の事知ってる!?」
突然にふすまが開く。
「ふう、やっとクウガよ。やっと来たのじゃ……手紙を出して何日立つと……ドアホウ。いやお主なんでいるんじゃ?」
着物着てキセル片手の師匠は俺を見ては疑問の声を出して来た。
「師匠おおおおおおおおおおお!!! ってか離せ!! 師匠の所にいけないだろ!!」
「離しませんぞ! クウガ殿を絶対に離さないでござる!!」
俺は両手を使って師匠の所に移動しようと必死に手を伸ばす。
師匠まで後少し、その少しの所で師匠はキセルで煙草を吸うと、その灰を俺の手の甲に落とした。
「あっつ!!!」
「ミーティアよ。残りはどこじゃ?」
「残りって2人だけだよ?」




