第306話 不機嫌になっていく男
予選突破確定し会場にある休憩スペースでアリシア達と談笑する。
ミーティアは俺にかみついて来る、物理的に。
「痛いんだけど」
「ミーティアちゃんの心はもっと痛いんですけどー!」
「ミーティアちゃん、クロウ君噛むと病気になっても知らないよ?」
「ぺっぺっぺっぺ! アリ姉ちゃんミーティアちゃん病気になりたくない!!」
「ならねえよ!」
まったくアリシアも何て事いうんだ。
そのアリシアはミーティアに諭すように喋りだす。
「でもクロウ君手加減してたよ? エメルダさんとの試合すごかったでしょ? 最初から剣を使われていたらミーティアちゃんだって怪我が大変よ」
「うう。アリ姉ちゃんの意地悪、そうっぽいけどさー」
そこに「何の悪だくみかしら?」とエメルダが近寄って来た、手には箱がありテーブルの上に置くとドーナッツなのをミーティアが開けて確認している。
「それよりも、一言いいたいわ!」
なんだ。
少し怒ってってる。
「何が?」
「念のために知り合いの神父やシスターなどに見てもらったけど呪いも霊もついてないわ!」
ああ、その話か。
だって嘘だもん。
「いやぁ俺が見た時は見えたようなきがしたんだけどな」
「この嘘つき、戦場で会ったら覚えておきなさいよ」
「会わないから大丈夫だ」
うん。
こういう時クウガは凄いなって改めて思う。
女性1人でも大変なのに、こうして女性パーティーでも立ち回るんだから。
「情報戦だよ情報戦、そんな怒らなくても」
「そうなんだけど。最後の間合いも完全に読み間違えたわね……最初に間合いを見せてそれを超えるとか詐欺よ詐欺」
滅茶苦茶いわれるけどその詐欺師に負けたくせに。
「で。そのエメルダは何の用?」
「あら、あなたのお仲間になるのに許可はいるのかしら?」
「いる」
数秒の沈黙のあと、アリシアが「クロウ君」と圧とかけてきた。
「そもそも俺じゃなくて仲間を求めてるならクウガの所にでもいったほうがいいよ? 何してるか知らないけど」
「ああ、彼ね……」
何か含みのある言い方だ。
どこぞで女性でもひっかけてるのか、クウガならあり得る。
「でも少し遠くから監視させてもらったけど貴方でも聖女に弱いのね、人間らしくて安心したわ」
「どういう意味だ」
まるで俺が化物みたいな言い方である。
「言葉通りの意味よ。あーあーこれでもギルドで一番強かったんだけどね。どこかの流れ者には負けるし、クウガ君にも負けるし、ギルドの予算は削られるし、この数年いい事無いわよ」
「生きてるだけでいい事だよ」
「そうね」
俺の直接の知り合いは死んでないだけの世界だ。
だからこそ無難に生きたい。
こんなクソみたいな大会出たくないのに、まぁクウガと戦うだけで以前の損害は払わなくていいって言われてるしもう少し我慢だ。
俺の顔が強引に引っ張られる。
引っ張っているのはアリシア。
「ひゃに?」
「クロウ君怖い顔してるよ? ほら笑顔笑顔」
俺がアリシアの指を退けるとアリシアは笑みを浮かべる。
なんだろう、周りの空気が変な感じになる。
普通のスキンシップなきもするけど。
「アリ姉ちゃんって変態ちゃんの事好きなの?」
ちょ!?
何言うんだこのお子様格闘娘は!!
「全然」
「ミーティア。また電気アンマされてほしいのか?」
「ひぃ!?」
ミーティアはアリシアの後ろに隠れる。
俺もしたくはないけど、今度師匠にやってみほほほほ。
「クロウ君顔がえっちだよ?」
顔が痛い。
俺がアリシアを見るとアリシアは俺の顔から手を退けてくれた、そのまま会場を見回してると遠くにきょろきょろしてるクウガを発見。
誰かを探しているようなので俺が大きくてを上げると、クウガは俺達に気が付いた。
人ごみを抜けて俺達の前に現れると少し息が荒い。
「あっエメルダさん……いや、それよりもクロウベルさん。探しました」
「あら……」
ん? 今のエメルダとの不自然な会話は何だ。
え、もしかしてもうマナ・ワールドの性獣クウガ発動した後か?
ちらっとアリシアを見るとアリシアはドーナッツを飲み込むの所だ。
「何?」
「何って事は無いでしょ……クロウベルさんに頼まれてメルさんを探していた所ですよ」
「あっ! 見つかった!? あのおっぱい星人」
「…………僕が言う事でもないんですけど、そのうちメルさんに殺されますよ」
「師匠に殺されるなら本望」
周りがまた静かになる。
俺が「冗談なんだけど」と、付け加えるとそれぞれが口を開く。
「笑えません」
「変態ちゃんなら」
「クロウ君の目が本気」
「ぞっとするわね」
貴重な意見ありがとうよ。
「で。クウガ、師匠はどこ?」
「あっはい。まったく見つかりません」
「殴っていい?」
腹を押さえてしゃがんでるクウガに上から声をかけた。
「う……殴る前に聞きません? 普通……僕の言い方が悪かったのは認めますけど……」
「クロウ君、先生がいないからって少しカリカリしすぎだよ?」
「変態ちゃん怖い……」
「今のは君が悪いな」
あまりにも笑顔で言うから気づいたらクウガの腹を殴っていた。
「マジでごめん」
だめだな。
もしかして俺って師匠がいないと性格が狂暴になるのかもしれん。
「僕だって時間を使って調べたんですけど」
「クロウ君」
「何?」
アリシアが少し真面目そうな顔で俺を見てきた、その後ろではミーティアが3個目のドーナッツを口に含んでるのが見える。
「あんまりクウガ君をイジメないでね」
「イジメてはいない」
──
────
とりあえず皆に祝勝され教会へと帰る。
もはや自分の部屋のようになった部屋に入り椅子に座った。
やる事が多すぎて俺の頭がふっとーしちゃうよ。
「ええっと、まずクウガAと戦って大会を盛り上げる。次にクウガBと戦って遺恨をなくす。ってか戦って遺恨が無くなるなら戦争なんて起きないって言うの。もっと先に師匠を探したいけど大会中で抜けれない。と……この3つか」
俺が考え込んでいるとノックもなしに扉が開かれた。
鍵をかけてないのは俺が悪いけど突然開けてくる馬鹿がいるとは思わなかった。
「どこの馬鹿、ノックぐらいいしろってまさかの師匠!?」
「馬鹿で悪かったのじゃ、ええい! 腹から顔を離さんかっ!! こ、こら……やめ……」
反射的に抱きついていた俺が怖い。
「あっそうですね」
俺はすぐに離れて椅子に座った。
手を振り上げては赤い顔をしている師匠が体を硬直させているのが見える。
「師匠座らないんですか?」
「………………そうじゃな」
「何か怒ってません?」
「何もなのじゃ!」
怒ってるじゃん。
「怒った顔も好きなんですけど」
「お主、そういう所だぞ……」
「褒めてるのに。ってか帰ってこなくてどこ行っていたんです、心配したんですけど」
「すまなかったのじゃ。並行世界のワラワが強くての」
そりゃそうでしょう。
同じ力を持っているんだし。
「で、こっちの世界の師匠Aはどこです?」
「なっ…………んじゃと……」
俺の質問に師匠Bは呆れた顔をしはじめた。




