第307話 余計な一言
「師匠成分が少しだけ補充された……生き返りました」
先ほどまでイライラしてたのに少し穏やかになった感じがする。
そんな仏のような心になった俺に対して師匠Bは般若の顔にだ。
「あの。…………メルギナスさん……いや師匠B怖い顔なんですけど」
「なぜわかったのじゃ? 同じメルギナス。お前への接し方など言葉使いも完璧じゃった」
「…………感」
答え合わせをすると、抱きついた時にほんとに誤差なんだけど違ったんだよね。
ぷにってする部分が多かった。
並行世界の師匠はちょっと訓練をさぼり気味なのかもしれない。
こっちの師匠は俺とイチャイチャするのに隠れて訓練してるからな。
俺も気を抜いたら死ぬんじゃないか? って時あるので俺も訓練をするし。
後は本当に何かか違ったのだ。
魂がそう言ってるような。
「ふう……よもや見破られるとはな。入れ替わり作戦が台無しじゃ」
「本当に入れ替わるなら種明かししないで押し切ればよかったんじゃ? 元は同じなんですし騙されたかもしれませんよ?」
マジックボックスから冷えたワインを取り出して師匠Bが座るベッド、その近くのテーブルにグラスとともに置いた。
師匠Bはワインを開けながら話し出す。
「なに。元々こっちのワラワに成りすまして接近ってのも嫌じゃったしの、見破られたのであれば辞めるつもりじゃった」
「さようで」
師匠Bが入れてくれたワイングラスは2つ、そのうち1個を俺は手渡しで貰う。
そのまま近くの椅子に座ると背もたれを前にして師匠を眺めた。
「なんじゃ。隣にくればいいじゃろうに」
「同じ師匠なので間違いがあったら困るなって」
「ほれ」
師匠Bがペロンとワンピースのスカートを持ち上げる。
見慣れた下着が丁度もう、そりゃばっちりに見えた。
「ぶっはっ!」
「ほれほれほれほれ」
「ちょ!」
師匠Bは上機嫌だし、俺の気分も上がっていく。
黒く少し透けた下着が見放題だ。
「で、このピンクの空気をどうするんです?」
「襲えばええじゃろ」
「いやぁ、こっちの師匠に悪いですし」
「……そういう所じゃな。さて本題としようかのう」
スン。と真面目になった師匠Bは目つきも鋭く少し不機嫌になる。
「こっちのワラワと戦う事数日。こっちの……面倒じゃお主と同じ師匠Aとでもいうのじゃ。あっちはワラワを元の世界に戻そうと禁術を使い、ワラワもそうならないように禁術を対抗して、こっちの世界の師匠Aが飛んで行ったのじゃ」
すごい申し訳なさそうに言ってきた。
「でな。ワラワも悪いと思って……お主に合うように師匠Aの真似をして」
「いやダメでしょ!?」
「いい案と思ったのじゃが」
「師匠Bの考えは? 師匠Aはどこに」
「向こうの世界化、こっちの世界か……すぐに帰ってこない事を見ると中々に難儀なんじゃろ。その死んでいたらすまんのじゃ」
師匠Bが俺に両手を合わせる。
これが他の人なら俺も全力で殺し合いするよ。師匠の仇だって……でも、謝ってるほうも師匠なわけで。
「あーもう」
「慰めてやろうなのじゃ?」
「……いや、いいです。師匠Bとこれ以上深い仲になると師匠に悪いですし」
「同じワラワじゃからわかるのじゃが、ワラワは別にそんな事思わんと思うのじゃ」
確かに。
この数年。師匠の事を『好きだ』って連呼しても『好意』こそ受け取ってくれるか、受け取った後に別の女とくっついたら? と平気で言う。
なんだったら関係を持った今でも『今からでもミーティアに乗り換えたらどうじゃ?』などベッドの中で言って来る始末だ。
やだよ……最低限義妹どまりなら可愛いけどミーティアが恋人とか色々終わってる。
そんな師匠の考えはアリシアそっくりだ。
………………あれ?
クウガってアリシアの性格で困っていたよな。
関係を持ちたいのに、他の女性とくっつけようとするって。
アリシアの師って先生なわけで、アリシアの恋愛感覚ってもしかして師匠が原因でぶっ壊れたのか?
「お主もイヤイヤ言いながらちゃんとワラワの胸を揉むのじゃな」
はっ!?
好きにしていいって言われたから、つい胸を揉んでしまった。
揉まれてるほうの師匠Bの顔もまんざらでもない。
ちょっと押したらそのまま流れで合体できそう。
いや出来るだろうな……師匠Bって俺に手を出してくるぐらいだし。
叫び師匠Bから距離を取る。
師匠Bは俺を見ては胸ちらをしてくる、卑怯な。
「ほーれ、美味しそうな桃じゃぞ」
もう少しで頂上にある祠まで見えそうだ。
って何の話なんの!
「それ以上すると本気怒りますよ」
「ふむ。それはワラワとしても不本意なのじゃ。まぁ時間はたっぷりある」
「ってか、探しに行きますけど。場所は?」
「大会はどうするのじゃ?」
そんなのは決まってる。
「棄権しますけど、師匠と大会じゃ師匠のほうが大事ですし」
「出たほうがいいじゃろ。クウガはお主と戦うためだけにこっちの世界に来たのじゃ」
「俺に言わせれば迷惑ですけどね」
「そう言うななのじゃ。この際一緒にに向こうの世界に来たらどうじゃ?」
「気持ちは嬉しいですけど、先に会ったほうの師匠が好きですし」
「ワラワを2度も降るのじゃな。ふん。せいぜいクウガと戦って潔く死ね」
師匠Bは悪態をつくと部屋を出ていった。
ひどくない?
師匠Aを行方不明にしておいて、クウガに殺されろっていうんだもん。師匠Bじゃなかったら俺キレてるよ。
──
────
帝国城サンの住居エリア。
師匠Bを見送った後に俺はサンを尋ねに来た。
応接室で待っていると、汚れた作業着を着たサンが部屋に入って来た。
俺を見るなり珍しそうな物をみたような口調で喋りだす。
「あら。有名人さん、こんな場所に何の様ですの?」
「どういう意味。赤ん坊は?」
「メーリスが散歩に行かせてますわ。有名人というのは貴方が武術大会などお遊び大会にでて予選を勝ち抜いたと兄から聞いてますのよ」
「なるほどね」
赤ん坊はメーリスが散歩って事は育児放棄ってやつか。
サンは王位をつく予定無いだろうけどその子供は違う。今の内からの英才教育かもしれん。
「先に言いますけど、昨日はわたくしが散歩に連れて行ってますからね」
「あっそうなの? てっきり」
「その口縫いましょうか?」
「アリシアじゃないんだから冗談はやめて。それよりも飛空艇貸して」
「………………本気で言ってますの?」
「本気本気。大会終わった後でいいから」
クウガBがどこから来たかはわからないけど、師匠Aも師匠Bもこの辺で戦った様子はない。
と、言う事は転移に関する魔法や場所はここじゃない場所。
さらに言うと場所が遠いという事は足がないのだ。
師匠Bは何も言わなかったので、クウガBを倒して聞くしかない。
って事で事前に予約をしに来たわけだ。
「貴方には恩があるので、それぐらいは良いですけど……また壊されるのは困りますわね」
「そこを何とか! 何だったら片道でもいいってか飛行機1機あればそれでいいし」
「ひこう……き?」
あっやべ。
余計な事言った。
魔力で動く飛空艇はあっても、化学で動く飛行機はまだないのだ。
「たっだいま! メイドで今は育成隊長メーリスただいま期間。おや? これはこれは巷で人気が出てるクロウベル君じゃないの」
「メーリス! この馬鹿を捕まえてくださしまし!! 新技術の予感よ!!」
「ぬあっ!? クロウベル君これ受け取って!」
メーリスが俺に向けて赤ん坊を投げてきた。
「馬鹿!!」
俺はその赤ん坊をキャッチすると、サンに回り込まれロープでぐるぐると捕まえられた。
「メーリス。子供を投げるなど後で減給しますわ」
「ええ!?」
驚いてるけど当たり前だろ。
仕方がない。
「子供も返すし暴れないからロープ解いてくれる? あと1つ言いたい」
「なんですの?」
「多分試作1号機で壊れるぞ」
絶対という事はないけど、俺がこの世界に落とし込む技術は何の因果が壊れるのだ。サンもメーリスも心当たりあるのだろう、動きが止まった。
俺の貰った飛空艇が壊れる事数回。
最後には木っ端みじんまでなった……もう『壊れるし奇跡の調整が無理なので作れません』と言われた。
次に俺が聖騎士団経由で借りた車。
これも俺が壊した、また作ればいいじゃんって思ったらこっちも設計図が複数個所間違っていたらしく2号機は完成しなかった。と聞いた。
「…………わかってますわ! それでも作るのが技術屋ですわ!!」
「さすがサンよく言ったね! このメーリスも同じ思いよ!!」




