第313話 ときメモな別れ
師匠と俺は人に言えないバトルをしてから数日、体力も回復したとの事で、とうとう別れの時だ。
魔力が俺以上に見えるアリシアは俺を見て何か言おうとしていたので、2人でトランプしてた。と言っておいた。
なぜか『メルA先生には黙っておくね』って言われたので黙っていてもらおう。
おかしいな、健全なトランプゲームダヨ?
さて……そんな事を考えながら歩いていると待ち合わせである帝都の人気のない門まで来れた。
人影を数えると俺以外の人は先に来ているようだ。
具体的に言うと、師匠B。アリシアB&クウガBの隣の異邦人チーム。
こちらはアリシアAとクウガAの純正チーム。
隣の異邦人アリシアBが俺に気づくと頭を下げてきた。
「クロウ君、色々ご迷惑をおかけしました」
でも言葉にちょっとトゲがあるのは、俺が武術大会でクウガBの首を跳ねたからだろう。
あの時アリシアは魔力が無く生命力を燃やして俺を灰にしようとした。
さらに見舞いの時にも俺を殴って来たのだ。
「そっちも事情があったんだろ? 俺もいきなり全力出したし……ちなみにあの指って」
「メル先生の作った奴と思う。クロウ君の体を作るのにまず自分の肉体を模写していたから」
だよなぁ。
じゃないと俺が師匠の指って間違うはずないもん。
耳が長い分地獄耳なのか、師匠が俺とアリシアBの会話に入ってくる。
「小僧にお主の本気を出させたい。って言われたのじゃ。どうじゃ? よくできていたじゃろ?」
「本物かと思いましたよ」
「95%本物じゃ。そっくり作りワラワの魔力も人工皮膚に流したのじゃ」
なんて迷惑なんだ。
だから魔女って呼ばれるんだよ、人に迷惑ばっかり。
「何か文句ありそうな顔じゃの?」
「全然、さすが師匠と思いまして」
「そうじゃろそうじゃろ」
「メルB先生。クロウ君がこういう風に言う時は裏があったりしますよ」
ちょ。
横からアリシアAが師匠Bに助言をしだした。
「………………」
「あの黙って杖を向けないでくれます!? 帰るんでしょ。ここで戦っても良いんですけど騒ぎ大きくなって帰れなくなりますよ!?」
「むぅ……それはそれで面倒じゃのう……並行世界のアリシアAよ。何か困ったらこちらの世界のワラワを頼れなのじゃ……もっともワラワに負けて東方の島国に飛んだらしいのじゃがな、ぷっ」
さりげなく自分のほうが強いアピールを忘れない師匠B。
そう考えると並行世界の俺は死んでいて助かった。
仮にこっちに来て自分自身と戦うとか面倒でしょうがない、考えも行動も裏の裏でさえ同じなんだ、本当に僅差の力で負けたりするだろう。
いや、でもその場合はクウガBや師匠Bもこっちに来る必要はないのか。
「…………魔女メルギナス様。いつまでここに」
「なんじゃ大会に負けた小僧よ」
「うぐ」
クウガBが師匠Bを呼ぶも簡単に返されて顔を地面に向けた。
「そうだぞ! お前はクロウベルさんに負けたんだ、そんな口を聞いていいと思ってるか!」
「貴様! この悪魔の手下になり下がったのか! 剣を抜け! この僕が貴様を殺してから元の世界に帰る!!」
「出来るものなら!」
クウガAがクウガBを挑発し、お互いに剣を抜きだした。
「クウガ君!」
「クウガ君!!」
アリシアA&Bの声が同時にはもる。
「もう、一緒に帰るんだよ? ここで怪我しちゃ駄目」
「クウガ君。暴れるなら一緒に向こうの世界にいったらどうかな?」
それぞれアリシアがクウガに言うと、クウガAのほうは悲しい目で俺を見てきた。
姿形は同じと言うのに、当然向こうの世界にいったら? と提案されたほうがクウガAである。
「まぁ、アリシアAもきつい事言わないで、クウガだって頑張ってるんだし」
「そうなのかな?」
クウガAが無言で何度も頷いてアピールしてる。
さて……。
「で、師匠達はこれから?」
「馬車に乗って時の回廊に行くのじゃ」
どこだ? 知らない名前だ。
「なんじゃ、聞いてないのじゃ? もしかしてお主古竜の事は知らないのじゃ?」
ああ、大層な言い方であるけどナイの事か。
「知ってますよ。あのクソ竜であれば」
「なんじゃ……あの城と同じような場所がいくつかあるのじゃ。その中で使われてない場所に魔法陣を書いたのじゃ」
「……じゃぁ今後は何度も行ったり来たり?」
「出来るんじゃったら無駄に注文もつけないのじゃ。大量の魔力を使うからそう何度も無理なのじゃ。こっちに居れば居るほど帰還の成功率も下がるじゃろうな」
そういえば俺が向こうから帰る時も何か説明していたような?
「だめじゃん。じゃぁ早く帰らないと!」
師匠Bは少し驚いた顔をした。
「なんじゃ、ワラワはメルギナスBじゃぞ? よくそんなに心配できるのじゃ」
「俺にとってはAもBも同じ師匠ですし、まぁAの帰ってこないほうを選んでますけど」
「絶対に後悔させて……いや、素体は手に入ったのじゃ」
「師匠……」
「なんじゃ?」
「……何でもないです。気を付けて!」
俺は精一杯の笑顔で送る。
いや、素体で思った事で、そのコピーした俺を作って何が面白いんだろうって。
俺だって師匠は好きだけど、何でも言う事を聞く師匠作っても面白くはない。
もちろんする事はするけど。
「じゃぁ、クウガB。あんまりアリシアBを困らせるなよ」
「どの口が! 元々お前がっ!」
「クウガ君?」
舌打ちしたクウガBが押し黙る。
買った馬車が届くとクウガはさっさと御者台に消えていく。
アリシアBもそのホロ部分へと乗って行って最後に師匠がぐるっと見渡して最後に俺を見た。
「本当にワラワが一緒じゃなくていいんじゃな? 記憶を頼りに書いた転移の門じゃ」
「師匠を信じてますから大丈夫ですよ」
「どっちのじゃ?」
「どっちもです」
「無難すぎて逃げじゃな」
「ひどい言われようだ」
師匠は黙って手を差し出して来たので、俺も握手しようと手を前にしたら突然に手を引っ張られてキスをされた。
「わぁっ!」
「クロウベルさん!?」
「…………」
「メル先生……」
それぞれの声が雑音として耳に入る。
師匠の口が離れ、俺が固まっているといつの間にか馬車がいない。
「あれ?」
「クロウ君もうメルB先生行っちゃったよ?」
「向こうのメルさんって随分と情熱的なんですね……」
「うえ? ああ、意識飛んでた。師匠はこっちでも情熱的だよ。その2人ともありがとうな。見送りまで」
「私が私を見送るんだもん平気だよ」
「僕はアリシアを見送るためだけです」
アリシア達に礼を言って途中で別れる。
アリシアは引き続き聖女としての仕事があるし、クウガは……あれ、アイツの予定何も聞いてない。
まぁいいか。
とにかく俺1人で東方に行かないと。東の国、日の出の国。
フジノヤマか……。
ゲーム内では町が1個あっただけの場所。サブイベで刀習得イベがあるぐらいか?
ここから近い転移の門は馬で行くとして馬屋に行く。
何度も利用した馬屋で金さえ出せば詮索はしないという俺好みの馬屋。
クウガの紹介で知ったんだけど、ここの娘が可愛い子なんだよな……まぁそれだけの話。
「らっしゃい、ここは馬屋だよ……お。来たかっ兄ちゃん。裏の馬を好きなの使っていいぞ」
「どうも」
入って顔をみるなりこれだ。
話が早くて助かる。
馬小屋を通り過ぎて放牧されてる所にいくと、なぜか変な女がいる。
スリっと付きのチャイナドレス風衣装を着て背中には冒険にいくようなリュックを背負ってる、もうすぐ18歳ぐらいだというのに、自らの事を『ちゃん』つけて呼ぶちょっと痛い女……の子?
俺は完全に無視して馬を選ぶと、飛び蹴りが飛んでくる。
素早くよけたかったけど、俺がよけると馬に当たるから、何とか耐えた。
「無視とか酷い!! ミーティアちゃんもう3日も前からここで待ってるのに!!」
「しらねーよ!! ってか何!? 冒険でもいくの!? 行ってらっしゃい!!!」
「ちーがーうー。ミーティアちゃんも行く!」
「どこに!?」
「知らない」
「ちょ……」
「とにかく変態ちゃんに着いていくの!!」
やだよ!?




