第308話 あちらの事情、こちらの事情
本選1日目。
部屋にいるとノックが聞こえた。
俺はマジマジと扉を見る。
だってノックだよ? 俺の知り合いなんて誰もノックなんてするような奴がいない。そんな中ノックが聞こえたのだ俺は少し緊張する。
となると、教会の関係者か俺を捕まえに来る兵士とかになるだろう。
「ど、どうぞ。鍵は開いてる」
「では、入りますークロウ君おはよう」
ああ、知り合いで一番礼儀正しい子いたわ。
アリシアだ。
そのアリシアの周りには誰もいない。
「ってか……男性の部屋に1人で来るの良くないぞ?」
「あれ。クロウ君今日は機嫌がいいんだね」
「あー師匠とあったからかな……もっともこっちの世界の師匠は並行世界の師匠に吹き飛ばされてどこにいるか謎だけど」
「教えてあげよっか」
アリシアが突然変な事を言うので思わずその顔を見る。
アリシアの瞳は髪と同じ水色ベース。その青い部分に吸い込まれそうな錯覚が起きた、とっさに壁に手を当て倒れないようにする。
「誰だ?」
アリシアとの距離は7歩ほど。
一気に行けば倒す事は出来るだろう。
「誰ってアリシアだよ?」
「アリシアは俺を呼ぶときはダーリンって呼ぶんだよ」
「じゃぁダーリン」
「……………………アリシアBだろ」
「正解!! すごいよくわかったね」
違和感を追求するとそれしか可能性が無いから。
「じゃぁダーリン入っていいかな?」
「……頼むから普通にしゃべってくれ。ごめんなさい」
「恋人みたいで楽しいのに。じゃぁお久しぶりクロウベル君」
アリシアBは部屋に入ると近くの椅子に座った。
「クウガ君を引き取りに来たんだけど、迷惑かけてないかな?」
「クウガってBで合ってる?」
「それ以外いるの?」
微笑んでいるんだけどちょっと怖い。
「めっちゃ迷惑かけてるけど、そもそもなんでクウガBはこっちの世界に来てまで俺を殺そうとするんだ? 師匠Bはまだわかるよ? 俺がイケメンでカッコよくて師匠にゾッコンだから寂しい師匠Bは嫉妬して俺をもってこうとかさ」
「うわぁ先生の話所は凄い早口だね」
冷静な分析は辞めてほしい。
「一応理由はあるんだよ?」
アリシアは椅子から立ち上がると突然に服を脱ぎだした。
しかも下から。
別にフェチじゃないけど、思わずその太ももを見てしまう。
「えっちっ」
「あのねぇ……とにかく脱がない! こんな所他の人に、もしくはこっちのアリシアに見られたら──」
「クロウ君おはよう! 今日は本選だ──」
ノックもしないアリシアが扉を開けてきた。
マナーを守るような知り合いは俺にはいないらしい。
アリシアAとアリシアBはお互いに固まり、どちらかと言うとアリシアBに余裕そうな顔がある。
「クロウ君!」
「はい。ごめんなさい!!」
アリシアAに殴られるのを恐れてとっさに謝ると、俺よりもアリシアBに近寄るアリシアA。
その太ももを見ると直ぐにアリシアBの上半身を触りだす。
「あっクロウ君。後ろ向いて」
「うい」
俺は言われた通り壁を見る。
どちらかのアリシアの声なのか、小さく吐息が聞こえてきた。
正直エロイ。
「もういいよ」
「うい」
ダブルアリシアを見比べる。
魔力というか少し陰があるほうがアリシアBかな? こっちのアリシアは太陽のような感じがする。そうなると対比してアリシアBは月か。
「クロウ君。クウガB君がこっちの世界に来た理由がわかったよ!」
そう言うのはアリシアA。聖女のほうだ。
「と、言うと」
「呪いだね」
「さすが私。見ただけで分かるだなんて、そういう事なの」
どういう事だよ。
「だめだよ、クロウ君は察しはいいけど頭が良くないから」
「そうだったんだね」
あの、ダブルで俺を落とすの辞めて。
「ほら拗ねちゃった」
「拗ねてない」
アリシアBが「私の口から説明させて」と言うと口を開く。
「本当は証拠見せながら話そうと思ったんだけど……簡単に言うとねクロウ君の命がいるの」
ほえー……俺の命か。
「って…………ええ」
「回復する時に変な魔力が吸い込んだみたい。異質であり強力な魔力は私の体に呪いをかけた。クウガ君はそれを治せる唯一の魔女と出会い、その解決方法を模索する。そこで問題になったのがクロウ君の魔力、クウガ君はクロウ君と出会ってその魔力が私に移ったって考えたの」
俺の魔力はウィルスか何かかかな?
でも、信じられないけど理屈は通る。
蛇など猛毒がある奴は抗体を持っており、その抗体から薬を作ったりする。
師匠が俺の頭だけほしいってのも、体は使うからか。
「私はクロウ君を殺してまで生きたいって言ってないんだけど……先生とクウガ君が盛り上がって。そんな事よりも少ない命を2人で過ごしたいのに」
アリシアBが俺に文句を言うが、そういうのは本人に……って本人に言っただろうな。
「アリシア」
「はーい」
「なにかな?」
2人で振り向いた。
「AでもBでも回復魔法でどうにかならないの?」
「なったらここにいないと思うな」
「回復するならクウガ君こっちの世界に来ないと思うの」
ごめんって。
2人で俺に怒らなくても。
「と、いうわけだから私は隠れ家に帰るね。こっちの世界に来るのにも魔力使っちゃって……クウガB君にあったら約束の場所いこって伝えて」
アリシアBはふらつきながら部屋を出ていこうとした。
すぐにアリシアAがその体を支える。
ちらっとアリシアAが俺を見るので、静かにうなずくと2人とも消えていった。
1人なった俺は色々落ち込む。
「どうしろと」
死にたくはない。
が、アリシアBも死なせたくない。
俺の頭だけじゃ考えが追い付かん、俺よりも頭いい師匠がそういうんだそういう事なんだろう。
「なんで俺を転生させた……というか前世の記憶戻ってしまったのかねぇ。戻らなければクウガに殺されて何も問題なかったはずなんだよなぁ」
いやまてよ。
師匠Bは俺の頭だけあれば向こうで体を再生させるんだし、それをこっちでやればよくない?
と、なれば今度は師匠Bを探さないといけない。
「だあああ! 肝心な時にいないんだから」
俺がベッドから飛び起きると教会にいる人が俺に試合の時間だ。と教えてくれた。
──
────
郊外にある特別闘技場。
関係者入口から入り馬車を降りると何人もの人間が忙しそうに動いている。
その中で元気そうなクウガは俺を発見して近寄って来た。
「クロウベルさん!」
「クウガAだよな」
「もちろんそうですけど、それより直ぐに試合開始ですよ。逃げたんじゃないかって係の人も探していたんですから」
「え。時間通り来たよ」
「1人選手が来なくて試合が繰り上がったんです、急いでください」
クウガAに引っ張られて闘技場のリングに押し出された。
観客の声がすごくて思わず耳をふさぐ、クウガAはそのままセコンドの場所についた。
「え。クウガがセコンドなの?」
「はい! 絶対にタオル投げません」
「危険になったら投げてくれよ」
クウガAは俺に親指を立てて見せる。
何の合図だ何の。
「で、俺の相手は誰」
リング反対側を見るとセコンドはアレキ皇子だ。
いつもの冷静そうなメイドが横にいては耳打ちしてるのが見える。
リングに上がって来たのはボロボロのローブをまとった顔の見えない男。
顔は見えなくとも何度も剣を交えただけあって誰かわかる。
「お前かよ…………」
ローブ姿の男がフードとともに姿を見せた。
クウガB。
殺意ましましの目で俺を見ると観客がざわめく。
そりゃそうだろう、俺の後ろにもクウガがいるんだし。
審判がクウガBの事をクウガの生き別れの兄弟の可能性があると紹介すると会場は盛り上がる、審判が笛を吹くとクウガBは一気に間合いを詰めてきた。




