第304話 予選一回戦vs格闘馬鹿娘
パール帝国の街から少しだけ離れた所に出来た闘技場。
楕円形の形で収容人数は驚きの10000人以上。
地球での記憶で言えば少なく見えるかもしれないが結構な大きさだ。
東京ドームで5万人だったような。
あまり遠いと試合会場みえないし。
これを半月で作るんだから帝国の財力と力はやっぱりすごい。
数多くの職人や観客。
それを見込んだ飲食店や宿。
本当にお祭りだ。
大会参加者は延べ100人ほど。
本選に残れるのは20人。
クウガAはシード、クウガBも裏工作で本選からのスタートになっている。
逆に俺は目立ちたくもないし予選から。
予選会場ですら何人も応援や様々な人が要る。
俺の相手はミーティア。
赤いチャイナドレスに下半身はひらひらの付いた奴。
おパンツが見えちゃうでしょ! って心配は不必要な黒いスパッツを履いていた。
「ってか出るのかよ!」
「ミーティアちゃんも名声がほしい!! 有名になりたい!!」
「…………そういう願望あったんだね」
俺が石リングの上でそういうとセコンドの部分から応援が飛ぶ。
「2人とも頑張ってね」
「アリ姉ちゃんどっちの味方! ミーティアちゃんだけを応援して!!」
「ふふ。2人とも頑張ってね」
俺のセコンド部分をちらっと見る。
メイド服を着た女性……といってもアンジュではなく。その女性と中年の男がいる。
「ふむ。クロウベルよがんばってねー」
「さすが主人、応援にも気品が入っています」
隣のメイドは応援してきた男を褒めている。
メイドってなんであんなのしかいないの? 旅行中のアンジュを思い出した。
ちゃんと別れたかったが、俺のトラブルの際中にいつの間にか帝都から離れていた。大会が始まったらまたくるとか、手紙にあったような。
「きも! 頼むから喋らないでくれる!? 手を抜かないように俺を監視するのは良いんだけどさ!! なぁ《《アレキ皇子》》さんよ!!」
周りが突然ざわざわしだす。
そりゃそうだろう、俺みたいな男に帝国の皇子がセコンドで着いているのだ。
アレキは苦虫をつぶした顔になる。
「きさま……こっちはお忍びで来てやってるというのに」
「何がお忍びだ、十分目立つし、もう俺だって目立ちたくなかったのに」
「変態ちゃん勝負はこっち!! 早く始めようよ」
始めたくはない。
「が、仕方が無いか」
俺がリング中央に立つと審判が合図する。
ちなみに試合のルールとしては、よくあるルール。
リングの上から出ない、落ちたら負け、髪などはOKで頭以下が落ちての判定あり。
武器の持ち込みはあり。
上位魔法の禁止、これは結界が張って会って不可能との事。
セコンドシステム、白いタオルを投げ込む事で棄権も出来る。
《《死んでも文句を言わない》》
言わない。というか《《死んだら言えない》》。
審判が笛を吹くと試合開始だ。
まずミーティアが俊敏な動きで俺へと攻撃をしてくる。
上半身をばねのように後ろそらしての渾身のパンチだ。
俺は腕をクロスしてガードするとそのまま後ろに下がってリングの上をゴロゴロとのたうち回る。
「いってええええええ!! 折れた! 折れたから!! 骨折れたって!?」
油断してた。
これでもミーティアは『あのクウガパーティー』の一員なのだ。
弱いはずがない。
助けを求めるように周りを見ても誰も助けてくれない。
審判だけが「棄権しますか?」とだけ目で訴えてくる。
「いっくよー!」
「来るなよ!」
俺は『癒しの水』を唱え骨折をなんとかヒビ程度までもっていく。
それを見たミーティアがすごい不満そうだ。
「ああああ!!! 審判ちゃん!! あれインチキだよね!? 魔法だよ魔法!! 回復してる!!」
「インチキじゃねええ! ルール読んだが? 結界内で使える魔法であれば使用OKだって」
「…………そうなの!? アリ姉ちゃん!!」
アリシアが頷くとミーティアに「ほらよそ見しないの」と忠告をしている。
ミーティアが振り返ると俺の蹴りが入る所だ。
「うわわわ、あっぶない!」
ミーティアも俺の攻撃を後ろに下がって回避しては距離を取る。
まいったな。
戦いに関してはミーティアもなかなかに上手い。
対格闘タイプに有効なのはリーチの長さ、だから俺も剣や魔法を使えばいいんだけど……知り合いを斬るの? それも女の子だよ?
即死じゃない限り回復は大丈夫っていうけどさ……この大会のルールで言うと、セコンドはタオルを投げない場合プラス挑戦者は負けを認めない時を想定する。
…………となると死ぬしかなくない?
特に俺のセコンドのアレキなんて絶対にタオル投げないぞ。
アリシアもミーティアの気持ちを汲んでタオル投げないだろうし。
ここから先は殺し合いの時間だぜ、ひゃっはー! 状態。
俺は連続で来る攻撃を回避しながらいろいろと考える。
「うがあああ!! 変態ちゃん逃げないでよ!!」
「逃げるに決まってるだろ! 当たると骨折れたりするんだし」
「全然こっちみてないし!!」
「見ないとかわせないからそれは違う」
ミーティアは不満そうにすると、チャイナ服の中なら赤い篭手を取り出した。
「ばっ! 赤竜の篭手!!」
「えええええ! なんで知ってるの!? ナイちゃんに貰ったのに!! 誰も見た事はないって……」
赤竜の篭手。
装備品でありながら手の先から炎の弾を出せるレアアイテムだ。
魔法が使えない格闘タイプでも安心だね。という親切。
「まぁクロウ君だし」
「あいつだしな」
両方のセコンドから諦めた声がする。
これってイジメか?
時間をかければかけるほど不利か。
「ミーティア。降参しろ」
「え? するわけないじゃん変態ちゃん馬鹿なの?」
ミーティアが連撃で攻撃してくる。
顔すれすれに炎の弾が飛んできては髪の毛を焦がす。
はげたらどうするつもりだ。
「忠告はしたからなっ!」
「突進!? でも攻撃あたるもんねぇー!」
まっすぐにミーティアに突進すると、ミーティアが赤竜の篭手を付けた拳で何もない所をパンチする。
炎の弾が飛んでくるも俺はそれをかわそうとしない。
「にゃ!?」
顔が焼けようか体から煙がでようがお構いなしに近づき、その両足首をタックルすようにつかむ。
ミーティアは転ぶと背中を打ち付け、頭だけは打たないように浮かせている状態だ。
俺はすぐに足首を持ったまま立ち上がるとミーティアと目があった。
「忠告はしたからな」
「ほえ? え……ミーティアちゃんピン、ぴいいいいいいい!?」
俺は無言でミーティアの股間部分に足を置いて振動させた。
暴れようとするも両足首を俺は絶対に離さない。
赤竜の篭手を使った炎の弾も飛んでくるが、俺に大やけどを負わせるだけで俺は手を離さない。
むしろ足の振動を大きくする。
「まった。で、でちゃう! 出るから!!」
「降参するか?」
「こ……やだ!!」
「うあっあっ……も、もうダメ」
スパッツの色が変わりだす。
ってか、この状態でもタオルを投げないアリシアも凄い。
俺は足でする股間のマッサージを止めた。
「さて……濡れたのは脱がないとな」
「ぴえ……? え……」
俺はスパッツを引っ張ろうと力を入れるとミーティアの絶望した顔が見えた。
「こうさん!! まけ。アリ姉ちゃん!!!」
「はい。クロウ君ストップ!!」
アリシアは白いタオルを投げ、そのタオルがリングに落ちたのを確認して俺は両手を離した。
健闘をたたえた試合だ。
俺は握手をミーティアに申し込んだら、ミーティアがおびえた顔で逃げていく。すぐにアリシアから大きなタオルを貰ってリングから降りて行った。
「ひどいんだねクロウ君は」
「勝ったのに悪者!? ああ、セコンドがアリシアだからか」
「もう。……次は聖女としての仕事するね。傷は? 腕の骨折や顔の火傷が酷かったけど……すごい、もうほとんど治ってる……でも、まだ目の所が濁ってる……よくこれで攻撃したね。痛いでしょ?」
「全然」
実は滅茶苦茶痛い。
頭が割れそうなぐらい。それも再生能力でゆっくりと痛みは減っているけどさ。
「ひと目もあるから一応かけてくれる?」
と、いうのも俺がゾンビとか思われたくないから。
俺はアリシアからハイリザレクションをかけてもらって予選1回戦を突破した。




