第315話 覗いたのは俺じゃない!
「静かな森の陰の洋館から、こんにちはとゾンビが出るんばいちゃ」
「なにそれ?」
「小さい頃流行っていた歌」
「知らない……ええっとフユーンの街ってそんなの流行っていたの? それとも貴族だから?」
どっちも違う。
地球での記憶だから、この世界の歌ではない。
マイナーゲームのCMソングだった記憶がある。
そういえば、このゲーム歌手って職業ないな……いや、踊り子がそれにあたるのか? でもゲームでは踊ってるだけだけど、こっちの踊り子は他にも色々やってるからなぁ。
「さぁな」
「むぅ」
「それよりも昔師匠が作った館らしいから気を付けていけよ」
「なんでー?」
何でも何もない。
扉を開けながらミーティアのほうに顔を向ける。
「ああ見えて、ってか」
「てか?」
一瞬だけど2階の窓に人影がいたような気がする。
師匠が言うには人はいないって言う話だし。
「いや何でもない。それよりも魔女だしな」
ゲーム内の師匠は最初から魔女メルギナスって名前で出てきたし、こっちの世界に来てから調べても魔女とは厄災と言われていたし、見た感じはエルフのそれだし……そこまではまだいい。
よくないけど。
結局俺は師匠の全盛期を知らない。
魔物に滅ぼされた都市に行って魔物を倒した事があるらしいが、都市を滅ぼせる魔物を単体で倒せるんだ。それだけでもやばい。
その功績が変な風に伝わったらしく悪名付いたらしいけど。
その師匠が使っていたという館なんだ。
注意したほうがいいだろう。
外見は2階建て。一般的な貴族タイプの屋敷だ。
大きな両開きの扉を開くと自動的に証明がついた。
「すごーい。ねぇ自動だよ自動!? 帝国城とか教会もスイッチ式なのに」
「これは凄いな」
ただの魔力多いのじゃ師匠ってわけじゃないか。
「でもガランとしてるね」
「師匠Bの話によると、面倒だから荷物は全部燃やしたって言っていたからな……でも師匠Aとは違うし。風呂は右側。トイレもその隣。厨房は左側で部屋は適当に使っていいって。いう事で俺は先に寝床を探す」
「ミーティアちゃんはお風呂ー!」
「汚いもんな」
「ミーティアちゃん汚くないし!!」
今にも殴ってきそうな体制を取られた。
威圧された俺は「ごめんって」とだけやっと口にする。
「ミーティアちゃん怒ってないしー! 変態ちゃん口が悪いのがいけないしー」
「そ、そうだね。じゃぁゆっくり入って来て」
「にへへ。覗かないように」
「子供には興味ないし」
「これでも18歳なんですけど!! もうすぐ19歳!!」
にしては成長してない。
アリシアのほうが若干大きいぐらいだろう。
ちなみにアリシアよりも大きいのがクィルだ、ってかもう人妻だもんな変な事を考えたらギースに殺されるかもしれん。
「そういう年齢を気にする所が子供なんだよ」
「変態ちゃん前から思っていたけどおじさんくさいよ?」
「うっまさかの加齢臭!?」
「そういうんじゃないけど……じゃっ」
誰もいない屋敷の風呂場へと走っていった。
よくまぁこんな不気味な屋敷で走れ回れるな、1階の角部屋の扉を慎重に開ける。
中はクローゼットとベッドがあるだけ。
師匠が使っていたとしては珍しく綺麗にされた部屋だ。
ベッドを触ると思ったよりもふかふか。
匂いを嗅ぐとうっすらであるが師匠の匂いがするようなしないような。
うーん……わからん。
それだけを楽しみにして先に寝室探ししたのに。
そして俺は自然な感じで窓を開けた。
上下左右に首を回して周りを確認する。
「気のせいか? 誰かいたようなきがしたんだけどな」
誰かに見られた感覚というか視線を感じた気がする。
そもそもこの館だけ魔力が多いからな。
まるでナイが住んでる蜃気楼の城に入った感覚だ。
「さて馬鹿が風呂入ってる間に飯の準備だ」
部屋を出て厨房へと歩く。
こういう時映画では窓が破れてゾンビが襲って来たり風呂に入ってる女性の叫び声が聞こえたりするのだ。
遠くからミーティアの「キャアア」と言う声が俺の耳に届く。
「そうこういうふうに。さて今日は何作る……え?」
俺は走って風呂場に行くと脱衣所を抜けて浴室の引き戸を思いっきり開ける!
「ミーティア!!」
「《《クウ兄ちゃん》》!!」
ミーティアは俺をどこかの奴と間違えて抱きついた。
濡れた体で抱きつくから俺の衣服が濡れ始める。
「のあっ!? 変態ちゃん!?」
「……いや、そっちが間違えただけだし。何があった?」
「こっちのセリフ! ミーティアちゃんの裸が見たいからって覗くとか、ミーティアちゃんの事を子供扱いしていたのに覗くとかさー!」
俺に抱き着いたまま嬉しそうに話し出す。
風呂場を見渡す、大きな風呂で5人は入れるぐらいの大きさ、お湯は温泉のように湧きだしていてある一定の高さになるとそのまま排水に流れて行っている。
少し高い場所につっかえ棒がある木のふたが窓代わりだろう。
「覗きってあそこから?」
「そうだよ!」
「いや、覗くなら正面からいくし……そもそも俺が師匠を好きなのを知ってるだろ?」
「ふふん、ミーティアちゃんの魅力が高かったって事だよね!?」
「それ以前に覗かれて悲鳴上げたって事は……ってか、俺だからいいけど。世の中にはド変態がいるから裸で抱きつかないほうがいいぞ」
「ふえ?」
改めて自分の姿を確認したらしい。
「で、でも変態ちゃんはミーティアちゃんみたいな体系じゃ興奮しないんでしょ?」
そういう問題ではない。
「興奮しなくても抱く事は出来るぞ」
「…………抱く? …………にゃー!」
「うぐ!?」
これが可愛い女の子ならまだ「このーやったなー」で終わる。
あ、だめだこれ。
「オロロロオロロロロロ」
「ギャーー!」
俺の腹に激痛が走ると口から《《ちょっと》》のゲロが出た。
仮にもミーティアは上位冒険者、その純粋な攻撃力は高い。
そのゲロはミーティアにかかり、ミーティアの頭からゲロまみれだ。
見る人間が見たらもうそういうプレイに見えなくもない。
ミーティアは俺の腕を引っ張ってぐるっと一回転。
遠心力の応用で脱衣所まで吹き飛ばす。
「汚いのミーティアちゃん断るんですけどー!!」
俺は脱衣所の外まで吹き飛ばれ床に倒れた、その後脱衣所の扉がぴしゃっと閉まる音が聞こえた。
「俺って何も悪い事してないよな……げぶ」
腹に『癒しの水』をかけてなんとか這い出る。
あっだめだこれ、無理に動いたら死ぬ。
しばらく天井を見てると、俺のを覗き込むミーティアの顔が見えた。
風呂からあがったのだろう、髪はぬれているがさっぱりした感じの顔だ。
「うわっ……まだ倒れてた。ええっと大丈夫にゃん?」
「大丈夫に見えたら癒しの魔法かけてない。内臓と骨が無事再生されるの待ってる」
「ごめんね」
ごめんで済んだら警察はいらない。
この世界警察って組織ないけど。
「いやいい。野菜炒めにピーマント沢山いれるから」
「うげっ! ミーティアちゃんピーマント嫌い!!!」
ピーマント。
日本で言うとピーマンみたいな野菜。
苦味はあるけど火に通せば甘いし俺は好きだ。
小さい頃はスタン家の食事にも出ていて兄のスゴウベルは反対に嫌いで、俺の皿にピーマントの山が出来るとアンジュがよく注意していたな。
「だから入れるんだよ」




